労働時間管理と安全配慮義務の実務対応【副業・兼業と就業規則】4

副業兼業と就業規則

労働時間管理と安全配慮義務の実務対応-数値で理解する通算管理と健康リスク対策

「労働時間通算の計算が複雑でよくわからない」「割増賃金はどちらが支払うのか」「過労による健康被害を防ぐには何をすればいいのか」

前回までに副業の就業規則への規定方法を解説しましたが、実際の運用で最も重要かつ複雑なのが労働時間管理です。本回では、具体的な数値例を用いて労働時間通算の計算方法を詳しく解説し、実務で使える管理手法を紹介します。

労働時間の通算管理は、労働基準法第38条で義務付けられており、適切に対応しなければ法令違反となります。また、過重労働による健康被害は企業の安全配慮義務違反として損害賠償責任を問われる可能性があります。

これらのリスクを回避し、副業制度を安全に運用するための実務的なノウハウを、本回で体系的に学んでいきましょう。

労働時間通算の具体的計算方法(週40時間超過時の割増賃金算定)

労働時間通算の計算は、所定労働時間の通算と所定外労働時間の通算を段階的に行う必要があります。具体的な事例で計算方法を確認していきましょう。

基本的な考え方の整理

労働基準法では、法定労働時間を「1日8時間・週40時間」と定めています。副業を行う従業員については、本業と副業の労働時間を合算し、この法定労働時間を超える部分について割増賃金を支払う義務が発生します。

重要なポイントは、1日8時間と週40時間の両方を確認する必要があることです。どちらか一方を超えても時間外労働となり、両方を超えた場合は「超過した時間数が長い方」が時間外労働として採用されます。

事例1:所定労働時間の通算のみで法定時間を超えるケース

設定条件

  • A社(本業):所定労働時間 週5日、1日6時間(月〜金)、合計30時間
  • B社(副業):所定労働時間 週3日、1日4時間(月・水・金)、合計12時間
  • 両社とも残業なし

計算プロセス

曜日A社B社合計判定
月曜6時間4時間10時間1日8時間超:2時間
火曜6時間6時間法定内
水曜6時間4時間10時間1日8時間超:2時間
木曜6時間6時間法定内
金曜6時間4時間10時間1日8時間超:2時間
週合計30時間12時間42時間週40時間超:2時間

時間外労働の確定

  • 1日8時間超:月曜2時間、水曜2時間、金曜2時間=合計6時間
  • 週40時間超:2時間

この場合、1日8時間超の6時間の方が多いため、時間外労働は6時間となります。

割増賃金の負担
労働契約が後であるB社が、自社の所定労働時間のうち法定を超える部分について割増賃金を支払います。月・水・金それぞれ2時間ずつ、合計6時間分の割増賃金(基礎時給×0.25×6時間)をB社が負担します。

事例2:所定外労働(残業)が発生するケース

設定条件

  • A社(本業):所定労働時間 週5日、1日7時間(月〜金)、合計35時間
  • B社(副業):所定労働時間 週2日、1日3時間(火・木)、合計6時間
  • A社で金曜に2時間残業、B社で火曜に1時間残業

計算プロセス

ステップ1:所定労働時間の通算

曜日A社所定B社所定合計
月曜7時間7時間
火曜7時間3時間10時間
水曜7時間7時間
木曜7時間3時間10時間
金曜7時間7時間
週合計35時間6時間41時間

所定労働時間の段階で、火曜と木曜が1日8時間を2時間超過し、週合計でも40時間を1時間超過しています。

ステップ2:所定外労働時間の通算(実際の労働順に通算)

火曜:A社7時間→B社3時間(ここまで所定)→B社1時間残業

  • 合計11時間(1日8時間超:3時間)

金曜:A社7時間→A社2時間残業

  • 合計9時間(1日8時間超:1時間)

ステップ3:時間外労働の確定

1日8時間超の時間外労働:

  • 火曜:B社の所定3時間のうち2時間+B社の残業1時間=3時間
  • 木曜:B社の所定3時間のうち2時間
  • 金曜:A社の残業2時間のうち1時間
  • 合計:6時間

週40時間超の時間外労働:
所定段階で既に1時間超過し、さらに残業が3時間(B社1時間+A社2時間)発生。
ただし、1日8時間超で計算した分を除外すると、追加の週40時間超はなし。

