ニュースレター【20250331】労働契約書の正しい作成方法とその重要性

皆様、こんにちは。上本町社会保険労務士事務所の4月ニュースレターをお届けいたします。

新年度を迎え、人事労務管理の見直しを検討されている企業様も多いことと存じます。
今回は、企業経営の基盤となる「労働契約書」について、その重要性と正しい作成方法をご紹介いたします。

労働契約書の基本と重要性

労働契約書は単なる形式的な書類ではなく、労使間の権利と義務を明確にする重要な法的文書です。適切に作成された労働契約書があれば、将来的なトラブルを未然に防ぎ、健全な労使関係を築くことができます。

労働契約書が必要な理由

  • 労働条件の明確化:賃金・労働時間・休日・勤務地などを明示し、双方の認識のズレを防ぎます
  • 企業と労働者の信頼関係構築:労働者は自身の権利や義務を把握でき、安心して働くことができます
  • トラブル防止のための証拠:未払い賃金や労働時間に関する紛争を防止できます

法的義務としての労働契約書
労働基準法第15条では、雇用者は労働条件を明示しなければならないと定められており、違反すると行政指導や是正勧告の対象となります。2020年の法改正により、電子契約も有効となりましたが、電子署名など適切な手続きが必要です。

労働契約書の作成手順

記載すべき基本事項

  • 契約期間:有期契約か無期契約かを明確に記載
  • 労働条件:労働時間・賃金・休日などを具体的に記載
  • 勤務地:「○○事業所勤務」など具体的に記載し、転勤の可能性がある場合はその条件も明記

契約期間の設定方法

  • 有期契約:開始日と終了日を明確に記載し、更新の有無や条件も明記(5年以上の有期契約は無期転換の対象)
  • 無期契約:終了条件が特にない場合は、契約が継続する旨を明示

労働条件の明示方法

  • 労働時間:始業・終業時間、休憩時間、所定労働時間、残業の有無を明記
  • 賃金:基本給・手当・賞与・昇給のルール、支払い方法、支払い日を具体的に記載
  • 休日・休暇:週休2日制の適用、法定休日、年次有給休暇の付与基準を明示

労働契約書の法的側面

労働契約書は労働契約法や労働基準法に基づいて作成する必要があります。これらの法律に反する内容は無効となる可能性があります。

労働契約法のポイント

  • 労働条件の明示義務
  • 労働条件の変更には労働者の合意が必要
  • 有期契約の更新・無期転換ルール

労働基準法との関係
労働基準法は最低限の労働条件を定めており、契約書はこれを下回ることはできません。特に労働時間(1日8時間、週40時間)や解雇に関するルールは重要です。

トラブル防止のポイント

よくあるトラブル事例

  • 業務内容が明確でないことによる業務範囲の認識相違
  • 契約期間の不明確さによる契約終了時のトラブル
  • 口頭での労働条件変更による後のトラブル

労使紛争を未然に防ぐポイント

  • 労働条件を具体的かつ明確に記載する
  • 法律に基づいた内容で作成する
  • 契約締結前に十分な説明と対話を行う
  • 契約内容に変更がある場合は速やかに書面で合意を取る
  • 契約書の内容を定期的に見直す

よくある質問

Q: 労働契約書と労働条件通知書の違いは何ですか?
A: 労働契約書は雇用契約の成立を証明する書類で双方の合意内容が含まれます。労働条件通知書は法律で定められた最低限の労働条件を通知するものです。

Q: 労働契約書を電子化する際の注意点は?
A: 電子署名の利用、データの改ざん防止策の実施、労働者がアクセスしやすい形式での保存が重要です。

Q: 契約書を作成しない場合のリスクは?
A: 労働条件に関する誤解やトラブルが発生しやすくなり、給与や労働時間などに関する紛争の可能性が高まります。

Q: パートタイムやアルバイトの場合も労働契約書は必要ですか?
A: はい、雇用形態に関わらず労働契約書の作成は必要です。労働条件を明確にし、労働者の権利を守るために重要です。

適切な労働契約書の作成は、企業の安定した経営と従業員の権利保護を両立させる重要なツールです。法改正や社会情勢の変化に合わせて定期的に見直し、健全な労使関係の構築にお役立てください。

上本町社会保険労務士事務所の「労働契約書の正しい作成方法とその重要性」からもご確認いただけます

【最新の雇用・労働関連ニュースピックアップ】

最低賃金1500円「対応不可能・困難」7割 中小企業調査
最低賃金を1500円に引き上げることについて、中小企業の約7割が「対応不可能・困難」と回答したことが調査で明らかになりました。政府が掲げる最低賃金引き上げ目標に対して、中小企業の多くが経営上の懸念を示しています。人件費の上昇が経営に与える影響について検討が必要であり、特に中小企業では生産性向上や価格転嫁などの対応策を早急に検討する必要があります。この調査結果は、今後の最低賃金政策の議論にも影響を与える可能性があります。
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業界マニュアル作成を 東京都がカスハラ防止で手引き
客による理不尽な要求や暴言などの迷惑行為「カスタマーハラスメント」防止条例が4月から施行されるのを前に、東京都は3月4日、各業界団体がマニュアルを作成する際に参考にしてもらうための手引きをホームページで公表しました。都は、各業界団体がカスハラの特徴や対応を示す会員事業所向けマニュアルを作成することを推奨しており、策定上のポイントなどを示す手引きを用意しました。手引きはカスハラ発生時、対面、訪問、電話、インターネット上などの場面を想定した対応方針の検討を求め、事例を示しながら場面ごとの留意点を紹介しています。
ニュースソース: 福祉新聞Web, 2025年3月19日

