「どんな人に来てほしいか」をはっきりさせる【定着する採用】2

感覚採用を防ぐための事前準備

前回は、採用で最も大切なのは「ミスマッチを防ぐこと」だとお伝えしました。
そのためには、面接で「自社に合う人を見極める」という視点が欠かせません。

しかし、実際の面接ではどうでしょうか。
面接が終わった後、「どうでしたか?」と聞かれて、「なんとなくいい人でした」「感じが良かったです」という曖昧な感想で終わってしまうことはありませんか?そして結局、「まあ、採用してみましょうか」という流れで決まってしまう。

こうした「感覚採用」が起きる原因は、面接の前に「どんな人に来てほしいか」が明確になっていないからです。
判断の基準が曖昧なままでは、どれだけ丁寧に面接をしても、結局は印象や雰囲気に左右されてしまいます。

一方で、事前にしっかり準備をしておけば、面接の精度は格段に上がります。
「この人は、うちの会社に合いそうか」「期待している働き方ができそうか」といった判断が、感覚ではなく根拠を持ってできるようになるのです。

面接の成否は、事前準備で9割決まると言っても過言ではありません。
今回は、採用準備の段階でミスマッチを防ぐための具体的な方法をお伝えします。

採用の第一歩は「言葉にする」ことから

採用活動を始めるとき、「いい人がいれば採りたい」という気持ちで進めることがよくあります。
たしかに、その気持ちは自然なものです。しかし、この「いい人」という言葉が曖昧なままでは、採用はうまくいきません。

なぜなら、「いい人」の定義は、人によって大きく違うからです。
ある面接官は「経験豊富で即戦力になる人」を思い浮かべ、別の面接官は「素直で育てやすい人」を想像する。
さらに別の人は「明るくて場を盛り上げてくれる人」を期待しているかもしれません。
つまり、同じ「いい人」という言葉でも、頭の中に描いているイメージはバラバラなのです。

こうした認識のズレを放置したまま面接を進めると、評価もバラバラになります。
面接後に意見を出し合っても、「私は良いと思った」「いや、私はちょっと不安」と食い違いが生まれ、結局は誰かの意見に押し切られる形で採用が決まってしまう。これでは、採用の精度は上がりません。

曖昧な採用基準がもたらすリスク

採用基準が曖昧なまま採用を進めると、面接でも一貫性が失われます。
たとえば、面接官Aは「経験があるかどうか」を重視して質問するのに対し、面接官Bは「人柄が良いかどうか」を見ている。
応募者からすれば、何を期待されているのか分からず、戸惑いを感じることもあるでしょう。

さらに、採用後にもリスクがあります。
会社側が「こういう働き方をしてほしい」と期待していることが明確でなければ、採用された人も「何を求められているのか分からない」と感じてしまいます。
たとえば、経営者は「積極的に意見を出してほしい」と思っていても、現場のリーダーは「まずは言われたことを確実にやってほしい」と考えている。このズレに気づかないまま採用を進めると、入社後に「期待していたのと違う」という不満が双方から出てきてしまいます。

言語化すると面接官全員の目線が揃う

こうしたズレを防ぐには、「どんな人に来てほしいか」を言葉にすることが必要です。
言葉にすることで、採用基準が明確になり、面接官全員が同じ方向を向いて評価できるようになります。

たとえば、「素直で、分からないことをそのままにせず質問できる人」「チームで協力しながら進められる人」といった具体的な言葉にすれば、面接でどんな質問をすればいいかも自然と見えてきます。
「過去に困ったとき、どうやって周りに相談しましたか?」「チームで意見が割れたとき、どう対応しましたか?」といった質問が、採用基準と直結するのです。

また、言葉にすることで、採用後の期待も伝えやすくなります。
面接の段階で「うちの会社では、こういう働き方を大切にしています」と具体的に説明できれば、応募者も「自分に合いそうか」を判断しやすくなり、ミスマッチを減らすことができます。

