チェックリストの目的と使い方
建設業就業規則チェックリストの目的
建設業就業規則チェックリストは、中小建設業の経営者・人事総務担当者が自社の就業規則の整備状況を客観的に把握し、法令遵守と現場運用の両立を図るための実践的なツールです。このチェックリストを活用することで、労働基準監督署の是正指導リスクを回避し、従業員との労務トラブルを未然に防ぐことができます。
建設業特有の労働環境や業務内容を踏まえた50項目の点検項目により、包括的な就業規則の見直しが可能となります。単なる法令チェックではなく、実際の現場運用で発生しがちな問題点を事前に発見し、改善につなげることが主たる目的です。
包括的な労務リスクの可視化
建設業では、直行直帰、複数現場での作業、天候による作業中断、一人親方との混在作業など、他業種にはない特殊な労働環境があります。これらの特殊性を踏まえたチェック項目により、見落としがちな労務リスクを包括的に可視化できます。
法改正への迅速な対応支援
2024年4月の労働条件明示義務の拡大、時間外労働上限規制の適用、2025年6月の熱中症対策義務化など、頻繁な法改正に対応するための指針として活用できます。改正内容を踏まえたチェック項目により、迅速かつ確実な対応が可能となります。
効果的な使い方の基本原則
チェックリストの活用にあたっては、以下の基本原則を守ることが重要です。
現状と運用の両面確認
まず、現状の就業規則と実際の労働条件・運用状況の両方を確認しながら判定を行います。書面上は整備されていても、実際の運用で問題がある場合は「要確認」として扱います。例えば、36協定は締結されているが、実際の時間外労働時間の管理が不十分な場合などが該当します。
段階的改善アプローチ
次に、一度にすべての項目を改善しようとせず、優先順位を付けて段階的に取り組みます。法的リスクが高い項目、現場での影響が大きい項目から順次対応することで、効率的な改善が可能となります。限られた人的・財的資源を最適に配分することが重要です。
継続的モニタリング体制
チェックリストは一度使用して終わりではなく、定期的な見直しツールとして継続活用します。年1回の定期チェックに加え、法改正や事業環境の変化に応じた随時チェックにより、常に最新の状況を把握できます。
チェック実施時の留意点
チェックリストの実施にあたっては、多角的な視点からの情報収集が重要です。
現場の声の積極的収集
経営者や人事担当者だけでなく、現場監督や作業員からの意見も積極的に聴取することが重要です。現場の実態を正確に把握することで、より実効性のある就業規則の整備が可能となります。現場作業員が実際に感じている問題点や改善要望を把握することで、机上の空論ではない実用的な規定整備につながります。
記録保存と継続活用
チェック結果は記録として保存し、定期的な見直しの際の参考資料として活用します。過去のチェック結果と比較することで、改善の進捗状況を客観的に評価できます。また、労働基準監督署の調査時にも、継続的な改善努力の証拠として活用できます。
専門家との連携体制
複雑な法的判断が必要な項目については、社会保険労務士等の専門家との連携を図ります。自社だけでは判断が困難な事項について、適切な専門的助言を得ることで、より確実な改善が可能となります。
50項目のチェックポイント
①労働時間・賃金(15項目)
建設業の労働時間管理は複雑で、2024年4月からの上限規制適用により、より厳格な管理が求められています。
36協定関連
□ 1. 36協定の締結・届出が適切に行われているか
□ 2. 時間外労働の上限(月45時間・年360時間)が遵守されているか
□ 3. 特別条項の適用回数(年6回以内)が管理されているか
□ 4. 労働者代表の選出が適正に行われているか
□ 5. 36協定の更新手続きが計画的に実施されているか
確認ポイント:
36協定の締結・届出が適切に行われているかについては、単に協定書が存在するだけでなく、内容の適法性と実際の運用状況を確認します。時間外労働の上限(月45時間・年360時間)が遵守されているかは、実際の労働時間記録と照合して判定します。特別条項の適用回数(年6回以内)が管理されているかは、月別の時間外労働実績を確認し、45時間を超えた月数をカウントします。労働者代表の選出が適正に行われているかは、選出方法の民主性と代表性を確認します。36協定の更新手続きが計画的に実施されているかは、有効期限の管理体制と更新スケジュールの整備状況を評価します。
労働時間管理
□ 6. 直行直帰時の労働時間管理方法が明確に定められているか
□ 7. 複数現場での移動時間の取扱いが規定されているか
□ 8. 天候不良時の休業手当支給基準が明確か
□ 9. 一人親方との労働者性判断基準が設定されているか
□ 10. ITツールを活用した勤怠管理体制が構築されているか
確認ポイント:
直行直帰時の労働時間管理方法が明確に定められているかは、始業・終業時刻の定義、移動時間の取扱い、勤怠記録の方法などを確認します。複数現場での移動時間の取扱いが規定されているかは、現場間移動の労働時間性判断基準の明確性を評価します。天候不良時の休業手当支給基準が明確かは、雨天中止時の対応手順と休業手当の支給基準の整備状況を確認します。一人親方との労働者性判断基準が設定されているかは、偽装請負防止のための明確な基準の有無を評価します。ITツールを活用した勤怠管理体制が構築されているかは、GPS機能付き勤怠システムやモバイル日報システムの導入・活用状況を確認します。
賃金制度
□ 11. 基本給の決定方法が明確に規定されているか
□ 12. 各種手当(現場・資格・危険・遠隔地)の支給基準が明文化されているか
□ 13. 固定残業代制度の運用が適法に行われているか
□ 14. 割増賃金の計算方法が正確に設定されているか
□ 15. 賃金支払いの5原則(通貨払い・直接払い等)が遵守されているか
確認ポイント:
基本給の決定方法が明確に規定されているかは、職能型・職務型・日給月給型等の賃金体系の明確性を評価します。各種手当(現場・資格・危険・遠隔地)の支給基準が明文化されているかは、支給条件、支給額、支給時期等の具体的基準の整備状況を確認します。固定残業代制度の運用が適法に行われているかは、基本給との区分、固定時間の設定、超過時の精算等の適法性を評価します。割増賃金の計算方法が正確に設定されているかは、算定基礎、割増率、計算手順等の正確性を確認します。賃金支払いの5原則(通貨払い・直接払い等)が遵守されているかは、実際の支払い方法と法的要件の適合性を評価します。
②安全衛生(12項目)
建設業では労災発生率が他業種の約3倍と高く、安全衛生管理規定の整備は最重要課題です。
安全管理体制
□ 16. 統括安全衛生責任者・元方安全衛生管理者の選任が適切か
□ 17. 安全衛生責任者の配置と役割が明確に定められているか
□ 18. 安全教育(入職時・KY活動)の実施体制が整備されているか
□ 19. 安全会議の開催頻度と記録保存が適切に行われているか
確認ポイント:
統括安全衛生責任者・元方安全衛生管理者の選任が適切かは、法定要件に基づく選任義務の履行状況と選任者の資格要件適合性を確認します。安全衛生責任者の配置と役割が明確に定められているかは、現場規模に応じた適切な配置と職務内容の明確化を評価します。安全教育(入職時・KY活動)の実施体制が整備されているかは、法定教育時間の確保、教育内容の充実度、記録保存体制等を確認します。安全会議の開催頻度と記録保存が適切に行われているかは、定期開催の実施状況と議事録の作成・保存状況を評価します。
保護具・安全装備
□ 20. 安全帯(フルハーネス型)の使用義務が明確に規定されているか
□ 21. ヘルメット・安全靴等の基本保護具着用義務が定められているか
□ 22. 保護具の点検・交換基準が設定されているか