割増賃金の負担

  • B社:火曜の所定2時間+残業1時間、木曜の所定2時間=合計5時間分
  • A社:金曜の残業1時間分

事例3:複雑なパターン(週6日勤務)

設定条件

  • A社(本業):所定労働時間 週5日、1日8時間(月〜金)、合計40時間
  • B社(副業):所定労働時間 週1日、土曜4時間
  • A社で月曜に1時間残業、B社で土曜に所定通り4時間勤務

計算プロセス

曜日A社B社合計判定
月曜8時間+残業1時間9時間1日8時間超:1時間
火〜金各8時間各8時間法定内
土曜4時間4時間法定内
週合計41時間4時間45時間週40時間超:5時間

時間外労働の確定

  • 1日8時間超:月曜のA社残業1時間
  • 週40時間超:5時間

1日8時間超の1時間を除いた週の労働時間は44時間。これが40時間を4時間超過しているため、週40時間超として4時間が追加で時間外労働となります。

合計:1時間(1日超)+4時間(週超)=5時間

割増賃金の負担

  • A社:月曜の残業1時間分
  • B社:土曜の4時間すべて(週40時間超に該当)

このように、土曜のB社勤務は1日8時間を超えていませんが、週40時間の枠で超過しているため、B社が全額割増賃金を負担します。

簡便な労働時間管理の方法(管理モデルの活用)

原則的な労働時間通算は計算が複雑であるため、厚生労働省は「管理モデル」という簡便な管理方法を示しています。

管理モデルの基本的な仕組み

管理モデルでは、企業があらかじめ副業先での労働時間の上限を設定し、従業員がその範囲内で副業を行う限り、詳細な通算計算を行わない方法です。

設定の考え方
自社の所定労働時間+副業での上限時間≦法定労働時間(1日8時間・週40時間)

例えば、自社の所定労働時間が1日7時間の場合、副業での労働時間上限を1日1時間までと定めれば、合計でも8時間となり、法定労働時間を超えません。

管理モデルの具体的な設定例

パターン1:1日の所定労働時間を基準とする場合

自社の所定労働時間副業の上限時間合計
1日7時間1日1時間まで8時間
1日6時間1日2時間まで8時間
1日5時間1日3時間まで8時間

パターン2:週の所定労働時間を基準とする場合

自社の所定労働時間副業の上限時間合計
週35時間週5時間まで40時間
週30時間週10時間まで40時間
週28時間週12時間まで40時間

管理モデル導入時の就業規則記載例

第○条(副業における労働時間の上限)
副業を行う従業員は、副業先での労働時間を、1日1時間以内かつ1週間で5時間以内としなければならない。

2 前項の上限を超えて副業先で労働する場合は、事前に会社に申し出て、労働時間通算の手続きを行わなければならない。

3 従業員が第1項の上限を遵守している限り、会社は労働時間の詳細な通算管理を行わないものとする。

管理モデルのメリットと注意点

メリット

  • 企業の事務負担が大幅に軽減される
  • 従業員も上限内であれば自由に副業できる
  • 割増賃金の計算が不要となる

注意点

  • 従業員が上限を守っているかの確認は必要
  • 上限超過が判明した場合は原則的な通算管理に戻る
  • 上限設定が厳しすぎると副業の機会を過度に制限することになる

承知しました。第4回の続きを作成いたします。


安全配慮義務の具体的内容と健康管理体制の構築

副業を認める場合、企業には労働契約法第5条に基づく安全配慮義務が課せられます。副業による過重労働で従業員の健康が害された場合、本業の企業も責任を問われる可能性があります。

安全配慮義務の法的根拠と内容

労働契約法第5条では「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と定められています。

副業を行う従業員については、本業と副業を合わせた全体としての労働負荷が過重となることで健康被害が生じるリスクがあります。企業は、副業先での労働も含めた従業員の労働実態を把握し、過重労働を防止する義務を負います。

安全配慮義務違反が認められた裁判例

大器キャリアキャスティング・ENEOSジェネレーションズ事件(大阪地裁平成31年10月28日判決)では、兼業による長時間労働について企業の安全配慮義務違反が認められました。

