中小企業の経営者・人事担当者の皆様、2025年4月から育児・介護休業法が大きく変わります。この改正に向けた準備はできていますか?
近年の調査によると、約40%の企業が育児・介護休業制度の運用に課題を感じているとされています。さらに、テレワークの導入や柔軟な働き方への対応に苦慮している企業も少なくありません。
改正の背景と必要性
- 少子高齢化と人口減少への対応
日本の生産年齢人口は減少の一途をたどっており、2025年には総人口の約30%が65歳以上になると予測されています。この状況下で、育児・介護と仕事の両立支援は喫緊の課題となっています。 - 多様な働き方の推進
コロナ禍を経て、テレワークやフレックスタイム制など、柔軟な働き方への需要が高まっています。法改正はこうした社会変化に対応するものです。 - 男性の育児参加促進
依然として低い水準にある男性の育児休業取得率。2025年までに30%という政府目標達成に向け、さらなる後押しが必要です。 - 介護離職の防止
年間約10万人が介護を理由に離職しているという現状。介護と仕事の両立支援は、人材確保の観点からも重要な課題です。
この改正は、こうした社会的要請に応えるとともに、企業の持続的成長と労働者のワーク・ライフ・バランスの実現を目指すものです。本記事では、改正の詳細と実務対応のポイントを分かりやすく解説していきます。
育児・介護休業法の基礎知識
定義と目的
育児・介護休業法は、正式名称を「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」といいます。この法律の主な目的は以下の通りです:
- 労働者が育児や家族の介護を理由に離職することなく、仕事と家庭生活を両立できるよう支援すること
- 男女ともに仕事と育児・介護を両立できる環境を整備すること
- 少子高齢化に伴う労働力人口の減少に対応すること
現行制度の概要
育児・介護休業法では、主に以下の制度が定められています:
- 育児休業制度:原則1歳未満の子を養育するための休業
- 介護休業制度:要介護状態の家族を介護するための休業
- 子の看護休暇制度:子どもの看護のための休暇
- 介護休暇制度:家族の介護のための休暇
- 所定外労働の制限
- 時間外労働の制限
- 深夜業の制限
- 所定労働時間の短縮等の措置
これらの制度は、労働者からの申し出に対して、会社は正当な理由なく拒否することができません。
法的根拠
法的根拠
育児・介護休業法は、労働者の仕事と家庭の両立支援を目的とした法律です。主な制度の法的根拠は以下の通りです。
育児休業制度は、育児・介護休業法第5条から第9条の2に規定されています。
介護休業制度については同法第11条から第16条に定められています。
子の看護休暇と介護休暇は第16条の2から第16条の6に、
所定外労働の制限は第16条の8と第16条の9に規定があります。
また、時間外労働の制限は第17条と第18条に、深夜業の制限は第19条と第20条に定められています。
これらの規定により、労働者の権利が保護され、企業には適切な制度運用が求められています。
2025年4月改正のポイント
2025年4月改正のポイント
育児関連の改正内容として、まず子の看護休暇の見直しが挙げられます。
従来の通院等の付き添いに加え、学校行事への参加等も取得理由として認められるようになります。
また、所定外労働の制限の対象が拡大され、3歳以上小学校就学前の子を養育する労働者も対象となります。
短時間勤務制度の代替措置としては、フレックスタイム制度や始業・終業時刻の繰上げ・繰下げ、テレワークが新たに認められます。さらに、育児を行う労働者の両立支援のため、事業主にはテレワーク導入の努力義務が課されます。
育児休業取得状況の公表義務も拡大され、従業員301人以上の企業に適用されるようになります。
介護関連では、介護休暇の要件が緩和され、より柔軟な取得が可能になります。また、企業には介護休業等に関する研修実施や相談体制の整備など、雇用環境整備が義務付けられます。介護休業制度等の個別周知や休業取得の意向確認も強化されます。
育児と同様に、介護を行う労働者の両立支援のため、テレワーク導入の努力義務が事業主に課されます。
これらの改正により、育児・介護を行う労働者の柔軟な働き方がさらに促進され、仕事と家庭生活の両立支援が強化されることになります。
よくある質問と回答
Q1: テレワーク導入の「努力義務」とは具体的にどの程度の対応が必要ですか?
A1: 努力義務は法的な強制力こそありませんが、企業として積極的な取り組みが期待されています。まずはテレワーク導入の可能性について社内で検討を行い、可能な部署や職種から段階的な導入を検討することが望ましいでしょう。特に、従業員のニーズ調査や課題の洗い出しから始めることをお勧めします。完全導入が難しい場合でも、検討プロセスや部分的な導入の記録を残しておくことが重要です。
Q2: 育児休業取得状況の公表は、どのような形式で行えばよいですか?
