「突然の退職で業務が止まってしまった」「退職した社員がSNSで会社の悪評を書き込んでいる」――。
近年、このような「リベンジ退職」と呼ばれる問題が企業経営に影響を与えています。
リベンジ退職とは、職場環境への不満や会社への思いを背景に、企業に意図的な影響を与えることを目的とした退職行動です。
終身雇用の変化、働き方の多様化、SNSの普及など社会環境の変化を背景に、従来とは異なる形での退職行動が見られるようになっています。リベンジ退職の実態から予防策、実際の対応方法まで解説します。
人材の採用・定着が大切な時代だからこそ、この課題への理解を深め、適切な対策を考えることが重要です。
第1回:リベンジ退職とは何か?企業が直面する新たな課題
リベンジ退職とは、職場環境への不満や会社への思いを背景に、企業に意図的な影響を与えることを目的とした退職行動を指します。通常の退職と異なり、事前の告知なく突然退職を申し出ることや、業務の引き継ぎを意図的に行わないなど、企業活動に影響する行動を伴います。
主な特徴として、①突然性と意図性(事前の相談や告知なく突然の退職届提出、即日退職の申し出)、②業務への影響(重要な業務の引き継ぎ不足、業務マニュアルやデータの未整理)、③情報発信による影響(SNSでの企業についての発信や内部情報の共有、匿名での口コミサイトへの書き込み)が挙げられます。
この課題が注目される背景には、終身雇用の変化、働き方の多様化、SNSによる情報発信の日常化、世代間の価値観の違いなどがあります。特にコロナ禍を経て、テレワークの普及による物理的な距離、業務の可視化・効率化の課題、メンタルヘルスの問題などが新たに加わっています。
企業が直面する影響はさまざまです。即時的な業務影響(重要業務の中断、顧客対応や納期への影響)、組織への影響(チーム内の業務負担増加、残る社員のモチベーションへの影響)、企業イメージへの影響(SNSでの情報拡散、採用市場での評判)、長期的な経営への影響(採用コストの増加、人材育成投資の課題)などが考えられます。
特に中小企業では、代替人材の確保の難しさ、一人当たりの業務範囲の広さ、個人に依存した業務が多いなどの理由から、影響がより大きくなる傾向があります。リベンジ退職の影響に対して、事前の予防策と発生時の対応策の両面から、適切な取り組みを行うことが大切です。
■詳しくは→第1回:リベンジ退職とは?企業が気をつけるべきこと
第2回:リベンジ退職の背景と従業員の視点
リベンジ退職の背景には「静かな解雇」が関係している場合があります。静かな解雇とは、従業員との関わりを減らし、成長の機会を与えないことで、間接的に退職を促すような企業側の行動です。このような状況に置かれた従業員が、最終的に「リベンジ」という形で退職するケースが見られています。
厚生労働省の調査によると、転職者が前職を辞めた主な理由として、女性では「職場の人間関係が好ましくなかった」が13.0%で最も多く、男性でも同様の理由が9.1%と高い割合を占めています。主な不満の内容としては、評価の分かりにくさ、上司による主観的な評価、フィードバックの不足、成果に見合わない報酬などが挙げられます。
世代による価値観の違いも大きな要因です。Z世代(1995年以降生まれ)は効率を重視する傾向や柔軟な働き方を求める傾向が強く、ミレニアル世代(1980-1994年生まれ)はキャリアアップを大切にする特徴があります。また、コロナ禍を経て、テレワーク実施率は2019年の9.8%から2022年には32.2%へと増加し、働き方に大きな変化が起きています。
リベンジ退職を防ぐためには、企業側の積極的な取り組みが大切です。分かりやすい評価制度の構築、定期的なフィードバック、柔軟な働き方の推進、キャリア育成の支援、心理的安全性の確保などが効果的です。特に世代別の対応として、Z世代には明確な業務範囲と期待の設定、デジタルツールを活用したコミュニケーションが、ミレニアル世代にはキャリアアップの機会提供、ワークライフバランスの配慮が大切です。
リベンジ退職は単なる個人の問題ではなく、組織の課題が表れた現象と考えるべきです。従業員のエンゲージメントを高める取り組みにより、リベンジ退職の可能性を減らし、健全な職場環境を実現することができます。
■詳しくは→第2回:リベンジ退職の背景と従業員の気持ち
