同一労働同一賃金に関する判例です。この判例は、無期雇用で賞与を支給する一方、有期雇用で賞与を支給しないことが、不合理な待遇差であり労働契約法20条に違反するとした第二審判決を破棄し、賞与の不支給が不合理な待遇差にあたらないとしたものです。
事案
大阪医科薬科大学の薬理学教室で教授らの日程管理や来客対応などをしていた原告は、時給制のアルバイト職員であり、有期契約で雇用されていました。原告は、同じ業務をしている正職員の秘書には通年で基本給の4.6か月分の賞与が支給されるのに対し、自分には賞与が支給されないことや、私傷病欠勤中の賃金の有無などの労働条件に相違があることが、労働契約法20条にいう不合理な待遇差にあたるとして、差額に相当する約1270万円の損害賠償を求めて訴えました。
争点・結論
無期雇用で賞与を支給する一方、有期雇用で賞与を支給しないという労働条件の相違が、労働契約法20条にいう不合理な待遇差にあたるかどうかが問題となりました。最高裁判所は、原告の請求を棄却しました。
賞与は、基本給とは別に支給される一時金として、財務状況等を踏まえつつ、その都度、支給の有無や支給基準が決定されるものであり、労働者の職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から支給することとされたものである。
原告と正職員の秘書の業務の内容は共通する部分はあるものの、原告は定型的で簡便な作業等に限られており、正職員の秘書は英文学術誌の編集事務や病理解剖に関する遺族等への対応や部門間の連携を要する業務や毒劇物等の試薬の管理業務などにも従事する必要があり、両者の職務の内容に一定の相違があった。
原告は人事異動を命ぜられる可能性がなかったのに対し、正職員の秘書は就業規則上人事異動を命ぜられる可能性があり、両者の職務の内容及び配置の変更の範囲に一定の相違があった。
原告は業務の内容の難度や責任の程度が高く、人事異動も行われていた他の大多数の無期契約労働者と比較して極めて少数であり、無期契約労働者としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るという賞与の支給目的との関連性が低かった。
原告にはアルバイト職員から無期契約労働者へ段階的に職種を変更するための試験による登用制度が設けられており、賞与の不支給が原告の労働意欲の向上に対する不合理な制約になるとは認められなかった。
判旨
最高裁判所第三小法廷は、令和2年10月13日に判決を言い渡し、原告の請求を全て棄却しました。
解説
同一労働同一賃金における「賞与」の待遇差に関する判断要素を示した判例です。賞与は、労働者の職務の内容及び当該業務に伴う責任の程度、当該職務の内容及び配置の変更の範囲、その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならないとされています。この判決は、原告と正職員の秘書の間には、職務の内容や配置の変更の範囲に相違があり、賞与の支給目的との関連性も低いとして、賞与の不支給が不合理な待遇差にあたらないと判断しました。この判決は、労働契約法20条の適用において、賞与の支給の有無や支給基準は、労働者の職務の内容や配置の変更の範囲などの具体的な事情に応じて変化することを認めるものであり、労働法の発展に寄与したと言えます。
関連する条文
労働契約法第20条:有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。 )、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。
労働契約法第18条:使用者は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、労働者に支払う賃金の額を決定するものとする。
賃金等同一労働同一賃金法第3条:使用者は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、労働者に支払う賃金その他の労働条件を決定する場合において、労働者の性別によって不合理な差別を行ってはならない。
大阪医科薬科大学事件から学ぶべき事柄
同一労働同一賃金の原則は、労働者の職務の内容や配置の変更の範囲などの具体的な事情に応じて変化することを認めるものである。
賞与の支給の有無や支給基準は、労働者の職務の内容や配置の変更の範囲などの具体的な事情に応じて変化することを認めるものである。
賞与の支給の有無や支給基準については、労働者の職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るという賞与の支給目的との関連性や、労働者の労働意欲の向上に対する制約の程度などを考慮する必要がある。
関連判例
日本電信電話公社事件(最高裁昭和60年4月25日):会社が組合集会のための会議室の使用を拒否したことが、労働組合の団結権を侵害する不当労働行為にあたるとした事例。この判例では、会社が組合集会のための会議室の使用を拒否したことに合理的な理由がないとされた。
日本鋼管事件(最高裁平成3年11月29日):会社が組合集会のための会議室の使用を拒否したことが、労働組合の団結権を侵害する不当労働行為にあたらないとした事例。この判例では、会社が組合集会のための会議室の使用を拒否したことに合理的な理由があるとされた。
注意すべき事柄
有期契約労働者と無期契約労働者の間に労働条件の相違がある場合は、その相違が不合理な待遇差にあたらないかどうかを慎重に判断すること。労働契約法20条に基づいて、労働者の職務の内容や配置の変更の範囲などの具体的な事情を考慮すること。
賞与の支給の有無や支給基準については、労働者の職務の内容や配置の変更の範囲などの具体的な事情に応じて変化することを認めるとともに、賞与の支給目的との関連性や労働者の労働意欲の向上に対する制約の程度などを考慮すること。賞与の支給の有無や支給基準については、労働協約や就業規則などで明確に定めること。
経営者・管理監督者の方へ
- 有期雇用労働者と無期雇用労働者の間で、賞与の支給有無や支給基準に違いを設ける場合は、その理由を明確にする必要があります。
- 賞与支給の違いが許容されるのは、両者の「職務内容」「配置転換範囲」「人材確保の必要性」などの事情に相応の相違があると認められる場合に限られます。
- たとえば職務内容が全く異なれば賞与支給に違いを設けられますが、ごく僅かな職務差のみでは違いを正当化できません。
- 有期雇用労働者の意欲・能力向上の機会を不当に制約するような賞与支給区分は、合理性を欠く恐れがあります。
- 判断に当たっては、個別具体的な事情を総合的に検討することが重要です。不合理な待遇差と評価されないよう、労使で十分な協議を行いましょう。
従業員の方へ
- 有期雇用であっても、無期雇用労働者と職務内容や人事配置が実質的に変わらない場合、賞与支給に違いを設けるのは不合理な待遇差に該当する可能性があります。
- 職務内容や配置が異なり、かつ適切な登用制度があれば、賞与支給の違いは「不合理」とはいえない場合もあります。
- しかし、自身の職務実態に見合わない不当な賞与格差があると感じたら、会社に是正を求めるべきです。納得のいく説明がなければ、労働組合や労基監督署に相談しましょう。
- お互いに実態を踏まえた建設的な対話を心がけ、納得のいく合理的な賃金決定プロセスを構築することが重要です。
