中小企業の経営者・人事担当者の皆様、2025年は育児・介護休業法の大きな転換点となります。
4月の改正に続き、10月には「柔軟な働き方を実現するための措置」が新たに義務化されます。特に10月施行の改正内容に焦点を当て、企業の実務担当者向けに分かりやすく解説します。
法改正の背景と目的
少子化対策の強化
我が国の出生数は2023年に80万人を下回り、少子化に歯止めがかからない深刻な状況が続いています。この危機的状況に対応するため、政府は仕事と育児の両立支援を強化する方針を打ち出しました。
仕事と育児・介護の両立支援
共働き世帯の増加への対応
育児期の働き方の柔軟性確保が重要課題となっています。子の看護や柔軟な勤務体制の整備により、安心して子育てできる環境整備が必要です。
介護離職の防止
年間約10万人が介護を理由に離職している現状を踏まえ、介護離職を防止するための環境整備が急務となっています。介護休業等の制度を利用しやすい職場づくりが求められています。
制度の拡充
子育て支援の強化
- 子の看護休暇の対象年齢拡大(小学校3年生修了まで)
- 所定外労働制限の対象拡大(小学校就学前まで)
- 育児期の柔軟な働き方を実現するための措置の導入
介護支援の充実
- 介護休暇の取得要件緩和
- 40歳到達時の情報提供義務化
- 介護休業等の申出円滑化のための措置義務化
これらの改正により、男女ともに仕事と育児・介護を両立できる社会の実現を目指しています。
2025年育児・介護休業法改正の全体像
2025年の育児・介護休業法改正は、4月と10月の2段階で実施されます。
4月施行分
- 子の看護休暇の対象年齢拡大:小学校就学前から小学校3年生修了までに
- 子の看護休暇の取得事由拡大:学校行事参加や感染症による学級閉鎖等も対象に
- 所定外労働制限の対象拡大:3歳未満から小学校就学前の子を養育する労働者に
- 短時間勤務制度の代替措置の拡充:フレックスタイム制、テレワーク等も可能に
- 育児休業取得状況の公表義務拡大:従業員301人以上の企業に適用
- 介護休暇の要件緩和:継続雇用期間要件(6ヶ月)の撤廃
10月施行分
- 柔軟な働き方を実現するための措置の義務化:3歳から小学校就学前の子を養育する労働者向け
- 個別周知と意向確認の義務化:3歳未満の子を養育する労働者向け
- 意向聴取と配慮義務:妊娠・出産申出時と子が3歳になる前
10月施行「柔軟な働き方を実現するための措置」の詳細
事業主による措置義務
3歳から小学校就学前の子を養育する労働者に対し、以下の5つの選択肢から2つ以上の措置を選択して提供する必要があります。
- 始業時刻等の変更
- フレックスタイム制
- 時差出勤
- 始業・終業時刻の繰上げ・繰下げ
- テレワーク等
- 月10日以上実施可能なテレワーク制度
- 在宅勤務、サテライトオフィス勤務等
- 保育施設の設置運営等
- 事業所内保育施設の設置・運営
- 保育サービス費用の助成
- ベビーシッターの手配支援
- 養育両立支援休暇の付与
- 年10日以上の特別休暇
- 時間単位での取得も可能
- 有給・無給いずれも可
- 短時間勤務制度
- 原則として1日6時間の勤務時間
- 複数のコースから選択可能な制度も可
個別周知と意向確認の義務化
3歳未満の子を養育する労働者に対して、以下を実施する必要があります。
- 周知時期:子が3歳の誕生日の1か月前までの1年間
- 周知事項:選択した措置の内容、申出先、所定外労働制限等の制度
- 周知方法:面談、書面交付、FAX、電子メール等のいずれか
意向聴取と配慮義務
事業主は以下の時期に労働者の意向を聴取し、配慮する必要があります。
- 妊娠・出産申出時
- 子が3歳になる前の適切な時期
- 聴取内容:勤務時間帯、勤務地、両立支援制度等の利用期間等
よくある質問と回答
Q1: 2025年4月からの子の看護休暇の拡充について、具体的な対象年齢はいつまでですか?
A1: 子の看護休暇の対象年齢は、現行の「小学校就学の始期に達するまで」から「小学校3年生修了まで」に拡大されます。取得可能日数は従来通り、年5日(子が2人以上の場合は10日)です。
Q2: 子の看護休暇の取得事由に新たに追加される「感染症による学級閉鎖等」とは、具体的にどのような場合が含まれますか?
A2: 子どもの通う保育所や学校で感染症による学級閉鎖が実施された場合に加えて、入園式・卒園式等の学校行事への参加も新たな取得事由として認められます。なお、取得可能日数の範囲内で、これらの事由と従来の病気・けがの看護や予防接種・健康診断の受診を組み合わせて取得することも可能です。
Q3: 所定外労働の制限について、対象となる子の年齢が拡大されますが、具体的な請求方法は変わりますか?
A3: 請求方法自体は変更ありません。1回につき1か月以上1年以内の期間について、開始日の1か月前までに申し出る必要があります。対象年齢が3歳未満から小学校就学前までに拡大されますが、事業主は事業の正常な運営を妨げる場合を除き、所定労働時間を超えて労働させることはできません。
Q4: 育児休業取得状況の公表義務の対象企業が拡大されますが、具体的な公表方法や時期は決まっていますか?