第3回:法的リスクと企業の具体的な対応策
リベンジ退職に関連する法的リスクと対応策を理解することは、企業にとって大切な課題です。厚生労働省のデータによると、2019年度には「自己都合退職」に関する相談が約3万8,954件でしたが、令和5年度は4万2,472件に増加しており、退職に関連する課題が広がっていることがわかります。
主な事例としては、①無断退職に関する問題(突然の退職届をメールで送信し、以降出社せず連絡も取れない)、②競業避止義務に関する問題(退職後すぐに競合他社で同じ顧客を担当)、③情報管理に関するリスク(営業秘密や企画書などの情報を個人のクラウドに保存)などが挙げられます。
これらのリスクに対応するためには、就業規則と誓約書の適切な整備が大切です。就業規則では退職手続きの明確化(退職届の提出期限、提出方法の指定)や引き継ぎに関する規定(標準的な引き継ぎ期間、引き継ぎ項目の明確化)を定めることが重要です。誓約書では競業避止義務の設定(競業避止期間、地理的範囲の特定)や情報管理の徹底(機密情報の定義、情報の持ち出し禁止)を明記することが効果的です。
退職届の取り扱いについては、最高裁判例によれば、退職は労働者の権利として保障されており(憲法第22条の職業選択の自由)、会社による受理・承諾は不要(民法第627条第1項)です。また、一度なされた退職の意思表示は原則撤回できず、民法上の解約告知期間(2週間)の遵守が必要です。
引き継ぎ期間の設定については、必要な引き継ぎは信義則上の義務ですが、長すぎる引き継ぎ期間の要求は問題となる可能性があります。一般的な事務職では2週間程度、専門職・管理職では1ヶ月程度が目安とされています。引き継ぎをスムーズに進めるためには、標準的な引き継ぎ期間の明文化、業務マニュアルの定期的な更新、複数人での業務把握などが効果的です。
■詳しくは→第3回:法的リスクと企業の対応方法
第4回:企業側の予防策-円満退職を促す仕組み作り
リベンジ退職を予防するためには、従業員の不満や課題を早めに発見し、適切に対応する仕組みづくりが大切です。厚生労働省の「令和5年度個別労働紛争解決制度の施行状況」によれば、自己都合退職に関する相談が42,472件(全体の11.5%)と、「いじめ・嫌がらせ」の60,125件に次いで多い相談内容となっています。
効果的な1on1の実施は、従業員の不満や悩みを早めに発見する大切な機会です。基本的な設計として、月1回以上の定期開催、30分から1時間程度の十分な時間確保、プライバシーに配慮した場所の選定がおすすめです。効果的な質問例としては、「最近、特に充実感を感じる業務は何ですか?」「仕事を進める上で困っていることはありますか?」などが挙げられます。また、会議での発言の減少、否定的な発言の増加、キャリアや将来に関する話題を避けるなどの変化は、退職の兆候として注意が必要です。
評価制度の見直しも大切です。評価の分かりやすさを高めるために、評価項目の具体化、行動指標の明確な定義、達成基準の数値化などが効果的です。フィードバックの仕組みとしては、定期的な進捗確認、四半期ごとの目標達成度の振り返り、月次での1on1での簡易評価などが重要です。
キャリアパスの設計と成長支援も欠かせません。役職・職責の体系化、等級制度の明確な定義、各職位に求められる能力の明示などによりキャリアパスを見える化することが効果的です。また、階層別研修プログラム、選択制の専門スキル研修、資格取得サポートなどのスキル開発支援も大切です。
社内コミュニケーションの改善も効果的です。月次全体会議の定例開催、経営数値の定期的な共有、部門を超えた特別プロジェクトなどの公式コミュニケーションの活性化や、四半期ごとの社内イベント開催、フリースペースでの自由な対話などの非公式コミュニケーションの促進が役立ちます。また、経営計画の進捗共有、社長ブログの定期更新など、経営層の積極的な関わりも大切です。
■詳しくは→第4回:円満退職を促すための工夫
第5回:メンタルヘルス対策とストレスケア
メンタルヘルス対策は、リベンジ退職予防の大切な要素です。厚生労働省の調査によると、メンタルヘルスの不調を理由とする休職者が年々増加傾向にあり、特に中小企業では適切な対応に苦労するケースが増えています。