この事例では、従業員が本業と副業を合わせて過度な長時間労働を行っており、企業側が副業先での労働実態を把握していたにもかかわらず、適切な措置を講じなかったことが問題とされました。裁判所は、企業には副業先の労働時間を含めた全体の労働負荷を管理する義務があると判示しました。

この判例から、以下の点が企業に求められることが明確になりました。

  1. 副業先での労働時間や作業負荷を把握すること
  2. それが過剰である場合には、副業先での労働時間の削減や負荷の軽減を指示・指導すること
  3. 従業員の健康状態を定期的にチェックすること

企業が講じるべき具体的な健康管理措置

副業内容の定期的な把握

副業開始時だけでなく、継続的に副業先での労働時間や業務内容を把握する必要があります。3か月ごと、半年ごとなど、定期的な報告を義務付ける仕組みを構築します。

報告内容としては、以下の項目を含めます。

  • 副業先での月間労働時間
  • 本業との合計労働時間
  • 休日の取得状況
  • 体調の変化の有無

健康状態のモニタリング

副業を行う従業員については、通常の健康管理よりも注意深いモニタリングが必要です。

具体的な方法として、以下が挙げられます。

月次面談の実施:上司または人事担当者が、副業を行う従業員と月1回程度の面談を行い、疲労の蓄積状況や体調の変化を確認します。

健康チェックシートの活用:疲労度、睡眠時間、体調不良の有無などを記入させるチェックシートを定期的に提出させます。

産業医面談の実施:本業と副業の合計労働時間が月80時間を超える場合や、体調不良の訴えがある場合は、産業医との面談を実施します。

過重労働が確認された場合の対応

副業により過重労働となっていることが確認された場合、企業は以下の対応を取る必要があります。

まず、従業員との面談を行い、副業先での労働時間削減を指導します。具体的には「副業の労働時間を週○時間以内に抑えてください」といった具体的な指示を出します。

それでも改善されない場合や、健康被害のリスクが高い場合は、就業規則に基づいて副業の制限または禁止を命じることができます。この場合、「労務提供上の支障がある」という制限事由に該当することを明確に説明します。

また、本業での業務負荷の調整も検討します。残業の免除、業務の軽減、休暇の取得促進など、本業側でできる配慮を行います。

健康管理体制構築のチェックリスト

企業が副業を認める際に整備すべき健康管理体制を、チェックリスト形式でまとめます。

制度整備
□ 就業規則に副業の健康管理に関する規定を明記している
□ 副業届出書に労働時間や健康状態の報告欄を設けている
□ 定期報告の様式と頻度を定めている
□ 過重労働時の対応フローを明確にしている

運用体制
□ 副業を行う従業員のリストを作成し管理している
□ 定期的な労働時間の集計と確認を行っている
□ 上司または人事担当者による定期面談を実施している
□ 産業医との連携体制を構築している

健康モニタリング
□ 疲労の蓄積状況を定期的にチェックしている
□ 体調不良の訴えに対する相談窓口を設置している
□ 月80時間超の労働者を把握し産業医面談を実施している
□ ストレスチェックの結果を副業状況と照合している

記録管理
□ 副業先での労働時間記録を保管している
□ 面談記録や指導記録を残している
□ 健康診断結果と副業状況を関連付けて管理している

過労防止のための実務的チェックポイント

副業による過労を防止するため、企業が日常的にチェックすべきポイントを具体的に解説します。

労働時間に関するチェックポイント

総労働時間の確認

本業と副業を合わせた月間総労働時間を確認します。厚生労働省の過労死ライン(月80時間の時間外労働)を一つの目安とし、これを超える従業員には特に注意が必要です。

具体的な管理表の例:

従業員名本業労働時間副業労働時間合計過労死ライン判定
A社員180時間20時間200時間要注意
B社員160時間10時間170時間正常
C社員170時間40時間210時間危険

休日の取得状況

法定休日(週1日)が確保されているかを確認します。本業で週5日勤務、副業で週2日勤務となると、休日がゼロになる可能性があります。

月の休日日数が4日未満の従業員については、休日取得を指導します。

勤務時間帯の確認

本業終業後すぐに副業に向かい、深夜まで働くといったパターンは、疲労回復の時間が確保できず、健康被害のリスクが高まります。

勤務間インターバル(終業から次の始業まで最低11時間程度)が確保されているかを確認します。

健康状態に関するチェックポイント

疲労の兆候

以下のような疲労の兆候が見られた場合は、早期に対応が必要です。

  • 頻繁な遅刻や欠勤
  • 業務中の居眠りや集中力の低下
  • 表情や言動の変化(元気がない、イライラしている等)
  • 業務の質やスピードの低下
  • ミスや事故の増加