A4: 公表は年1回、公表前事業年度の終了後おおむね3か月以内に行う必要があります。公表方法はインターネットなど、一般の方が閲覧できる方法で行います。公表内容は、男性の「育児休業等の取得率」または「育児休業等と育児目的休暇の取得率」のいずれかを選択して公表することになります。
Q5: 介護休暇の継続雇用期間要件が撤廃されますが、その他の除外規定は残りますか?
A5: 労使協定による除外規定のうち、「継続雇用期間6か月未満」の要件は撤廃されますが、「週の所定労働日数が2日以下」の労働者を除外できる規定は引き続き維持されます。
Q6: 養育両立支援休暇とは具体的にどのような休暇ですか?
A6: 養育両立支援休暇は、3歳から小学校就学前の子を養育する労働者に対して、年10日以上付与する特別休暇です。子どもの学校行事参加や急な発熱など、育児に関する様々な事由で取得できます。時間単位での取得も可能で、有給・無給いずれも認められますが、労働者が利用しやすい制度設計が重要です。
実務対応のポイント
制度設計のポイント
- 労働者のニーズを把握した上で、実際に利用しやすい制度を選択
- 業務への影響を最小限に抑える運用ルールの設計
- 部門間の公平性に配慮した制度設計
導入・運用のポイント
- 管理職への十分な説明と研修の実施
- 制度の周知と利用促進のための積極的な情報提供
- 利用実態の定期的な把握と必要に応じた見直し
労使コミュニケーションのポイント
- 制度設計段階からの労働者の意見聴取
- 制度導入後の定期的なフィードバック収集
- 利用者・非利用者双方への配慮
なお、本記事の内容は2024年12月時点の情報に基づいています。
具体的な運用方法については、今後厚生労働省から詳細が示される予定です。
中小企業への影響と対応策
本改正は中小企業と従業員の双方に大きな影響を与えることが予想されます。
企業への影響と対応策
1. 多様な勤務形態の管理負担増加
- フレックスタイム、テレワーク、短時間勤務など複数の制度を同時に運用する必要性
- 労働時間管理の複雑化、特にテレワークやフレックスタイム制度での適正把握が課題に
- 対策:労務管理システムの導入・強化、管理職への研修実施
2. コスト面への影響
- テレワーク導入のためのIT環境整備、セキュリティ対策費用
- 保育施設設置・運営や保育サービス費用助成の場合の負担
- 養育両立支援休暇導入に伴う代替要員確保や業務分担見直しコスト
- 対策:両立支援等助成金の活用、段階的な設備投資計画の策定
3. 制度設計と社内体制への影響
- 就業規則等の改定作業:複数の両立支援措置に関する規定整備
- 評価・処遇制度の見直し:多様な働き方に対応した公平な評価制度の構築
- 対策:早期からの計画的な制度設計、従業員ニーズ調査の実施、専門家(社労士等)への相談
4. チームマネジメントの変化
- メンバーが異なる勤務形態で働く中での業務分担やコミュニケーション方法の再構築
- 対策:部門横断的なプロジェクトチームによる制度設計、管理職への研修実施
従業員への影響とメリット
1. 仕事と育児の両立強化
- 3歳から小学校就学前の育児期における柔軟な働き方の実現
- 子どもの急な発熱や学校行事への参加がしやすくなる
- メリット:育児による離職リスクの低減、家族とのより良い関係構築
2. キャリア継続と能力発揮
- 育児期のブランクを最小限に抑えられる
- 離職せずに働き続けることでスキル向上の機会を保持
- メリット:長期的な収入・キャリアの安定、将来のキャリアオプションの拡大
3. 心理的影響
- 会社のサポートを実感することによる安心感
- 支援してくれる会社への信頼感・ロイヤリティ向上
- メリット:メンタルヘルスの向上、モチベーション維持、生産性向上
4. 多様な働き方の選択
- 家族のスケジュールに合わせた勤務形態の選択が可能に
- 異なる働き方を経験することによる視野拡大
- メリット:ワーク・ライフ・バランスの向上、自己効力感の向上
企業と従業員の双方にとっての対策
- 相互理解と対話の促進
- 企業:従業員の個別事情を理解し、柔軟に対応できる風土づくり
- 従業員:業務への影響を最小限にする工夫と周囲への配慮
- 共通:定期的な面談や意見交換の場の設定
- 効果的な制度活用のための工夫
- 企業:各部門の業務特性に応じた制度設計と運用ガイドラインの作成
- 従業員:自身のライフスタイルに最適な制度の組み合わせ検討
- 共通:デジタルツールを活用した効率的な情報共有と進捗管理
- 長期的視点での取り組み
- 企業:人材確保・定着のための重要投資として位置づけ
- 従業員:ライフステージの変化を見据えた長期的なキャリアプラン構築
- 共通:定期的な制度の見直しと改善サイクルの確立
この改正により、労働市場の流動性が高まる中、中小企業は「選ばれる会社」であり続けるための戦略が不可欠となります。
改正内容を正確に理解し、先手を打った対応を行うことが、今後の企業経営において重要な課題となるでしょう。
育児休業制度に関する詳細情報は、厚生労働省の育児休業制度特設サイトをご覧ください。
企業の皆様が法改正に適切に対応できるよう、上本町社会保険労務士事務所でのご相談も承っております。
ぜひお気軽にお問い合わせください。