ストレスチェックの効果的な活用が重要です。年1回の法定実施に加え、四半期ごとの簡易チェック実施、スマートフォンでも回答できるオンラインツールの活用、産業医との連携による結果分析と改善提案などが効果的です。また、職場の心理的安全性を高めるために、週1回の「15分ミーティング」での率直な意見交換、「失敗事例共有会」の定期開催、直属の上司以外にも相談できる窓口の設置などがおすすめです。
産業医・外部専門家との連携も大切です。月1回の定期面談実施、オンライン相談窓口の設置、職場巡視時の情報共有と改善提案などにより産業医との連携を強化することが効果的です。また、外部EAPサービスの導入、定期的なカウンセリング体制の構築、専門家による研修プログラムの実施などの外部専門家の活用もおすすめです。
職場環境の改善も欠かせません。勤怠管理の見える化(部署別の残業時間をダッシュボード化、従業員ごとの残業時間を週次でお知らせ)や具体的な取り組み(ノー残業デーの設定、20時以降の残業申請制)により、労働時間管理を徹底することが大切です。また、ハラスメント対策として、社内相談窓口の複数設置、ハラスメント防止規程の整備と周知、管理職向け研修の実施などが効果的です。
管理職の役割と意識改革も重要です。部下の行動変化の定期的な確認、1on1ミーティングの実施、業務量の定期的な確認と調整などにより、早期発見と予防を行うことが求められます。また、メンタルヘルスの基礎、面談技法の実践トレーニング、ストレスマネジメント研修などの管理職研修も効果的です。
これらの取り組みを通じて、メンタルヘルス不調の予防と早期発見、適切な支援が可能となり、リベンジ退職の可能性を減らすことができます。
■詳しくは→第5回:メンタルヘルス対策とストレスケア
第6回:人材定着のための制度設計-社員が長く働ける環境作り
優秀な人材に長く働いてもらうためには、適切な制度設計が欠かせません。株式会社リクルートワークス研究所の調査によると、中小企業の約70%が人材定着に課題を感じており、特に柔軟な働き方への対応が重視されています。
柔軟な勤務制度の導入は、従業員満足度を平均30%向上させるとの報告があります。リモートワークの制度化(週1-2日からの段階的な導入、部門別の対象業務の明確化)、フレックスタイム制の設計(コアタイムの設定、清算期間の設定)、その他の柔軟な勤務形態(時差出勤制度、短時間勤務制度、週休3日制の試験導入)などが効果的です。
福利厚生の見直しも大切です。人材コンサルティング会社の調査によると、福利厚生制度の満足度が高い企業は、離職率が平均40%低いとされています。カフェテリアプランの導入(ポイント制)、従業員による選択制度の活用、四半期ごとの利用状況分析などの効果的な制度設計や、フィットネスジム法人契約、資格取得支援、オンライン学習プラットフォーム利用料補助などの具体的な施策が役立ちます。
教育研修制度の充実も欠かせません。株式会社リクルートマネジメントソリューションズの調査では、計画的な教育研修を実施している企業の定着率は、未実施企業と比べて約25%高いとされています。デジタルスキル研修、業界動向セミナー、階層別マネジメント研修などのリスキリングプログラムや、キャリアパスの見える化、メンター制度の導入、社内公募制度の活用などのキャリア開発支援が効果的です。
公平な評価制度の構築も大切です。人材マネジメント協会の調査によると、評価制度への不満は退職理由の上位3位に入っており、特に中小企業では評価の透明性確保が課題となっています。定量的KPIの設定、プロセス評価項目の明確化、職種別の評価基準策定などの成果とプロセスのバランスの取れた評価や、期首の目標設定面談、四半期ごとの中間面談、期末評価のフィードバックなどの評価プロセスの確立が効果的です。
これらの制度設計により、従業員満足度の向上と離職率の低下が期待でき、リベンジ退職の可能性を減らすことができます。
■詳しくは→第6回:社員が長く働ける環境作り
第7回:退職時の適切な対応と退職者との関係維持
退職時の適切な対応と退職者との関係維持は、リベンジ退職の可能性を減らす大切な要素です。厚生労働省の「令和5年雇用動向調査結果の概況」によると、令和5年の離職率は15.4%(前年比0.4ポイント上昇)となっており、多くの企業が退職者への対応に直面しています。