つまり、「どんな人に来てほしいか」を言葉にすることは、面接の質を高めるだけでなく、採用後のトラブルを防ぐための第一歩なのです。次に、その『言葉にする』ための具体的なステップを見ていきます。

求める人物像を明確にするための3ステップ

「どんな人に来てほしいか」を言葉にするといっても、何から始めればいいのか分からないという声をよく聞きます。そこで、ここでは3つのステップに分けて、具体的な進め方をお伝えします。

業務内容を具体的に書き出す

まず最初にやるべきことは、採用したい人に任せたい仕事を具体的に書き出すことです。
「事務職」「現場作業」といった大まかな枠組みだけでなく、実際にどんな業務を、どんな流れで進めてもらうのかを整理します。

たとえば、事務職を採用する場合なら、「データ入力」「電話対応」「来客対応」「書類整理」「備品管理」「簡単な経理補助」など、業務の範囲をできるだけ細かく挙げていきます。さらに、1日の流れや、繁忙期と閑散期での違いも書き出しておくと、よりリアルな仕事のイメージが見えてきます。

このとき大切なのは、「この仕事は誰にお願いするのか?」を明確にすることです。事務職といっても、電話対応が中心なのか、パソコン作業が中心なのかで、求められる適性は変わってきます。業務内容を整理することで、「どんなスキルや姿勢が必要なのか」が自然と見えてくるのです。

また、この作業は面接での説明にも役立ちます。応募者に「具体的にどんな仕事をするのか」を伝えられれば、入社後のギャップを減らすことができます。

期待する成果と成長の姿を描く

次に、採用した人に「どうなってほしいか」を具体的にイメージします。
入社後3ヶ月、半年、1年といった節目ごとに、どんな成長を期待しているのかを描いてみましょう。

たとえば、入社後3ヶ月では「基本的な業務の流れを覚えて、一人でできるようになってほしい」、半年後には「周囲に確認しながら、ある程度自分で判断して動けるようになってほしい」、1年後には「後輩に教えられるレベルになってほしい」といった具合です。

ここで重要なのは、即戦力を求めるのか、それとも育てる前提なのかをはっきりさせることです。
即戦力を求めるなら、経験やスキルを重視した採用基準になります。一方で、育てる前提であれば、経験よりも「素直さ」や「学ぶ姿勢」を重視することになるでしょう。

また、「一緒に働きたい姿」を具体的にイメージすることも大切です。「こんな風に仕事を進めてくれたら嬉しい」「こんな場面で頼りになる人だったらいいな」といったイメージを言葉にすることで、面接での質問内容も自然と決まってきます。

現場社員の意見を取り入れる

採用基準を作るとき、経営者や採用担当者だけで考えてしまうことがよくあります。
しかし、実際に一緒に働くのは現場の社員です。だからこそ、現場の意見を取り入れることが欠かせません。

現場のメンバーに、「どんな人だと助かる?」「どんな人だと続きやすいと思う?」といった質問をしてみましょう。
現場で働いている人は、日々の業務の中で「こういう人だと仕事が進めやすい」「こういう姿勢があると周りも安心する」といった具体的なイメージを持っています。

たとえば、「分からないことをそのままにせず、すぐに聞いてくれる人がいいです」「忙しいときでも、協力して動いてくれる人だと助かります」といった声が出てくるかもしれません。こうした現場のリアルな意見は、採用基準を作る上で非常に貴重な材料になります。

また、経営者の理想と現場のリアルをすり合わせる機会にもなります。
経営者は「積極的に意見を出してほしい」と思っていても、現場は「まずは基本をしっかり覚えてほしい」と考えているかもしれません。
こうしたズレに気づかないまま採用すると、入社後に混乱が生まれてしまいます。事前にすり合わせることで、採用後のトラブルを防ぐことができるのです。

この3つのステップを踏むことで、「どんな人に来てほしいか」が明確になり、面接での質問も評価も一貫性を持って進められるようになります。次の章では、この内容を整理するための「簡易ジョブディスクリプション」の作り方をお伝えします。