A2: 公表方法としては、自社のウェブサイトでの掲載が一般的です。また、厚生労働省が運営する専用サイトや年次報告書等の公表資料への記載も認められています。公表する内容には、男女別の育児休業取得率や取得者数、平均取得期間などが含まれます。具体的な様式については、今後厚生労働省から示される予定です。
Q3: 短時間勤務制度の代替措置としてテレワークを導入する場合、どのような点に注意すべきですか?
A3: テレワークを代替措置として導入する際は、労働時間の管理方法と業務の進捗管理方法を明確にすることが最も重要です。また、通信環境や機器の整備、情報セキュリティ対策の実施も必須となります。テレワーク中の労働者とのコミュニケーション方法についても、事前に具体的な方針を定めておく必要があります。なお、テレワークが困難な業務がある場合は、フレックスタイム制度などの他の代替措置と組み合わせて対応することも検討に値します。
Q4: 介護休暇の要件緩和により、どのような場合に取得が可能になりますか?
A4: 改正後は、要介護状態にない家族の通院の付き添いや、介護サービスの利用に関する手続き、介護施設の見学など、より幅広い状況での取得が可能になると予想されます。ただし、具体的な要件については、今後厚生労働省から詳細なガイドラインが示される予定となっています。企業としては、このガイドラインに基づいて、適切な運用基準を設定することが求められます。
Q5: 所定外労働の制限の対象拡大により、どのような影響が予想されますか?
A5: 所定外労働の制限対象が3歳以上小学校就学前の子を養育する労働者にも拡大されることで、企業の業務運営に大きな影響が予想されます。特に、残業を前提とした業務計画の見直しが必要となり、業務の平準化や効率化がこれまで以上に重要になってきます。また、人員配置や採用計画の見直しが必要になる可能性もあり、対象となる労働者とそれ以外の労働者との間での業務分担の調整も慎重に行う必要があります。これらの影響を見据えて、早めの対策を講じることが望ましいでしょう。
相談窓口のご案内
行政機関による支援窓口
都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)では、育児・介護休業法に関する相談を受け付けています。制度の詳細や運用方法について、無料で相談することができます。
両立支援等助成金の相談窓口
テレワーク導入や両立支援に関する助成金について、都道府県労働局の助成金担当窓口で相談を受け付けています。
働き方改革推進支援センター
中小企業向けに、制度設計や就業規則の見直しなど、具体的な対応について無料でアドバイスを受けることができます。
なお、本記事の内容は2024年12月時点の情報に基づいています。今後、政省令等で具体的な内容が定められる可能性がありますので、最新の情報にご注意ください。
中小企業への影響と対応策
本改正は中小企業と従業員の双方に大きな影響を与えることが予想されます。
企業への影響と対応策
柔軟な働き方の導入
- 3歳以上小学校就学前の子を持つ従業員への柔軟な働き方を実現するための措置が義務化される。
- 対策:従業員のニーズを把握し、テレワークやフレックスタイム制度の導入を検討する。
所定外労働の制限対象拡大
- 残業免除の対象が小学校就学前の子を養育する労働者に拡大。
- 対策:労働時間の管理を強化し、業務分担やスケジュール調整を行う。
育児休業取得状況の公表義務
- 従業員301人以上の企業に育児休業取得状況の公表義務が拡大。
- 対策:公表方法や内容を事前に準備し、透明性を確保する。
介護休暇の要件緩和
- 介護休暇取得がより柔軟に行えるようになる。
- 対策:介護休暇制度について周知し、利用促進に努める。
従業員への影響とメリット
ワーク・ライフ・バランスの向上
- 子の看護休暇や育児休業の取得がしやすくなることで、家庭と仕事の両立が可能に。
- メリット:育児や介護による離職リスクが低減し、安心して働ける環境が整う。
キャリア形成の機会拡大
- 柔軟な働き方が実現されることで、従業員はスキルアップやキャリア形成を図りやすくなる。
- メリット:長期的なキャリアプランを描くことができ、モチベーション向上につながる。
心理的負担の軽減
- 制度利用への心理的ハードルが下がり、安心して育児・介護に取り組むことができる。
- メリット:職場での理解促進により、孤立感や不安感が軽減される。
企業と従業員の双方にとっての対策
この法改正は、企業にとって新たな制度運用を求める一方で、従業員にはより良い働き方を提供する機会となります。
企業は制度設計や周知を通じて柔軟な働き方を実現し、従業員は自ら積極的に制度を活用することで、両者が共に成長できる環境づくりが求められます。法改正への適切な対応は、人材確保・定着の強化につながり、企業の持続的成長を支える重要な経営戦略となります。
育児休業制度に関する詳細情報は、厚生労働省の育児休業制度特設サイトをご覧ください。
企業の皆様が法改正に適切に対応できるよう、上本町社会保険労務士事務所でのご相談も承っております。
ぜひお気軽にお問い合わせください。