アマゾン配達員を労災認定 個人事業主、弁護団「2例目」
インターネット通販大手アマゾンジャパンの商品配達を個人事業主(フリーランス)として委託され、配達中に負傷した男性が宮崎労働基準監督署から労災認定されました。個人事業主として契約していても、実態として労働者性が認められるケースが増えています。この事例は、業務委託や請負契約を活用している企業にとって重要な判断材料となります。人事担当者は、契約形態と業務実態の乖離がないか見直し、適切な労務管理体制の構築を検討する必要があります。
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男女間賃金差異 要因分析ツールを作成――厚労省
厚生労働省が企業における男女間の賃金格差の要因を分析するためのツールを作成しました。このツールを活用することで、企業は自社の賃金体系における男女格差の原因を特定し、改善策を講じることができます。男女間賃金差異の要因を分析することは女性活躍に関する課題分析やより効果的な女性活躍の取組につながります。特に中小企業向けに開発されたこのツールは、同業種・同従業員規模の企業平均データと比較することで自社の女性活躍に関する強みや課題を明らかにすることができます。
ニュースソース: 厚生労働省, 2025年3月3日

令和7年4月1日から現物給与価額(食事)を改正
令和7年4月1日より、現物給与価額(食事)が改正されます。厚生年金保険および健康保険では、被保険者が勤務する事業所より労働の対償として現物で支給されるものがある場合は、その現物を通貨に換算し報酬に合算したうえ、保険料額算定の基礎となる標準報酬月額を求めています。食事や住宅である場合は、「厚生労働大臣が定める現物給与の価額」に定められた額に基づいて通貨に換算されます。
ニュースソース: 社会保険研究所, 2025年3月25日

正社員の転職が最多、24年99万人 若手ほど賃金増加
2024年の正社員の転職者数が99万人と過去最多を記録しました。特に若手ほど転職による賃金増加が顕著であり、人材確保・定着のための賃金政策を検討する必要があります。この傾向は、労働市場の流動性が高まっていることを示しており、中小企業にとっては人材流出のリスクと同時に、新たな人材獲得の機会でもあります。若手人材を中心に、自社の賃金水準や評価制度、キャリアパスの見直しが急務となっています。
ニュースソース: 日本経済新聞

1月の実質賃金1.8%減 3カ月ぶりマイナス、物価高加速
厚生労働省が公表した1月の毎月勤労統計調査によると、物価変動を考慮した1人当たりの実質賃金は前年同月比1.8%減で、3カ月ぶりのマイナスとなりました。コメや生鮮野菜など食料品を中心とした物価高が影響しています。名目賃金は上昇していても実質的な購買力が低下している状況は、従業員の生活満足度や士気に影響を与える可能性があります。中小企業の人事担当者は、この動向を踏まえた賃金政策の検討が求められています。
ニュースソース: 共同通信

【助成金・補助金情報】

キャリアアップ助成金(正社員化コース)の支給額変更について

令和7年度の変更点

令和7年度からキャリアアップ助成金(正社員化コース)の支給額が大幅に見直されます。現行制度では有期契約労働者を正社員に転換した場合、中小企業に対して1人あたり80万円(2期に分けて各40万円)が支給されていますが、令和7年度からは対象者によって支給額が異なる仕組みとなります。

支給額の変更内容

【重点対象者】支給額:80万円(変更なし)
以下のいずれかに該当する方を正社員化する場合は、現行通り80万円(第1期40万円、第2期40万円)が支給されます。

  • 雇入れから3年以上の有期雇用労働者
  • 雇入れから3年未満でも過去から不安定雇用が継続している労働者
  • 人材開発支援助成金の対象訓練を受けた者
  • 派遣労働者
  • 母子家庭の母または父子家庭の父

【上記以外の対象者】支給額:40万円(半減)
重点対象者に該当しない有期雇用労働者を正社員化する場合は、第1期分の40万円のみの支給となり、実質的に支給額が半減します。

変更の背景

この変更は、厚生労働省の令和7年度予算概算要求において示されたもので、キャリアアップ助成金全体の予算規模も令和6年度の1,106億円から962億円へと約15%減少しています。長期的に不安定な雇用状態にある労働者や特に支援が必要な対象者への支援に重点を置く方針への転換と考えられます。

企業の対応策

正社員化を検討している企業は、対象者が重点対象者に該当するかを確認し、該当しない場合は令和7年3月31日までに正社員転換を完了することで、現行の支給額を受けられる可能性があります。また、人材開発支援助成金の対象訓練を実施することで、重点対象者として80万円の支給を受けられる可能性もあります。

なお、正社員化の際には、賃金が減額されていないことや、就業規則に必要な規定が整備されていることなど、他の支給要件も引き続き満たす必要があります。


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