職務整理表の作成例

前の章で、業務内容や期待する成果、現場の意見を整理してきました。
次にやるべきことは、それらをまとめて「見える形」にすることです。ここで役立つのが、「職務整理表」です。

職務整理表とは、仕事内容と求める人材像を整理した表のことです。大企業では細かく作り込むこともありますが、中小企業では難しく考える必要はありません。A4用紙1枚に、必要な情報をシンプルにまとめるだけで十分です。

記載する項目

職務整理表に記載する項目は、主に次の4つです。

業務内容では、実際に任せたい仕事を具体的に書き出します。
たとえば、「データ入力」「電話・来客対応」「書類整理」「備品管理」といった具合です。1日の流れや、繁忙期の業務についても触れておくと、応募者がイメージしやすくなります。

期待する成果では、この人にどんな結果を出してほしいかを言葉にします。
たとえば、「正確で丁寧な事務処理」「社内外との円滑なコミュニケーション」「期限を守った業務遂行」などです。ここを明確にすることで、面接でも「どんな場面で力を発揮してほしいか」を伝えやすくなります。

必要なスキルでは、業務に必要な技術や知識を挙げます。ただし、「必須」と「あれば良い」を分けて考えることが大切です。
たとえば、「Word・Excelの基本操作」は必須としても、「経理ソフトの経験」は「あれば良いが、入社後の習得でも可」といった形で柔軟に設定します。

重視する姿勢・性格では、スキル以上に大切にしたい要素を書きます。
「報連相ができる」「細かい作業を丁寧にできる」「チームで協力できる」といった姿勢や、「誠実さ」「柔軟性」「責任感」といった性格面を明示します。

作成例:事務職の場合

実際に作成してみると、次のようになります。

業務内容:データ入力、電話・来客対応、書類整理、備品管理

期待する成果:正確で丁寧な事務処理、社内外との円滑なコミュニケーション、期限内の業務遂行

必要なスキル:Word・Excelの基本操作(入社後の習得も可)、ビジネスマナーの基礎

重視する姿勢:報連相ができる、細かい作業を丁寧にできる、チームで協力できる、分からないことをそのままにせず質問できる

このように整理しておけば、面接でも「どんな質問をすればいいか」「どんな姿勢を確認すればいいか」が明確になります。応募者にとっても、求人票だけでは伝わりにくい仕事のイメージが具体的に見えるようになります。

小さく作って、あとで育てる

ここで大切なのは、完璧を求めすぎないことです。最初から細かく作り込もうとすると、時間がかかりすぎて採用活動が進まなくなってしまいます。まずは「A4用紙1枚」にまとめる感覚で、必要最小限の情報を整理しましょう。

そして、採用活動を進めながら、「この項目があった方が良かった」「この表現だと伝わりにくい」といった気づきをもとに、少しずつ改善していけば良いのです。つまり、「小さく作ってあとで育てる」という発想が大切です。

職務整理表は、一度作れば終わりではありません。採用のたびに見直し、現場の意見を取り入れながら更新していくことで、採用の精度は確実に上がっていきます。次の章では、面接当日に向けた準備のチェックリストをお伝えします。

面接官の準備チェックリスト

職務整理表を作り、「どんな人に来てほしいか」が明確になったら、次は面接当日に向けた準備です。
面接官が事前にどれだけ準備をしているかで、面接の質は大きく変わります。ここでは、面接当日までに確認しておくべき4つのポイントをお伝えします。

質問内容の整理

まず、面接で何を聞きたいのかを整理しておきましょう。
職務整理表を作る過程で、「人柄」「柔軟性」「価値観」といった確認したい要素が明確になっているはずです。それをもとに、どんな質問を、どんな順番で聞くかを考えます。

