ネスレ日本(東京販売事務所・島田工場)事件
会社内に分裂した2つの組合のうち、一方の組合からの団交申入れを拒否し、その組合員の給与から組合費をチェック・オフして他方の組合に交付した会社の行為が不当労働行為に当たるかどうかが争われたものです。
争点と結論
労働委員会は救済命令として、チェック・オフした組合費相当額とその付加金を組合員ではなく、その所属組合に支払うことを命じました。しかし、最高裁はその部分を取り消し、労働委員会の裁量権の限界を超える違法なものと判断しました。
判旨
労働委員会は救済命令を発する際、不当労働行為による侵害状態の除去や正常な労使関係の回復を目的とすることが求められます。しかし、本件ではチェック・オフ協定の締結や組合員からの支払委任の事実が認められないにもかかわらず、救済命令によってそのような事実上の状態を作り出すことは、労働基準法24条1項の趣旨にも抵触するものであるとされました。
解説
労働委員会の救済命令の内容について、司法審査の範囲をめぐる重要な判例である。労働委員会は、不当労働行為に対して、その救済措置として、労働者や組合に対する金員の支払や物品の引渡しを命じることができるが、その際には、救済命令制度の趣旨に沿って、不当労働行為による侵害状態の除去や正常な労使関係の回復を目的とすることが求められる。また、救済命令によって作出される事実上の状態は、私法上の法律関係と必ずしも一致する必要はないが、その実質において労働基準法24条1項の趣旨に反することは許されない。労働基準法24条1項は、労働者の賃金の支払を第三者に委任することを禁止する規定であり、労働者の賃金の保護を目的としている。本件において、労働委員会が命じた救済命令は、労働者の賃金の一部である組合費相当額を、労働者の意思に反して別の組合に支払わせることを要求するものであり、労働者の賃金の保護に反するものであったといえる。したがって、最高裁は、救済命令の一部を取り消すとともに、その余の部分を維持するという判断を示した
関連条文:労働組合法7条2号、3号、27条の12、労働基準法24条1項
ネスレ日本(東京島田)事件(救済命令の適法性)から学ぶべき事柄
- 労働委員会の救済命令は、不当労働行為による侵害状態の除去や正常な労使関係の回復を目的とするものであり、その内容は救済命令制度の趣旨に沿って決定されるべきです。
- 救済命令によって作出される事実上の状態は、私法上の法律関係と必ずしも一致する必要はないが、その実質において労働基準法24条1項の趣旨に反することは許されません。
- 労働委員会の救済命令は司法審査の対象となり、違法なものであると判断された場合は取り消される可能性があります。
関連判例
- 国・中労委(ネスレ日本霞ヶ浦工場)事件: 会社が組合員の退職強要問題等を議題とした団体交渉に応じないのは不当労働行為とした中央労働委員会の命令を不服として、会社が取消訴訟を提起した事件。
- 日本航空事件: 会社が組合員の給与から組合費をチェック・オフして別の組合に交付したことが不当労働行為に当たるとした中央労働委員会の命令を不服として、会社が取消訴訟を提起した事件。
注意すべき事柄
- 会社内に複数の組合が存在する場合:
- 会社は、複数の組合に対して公平に対応し、団体交渉に応じる義務があることを認識する必要があります。
- 組合間の対立や競争があっても、法的義務と公正な対応を優先することが重要です。
- 組合費のチェック・オフ:
- 組合員の賃金から組合費をチェック・オフする際は、チェック・オフ協定の締結や組合員からの支払委任の有無を確認すること。
- 組合員の意思に反して別の組合に交付することは避け、労働者の権利を尊重すること。
- 労働委員会の救済命令:
- 労働委員会の救済命令に対しては、その内容や効果を慎重に検討し、司法審査を求めることができる。
- 救済命令が労働基準法24条1項の趣旨に反する場合、違法と判断される可能性があることを理解すること。
経営者・管理監督者の方へ
- 会社内に複数の労働組合が存在する場合、公正な対応が重要です。組合員数の多寡に関わらず、各組合の団体交渉要求に誠実に応じる必要があります。
- 組合費のチェック・オフを行う際は、組合員の同意と委任状の有無を確認することが不可欠です。意に反してチェック・オフを行うと不当労働行為となるリスクがあります。
- チェック・オフした組合費を別の組合に交付することは、労働者の賃金権を不当に侵害するおそれがあり、避けるべきです。
- 労働委員会の救済命令を受けた場合、その内容が救済命令制度の趣旨に沿うものかを十分検討する必要があります。疑義がある場合は司法審査を求めることができます。
- 救済命令が労働基準法などの法令の趣旨に反する場合、裁判所により違法と判断され取り消される可能性があることを認識しておく必要があります。
- 労使紛争が発生した際は、法令を遵守しつつ、組合との誠実な対話と交渉を続けることが何より大切です。第三者機関の仲介も有効な手段となり得ます。
従業員の方へ
- 会社内に複数の労働組合が存在する場合でも、いずれの組合に加入するかは労働者個人の自由な選択に委ねられています。
- 組合費のチェック・オフに同意した場合のみ、会社は給与からチェック・オフを行うことができます。同意がない場合はチェック・オフを拒否できます。
- チェック・オフした組合費を別の組合に交付されることは、労働者の賃金権を侵害する恐れがあり、組合に抗議する必要があります。
- 会社が組合の団体交渉要求を拒否した場合など、不当労働行為があれば、労働委員会への救済申立てをすることができます。
- 労働委員会の救済命令に納得がいかない場合は、組合とともに司法判断を仰ぐ選択肢もあります。
- 組合活動では、自身の権利を守りつつ、会社との建設的な対話を続けることが重要です。