健康診断結果の変化

定期健康診断の結果を前年と比較し、悪化している項目がないかを確認します。特に血圧、肝機能、血糖値などの生活習慣病関連の数値悪化は、過重労働の影響が考えられます。

副業開始前後での健康診断結果を比較することで、副業の影響を客観的に把握できます。

メンタルヘルスの確認

ストレスチェックの結果で高ストレス者と判定された従業員については、副業の状況も含めて面談を行います。

また、以下のような変化が見られた場合は、メンタル不調の可能性があります。

  • 表情が暗い、元気がない
  • 他の従業員とのコミュニケーションが減った
  • 身だしなみに変化が見られる
  • 遅刻や欠勤が増えた

業務パフォーマンスに関するチェックポイント

業務の質の変化

副業開始前と比較して、以下のような変化がないかを確認します。

  • 納期遅延の増加
  • 成果物の質の低下
  • ミスや手戻りの増加
  • 顧客や取引先からのクレーム増加

これらが見られた場合、副業による疲労が本業に影響している可能性があります。

目標達成状況

業績評価や目標管理制度において、副業開始後に成績が低下していないかを確認します。明らかな低下が見られる場合は、副業の見直しを促す必要があります。

実務的な管理フローの例

副業を行う従業員の健康管理を組織的に行うため、以下のような管理フローを構築します。

STEP1:副業開始時(初回)

  • 副業届出書の提出と内容確認
  • 労働時間通算の計算と法定時間超過の有無確認
  • 健康管理の注意事項の説明
  • 定期報告の義務と方法の説明

STEP2:月次管理

  • 副業先での労働時間報告の提出(毎月末)
  • 総労働時間の集計と過重労働者の抽出
  • 過重労働者への個別面談と指導
  • 必要に応じて産業医面談の実施

STEP3:四半期管理

  • 副業継続状況の確認
  • 健康状態の総合的な評価
  • 業務パフォーマンスの変化確認
  • 必要に応じて副業内容の見直し指導

STEP4:年次管理

  • 健康診断結果と副業状況の照合
  • ストレスチェック結果の分析
  • 年間を通じた労働時間の総括
  • 次年度の副業継続可否の判断

トラブル発生時の対応手順

副業により健康被害が発生した、または発生しそうな場合の対応手順を明確にしておきます。

緊急性が高い場合(すぐに医師の診察が必要)

  1. 本人の安全確保と医療機関への受診手配
  2. 家族への連絡
  3. 労災保険の適用検討(業務起因性の判断)
  4. 副業先への状況連絡(必要に応じて)

緊急性が中程度の場合(体調不良の訴えがある)

  1. 産業医面談の実施
  2. 副業の一時休止または労働時間削減の指導
  3. 本業での業務軽減措置
  4. 経過観察と定期的なフォロー

予防的対応の場合(過重労働の兆候がある)

  1. 上司または人事担当者による面談
  2. 労働時間の実態確認と是正指導
  3. 健康管理の重要性の再確認
  4. 必要に応じて副業内容の変更を促す

まとめ:労働時間管理と健康管理の両立に向けて

第4回では、副業における労働時間通算の具体的な計算方法と、安全配慮義務を果たすための健康管理体制について詳しく解説しました。

労働時間通算は複雑ですが、管理モデルを活用することで実務負担を軽減できます。また、安全配慮義務は従業員の健康を守るだけでなく、企業自身を法的リスクから守るためにも重要です。

適切な労働時間管理と健康管理体制により、副業制度を安全に運用し、従業員と企業の双方にメリットをもたらす制度とすることができます。次回は、副業をめぐる具体的なトラブル事例と予防策について解説します。


次回予告:第5回「トラブル回避の羅針盤!事例で学ぶ副業・兼業の落とし穴」では、秘密保持義務違反、競業避止違反、労災事故、税務・社会保険上の問題など、実際に発生しやすいトラブルの具体例と、それらを未然に防ぐための実務的な対策を詳しく解説します。

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