このとき、質問を2種類に分けて考えると整理しやすくなります。
一つは、自由に話してもらう質問です。たとえば、「今まで働いてきた中で、一番やりがいを感じたのはどんなときですか?」といった、相手の考え方や価値観が見える質問です。
もう一つは、確認のための質問です。「Excel は使えますか?」「シフト勤務は対応できますか?」といった、事実を確かめる質問です。

両方をバランス良く組み合わせることで、スキルと人柄の両面を確認できる面接になります。

評価基準の共有

面接官が複数いる場合は、事前に評価軸を統一しておくことが重要です。一人は「人柄重視」、もう一人は「スキル重視」というように、見ているポイントがバラバラだと、面接後に意見がまとまらなくなってしまいます。

そこで、職務整理表をもとに、「今回の採用では、人柄・柔軟性・協調性を特に重視しましょう」といった形で、評価の軸を事前にすり合わせておきます。こうすることで、面接後の意見交換もスムーズに進み、採用判断の精度が上がります。

自社の説明内容の準備

面接は、応募者のことを知るだけでなく、会社のことを伝える場でもあります。そのため、自社の説明内容も事前に準備しておきましょう。

たとえば、「うちの会社はこんな雰囲気で、こういう働き方をしています」「チーム構成はこうなっていて、こんな人たちと一緒に働きます」といった説明を簡潔にまとめておきます。また、応募者が不安に感じやすいポイント、たとえば「最初の1ヶ月はどんなサポートがあるのか」「分からないことがあったら誰に聞けばいいのか」といった情報も、あらかじめ用意しておくと良いでしょう。

こうした説明を丁寧に行うことで、応募者は「この会社は自分のことを考えてくれている」と感じ、入社意欲が高まります。

応募者への配慮

面接は、応募者にとって緊張する場です。だからこそ、面接官側が配慮することで、相手が本来の姿を見せやすくなります。

まず、履歴書は面接の前に必ず読み込んでおきましょう。面接中に初めて履歴書を見ながら「えっと、前職は何をされていたんですか?」と聞くのは、相手に「準備不足だな」という印象を与えてしまいます。事前に読み込んでおけば、「前職では営業をされていたんですね。その中で一番印象に残っている経験を教えてください」といった、踏み込んだ質問ができます。

また、面接の雰囲気づくりも大切です。最初から厳しい表情で質問を投げかけると、応募者は萎縮してしまい、本来の姿を見せられなくなります。まずは軽い雑談から始めて、リラックスできる空気をつくる。そうすることで、相手も自然に話しやすくなり、より深い対話ができるようになります。

面接の準備をしっかり整えることで、面接官自身も自信を持って臨むことができます。次の章では、準備が整ったら、次は質問のつくり方を学んでいきましょう。

ポイント

面接の質を左右するのは、当日の対応だけではありません。むしろ、事前の準備こそが採用の成否を決めると言っても過言ではないのです。

「どんな人に来てほしいか」が曖昧なままでは、面接で何を確認すればいいのか分からず、結局は「なんとなくいい人」という感覚で採用してしまいます。一方で、求める人物像を言葉にし、職務整理表にまとめ、質問内容や評価基準を事前に整えておけば、面接はぐっと引き締まったものになります。

業務内容を具体的に書き出し、期待する成果や成長の姿を描き、現場の意見も取り入れる。そうして出来上がった職務整理表は、面接の質問を考える際の道しるべになり、応募者への説明にも役立ちます。さらに、面接官同士で評価軸を共有し、自社の説明内容を準備しておくことで、面接は一貫性のある、納得感のあるものに変わります。

準備をしっかり整えることで、面接官自身も自信を持って臨むことができます。「この人は、うちの会社に合いそうか」という判断が、感覚ではなく根拠を持ってできるようになるのです。

次回は、準備が整ったら、次は「質問のつくり方と使い方」について詳しくお伝えします。どんな質問をすれば相手の考え方や姿勢が見えてくるのか、逆に避けるべき質問は何なのか。面接の核心部分に踏み込んでいきます。


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