退職面談は、円満な退職と将来的な関係維持のための大切な機会です。面談環境の整備(個室など、プライバシーに配慮した場所の確保、1時間程度の十分な時間設定)やコミュニケーションの心構え(冷静な対応、相手の話をしっかり聴く)が重要です。効果的な質問例としては、「退職を決めた理由を教えていただけますか?」「会社での経験をどのように感じていますか?」などが挙げられます。
引き継ぎ計画の立て方も大切です。基本スケジュール(第1週:業務棚卸しと計画策定、第2週:主要業務の引き継ぎ、第3週:実地トレーニング、第4週:最終確認と調整)や進捗管理のポイント(週1回の定例確認会議、デイリーレポートの活用)を明確にすることが効果的です。また、業務フロー図の作成、チェックリストの整備、判断基準の文書化などにより、業務を見える化・文書化することも大切です。
退職金・最終給与の取り扱いにも注意が必要です。未消化有給休暇の取扱い、残業代の過去6ヶ月分の再計算、社会保険料の日割り計算などの法定項目をきちんと処理することが大切です。また、退職届受理後2週間以内に計算書を作成し、退職1週間前に内容説明と確認を行うなど、手続きを具体的に進めることが効果的です。
退職後の情報管理と競業リスク対策も重要です。機密情報の明確な定義と一覧化、退職前の情報持ち出しチェック、システムアクセス権限の整理などのセキュリティ対策を行うことが必要です。また、競業避止義務については、労働者の職業選択の自由(憲法第22条)との関係で慎重に考える必要があります。
アルムナイ制度の活用も効果的です。退職者データベースの構築、四半期ごとのニュースレター配信、年1回の交流会開催、再雇用制度の整備と周知などにより、退職者との関係を大切にすることができます。
これらの取り組みにより、円満な退職を促進し、退職者との良好な関係を維持することで、リベンジ退職の可能性を減らすことができます。
■詳しくは→第7回:退職時の適切な対応と関係の築き方
第8回:組織の健全化と持続可能な人材マネジメント
リベンジ退職への根本的な予防策となる組織づくりについて考えます。厚生労働省の「令和5年雇用動向調査」によれば、転職者が前職を辞めた理由として「職場の人間関係が好ましくなかった」ことが女性で13.0%、男性で9.1%と高い割合を占めており、職場文化と個人の価値観の違いが離職の主な要因となっています。
組織文化の見直しが大切です。経営理念の現代化(創業の精神を現代的に解釈、若手社員を交えた対話の場)や組織文化の見える化(毎月のMVP表彰制度の導入、理念実践事例の共有)により、全従業員が共感できる価値観を再定義することが効果的です。
エンゲージメント向上策も欠かせません。四半期ごとの全体ミーティング、社長と若手社員の朝食会、部門を超えた改善プロジェクトなどのコミュニケーション施策や、四半期ごとの簡易アンケート実施、表彰制度の多様化、スキルアップ支援などの従業員満足度向上策が効果的です。
次世代リーダーの育成も大切です。中小企業庁の「2023年版中小企業白書」によれば、中小企業における人材育成の課題として、約65.7%の企業が「管理職の育成」を課題として挙げています。選抜基準の明確化、3年間の段階的育成計画、四半期ごとの達成目標設定などの選抜と育成の体系化や、育成担当役員の選任、月次での育成計画の確認、週1回の進捗確認ミーティングなどの実践的な育成体制が効果的です。
持続可能な組織づくりには、体系的な制度設計が欠かせません。役割・職責の明確な定義と昇進要件の提示、成果とプロセスのバランスの取れた評価基準などのキャリアパスと評価制度や、カフェテリアプランの導入、選択型福利厚生の活用などの福利厚生と報酬制度が大切です。また、多様な働き方の選択肢提供、育児・介護との両立支援などの多様性とワークライフバランスの推進や、メンタルヘルスケアの充実、健康増進プログラムの提供などの健康経営の実践も効果的です。
これらの取り組みを通じて、組織の健全化と持続可能な人材マネジメントを実現することで、リベンジ退職の可能性を根本的に減らすことができます。
■詳しくは→第8回:組織を健全に保つための人材マネジメント
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- 第8回:組織を健全に保つための人材マネジメント
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