ご相談内容【想定相談事例】
大阪市内で従業員25名の製造業を営んでいます。毎年秋に定期健康診断を実施していますが、毎回「時間がない」「面倒だ」と言って受診しない社員が数名います。
こちらから何度も声をかけていますが、「健康には自信がある」「プライベートなことだから強制しないでほしい」と言われ、結局受けずに終わってしまいます。会社としては、従業員の健康管理のために受けてほしいのですが、強制することはできるのでしょうか?
また、受診しない社員に対して、会社としてどこまで対応すべきか教えてください。
お悩み
- 健康診断を受けない社員に、強制できる?
- 受診しないことで、会社に責任は発生する?
- どう説得すればよい?
結論:会社には実施義務があり、従業員には受診義務がある
結論から申し上げますと、会社には従業員に健康診断を受けさせる法的義務があり、従業員にも受診する義務があります。
健康診断の義務についてのポイント
① 会社は、年1回以上の定期健康診断を実施する義務がある(労働安全衛生法)
② 従業員は、会社が実施する健康診断を受診する義務がある
③ 受診しない場合、会社は指導・説得を行い、記録を残す
④ 悪質な場合は、懲戒処分の対象になることもある
「本人が拒否しているから仕方ない」では済まされず、会社として受診させる努力が求められます。
健康診断の実施義務と受診義務
会社の義務(労働安全衛生法)
労働安全衛生法第66条により、会社は従業員に対して、医師による健康診断を実施する義務があります。
実施が義務付けられている健康診断
- 雇入れ時の健康診断(入社時)
- 定期健康診断(年1回以上)
- 特定業務従事者の健康診断(有害業務に従事する人)
- 海外派遣労働者の健康診断
特に、定期健康診断は全従業員が対象です(パート・アルバイトも、週の労働時間が正社員の4分の3以上なら対象)。
従業員の義務
同じく労働安全衛生法第66条第5項により、従業員は、会社が実施する健康診断を受診する義務があります。
「健康診断はプライベートなこと」「強制されたくない」という主張は、法律上認められません。
違反した場合の罰則
会社が健康診断を実施しなかった場合
→ 50万円以下の罰金
従業員が受診を拒否した場合
→ 直接的な罰則はないが、懲戒処分の対象となり得る
受診しない社員への対応方法
まずは丁寧に説明・説得する
いきなり「受けないと処分する」と脅すのではなく、まずは健康診断の重要性を丁寧に説明します。
説得のポイント
- 「会社として、あなたの健康を守る義務があります」
- 「早期発見・早期治療のために必要です」
- 「法律で決められた義務なので、拒否できません」
- 「他の社員も全員受けています」
また、受診しない理由を聞き取ることも大切です。
受診しない理由の例と対応
- 「時間がない」
→ 勤務時間内に受診できるよう調整する、日程を複数用意する - 「病院が苦手・怖い」
→ 本人の不安を受け止め、リラックスできる環境を整える - 「自分でかかりつけ医に行っている」
→ かかりつけ医で受けた検診結果を提出してもらう(会社の指定項目を満たしていれば可)
書面で受診を指示する
口頭での説得に応じない場合は、書面で受診を指示します。
書面の内容例
- 「〇月〇日までに健康診断を受診してください」
- 「受診は法律で義務付けられています」
- 「正当な理由なく受診しない場合、就業規則に基づき処分の対象となります」
本人に渡した日付と内容を記録しておきます。
それでも受診しない場合の対応
書面での指示にも応じない場合は、就業規則に基づき懲戒処分を検討します。
懲戒処分の例
- けん責(始末書の提出)
- 減給
- 出勤停止
ただし、いきなり重い処分を科すのではなく、段階を踏むことが重要です。
記録を残す
受診を促した日時・方法、本人の反応、指示に応じたか・応じなかったか、これらをすべて記録に残します。
この記録は、
- 労働基準監督署の調査があった場合に「会社は努力していた」と示す証拠
- 懲戒処分を行う際の根拠
となります。
健康診断実施後の対応
結果を本人に通知する
健康診断の結果は、本人に通知する必要があります。
会社が勝手に開封・確認することは、プライバシーの侵害になる可能性があります。
異常所見がある場合の対応
健康診断の結果、異常所見が認められた場合、会社は医師の意見を聴いたうえで、必要に応じて以下の措置を講じる必要があります。
- 就業場所の変更
- 作業の転換
- 労働時間の短縮
- 深夜業の回数の減少
健康診断結果の保存
健康診断の結果は、5年間保存する義務があります。
個人情報として厳重に管理し、本人の同意なく第三者に開示しないよう注意が必要です。
就業規則への記載
健康診断に関する規定を明記する
就業規則に、健康診断に関する規定を明記しておくことが重要です。
記載例
- 「従業員は、会社が実施する健康診断を受診しなければならない」
- 「正当な理由なく受診を拒否した場合、懲戒処分の対象とする」
- 「健康診断の費用は会社が負担する」
就業規則に明記することで、受診義務の根拠がより明確になります。
よくある質問
Q1:「自分でかかりつけ医に行っているから不要」と言われた場合は?
A:かかりつけ医で受けた健康診断の結果を提出してもらえれば、それで代えることができます。
ただし、会社が指定する検査項目(法定項目)をすべて満たしている必要があります。
Q2:パートやアルバイトも対象ですか?
A:週の所定労働時間が、正社員の4分の3以上の場合は対象です。
短時間勤務のパート・アルバイトは、法律上の義務ではありませんが、実施することが望ましいとされています。
Q3:健康診断の費用は誰が負担する?
A:会社が実施する健康診断の費用は、会社が負担します。
従業員に費用を負担させることはできません。
Q4:受診時間は労働時間になる?
A:法律上、必ずしも労働時間として扱う必要はありませんが、多くの企業では勤務時間内に受診させ、その時間を有給扱いにしています。
受診しやすい環境を整えることが、受診率向上につながります。
まとめ
健康診断を受けない社員への対応は、
- 会社には実施義務があり、従業員には受診義務がある
- まずは丁寧に説明・説得し、受診しない理由を聞き取る
- 書面で受診を指示し、記録を残す
- それでも応じない場合は、就業規則に基づき懲戒処分を検討
- 健康診断結果は5年間保存し、異常所見があれば適切な措置を講じる
という流れで進めることが基本です。
上本町社会保険労務士事務所では、健康診断の実施方法・就業規則への記載方法、受診しない社員への対応フロー作り、健康診断結果の管理方法などを通じて、法律を守りながら従業員の健康を守る仕組みづくりをサポートしています。
「健康診断を受けない社員がいて困っている」
「就業規則に健康診断の規定がない」
そんなお悩みがあれば、まずはお気軽にご相談ください。