□ 23. 違反時の懲戒処分基準が明確に定められているか
確認ポイント:
安全帯(フルハーネス型)の使用義務が明確に規定されているかは、高所作業での使用基準と従来型からの移行状況を確認します。ヘルメット・安全靴等の基本保護具着用義務が定められているかは、着用基準の明確性と現場での徹底状況を評価します。保護具の点検・交換基準が設定されているかは、使用前点検の実施方法と定期交換のルール化を確認します。違反時の懲戒処分基準が明確に定められているかは、段階的な処分基準と手続きの適正性を評価します。
災害対応・法改正対応
□ 24. 災害発生時の初動対応手順が明文化されているか
□ 25. 労働者死傷病報告の提出手続きが整備されているか
□ 26. 熱中症対策(2025年6月施行)への対応が完了しているか
□ 27. 外注・下請業者との安全協定が適切に締結されているか
確認ポイント:
災害発生時の初動対応手順が明文化されているかは、人命救助、二次災害防止、緊急連絡等の手順の整備状況を確認します。労働者死傷病報告の提出手続きが整備されているかは、報告義務の理解と迅速な提出体制の構築状況を評価します。熱中症対策(2025年6月施行)への対応が完了しているかは、新たな法的義務への準備状況と対策の具体化を確認します。外注・下請業者との安全協定が適切に締結されているかは、安全管理責任の明確化と連携体制の構築状況を評価します。
③服務・懲戒(8項目)
現場秩序の維持と適正な懲戒制度の構築は、建設業の労務管理において重要な要素です。
服務規律
□ 28. 出退勤・勤怠管理に関する規律が明確に定められているか
□ 29. 安全管理・保護具着用の義務が詳細に規定されているか
□ 30. 機械・工具の適切な取扱いルールが設定されているか
□ 31. SNS投稿・撮影禁止等の情報管理規定が整備されているか
確認ポイント:
出退勤・勤怠管理に関する規律が明確に定められているかは、直行直帰や複数現場での勤怠管理ルールの整備状況を確認します。安全管理・保護具着用の義務が詳細に規定されているかは、現場での安全確保に必要な具体的規定の整備状況を評価します。機械・工具の適切な取扱いルールが設定されているかは、有資格者による操作、点検・メンテナンス、私的使用禁止等のルール化を確認します。SNS投稿・撮影禁止等の情報管理規定が整備されているかは、現代的リスクへの対応状況を評価します。
懲戒制度
□ 32. 懲戒処分の種類と適用基準が段階的に設定されているか
□ 33. 薬物・飲酒禁止の規定と違反時の処分が明確か
□ 34. 懲戒処分の手続き(事実確認・弁明機会付与)が適正か
□ 35. 労働基準監督署への対応を考慮した記録保存が行われているか
確認ポイント:
懲戒処分の種類と適用基準が段階的に設定されているかは、戒告から懲戒解雇まで段階的な処分基準の整備状況を確認します。薬物・飲酒禁止の規定と違反時の処分が明確かは、建設現場での安全確保に直結する重要規定の整備状況を評価します。懲戒処分の手続き(事実確認・弁明機会付与)が適正かは、労働契約法第15条に基づく適正手続きの確保状況を確認します。労働基準監督署への対応を考慮した記録保存が行われているかは、処分の有効性を担保する記録管理体制を評価します。
④採用・退職(8項目)
人材確保が困難な建設業において、適切な採用・退職規定の整備は競争力向上の鍵となります。
採用関連
□ 36. 労働条件明示(2024年4月改正対応)が適切に行われているか
□ 37. 試用期間の設定と評価基準が明確に定められているか
□ 38. 外国人労働者の雇用手続きが法令に準拠しているか
□ 39. 求人広告での給与表示が適切に行われているか
確認ポイント:
労働条件明示(2024年4月改正対応)が適切に行われているかは、無期転換ルール、就業場所・業務の変更範囲等の新たな明示義務への対応状況を確認します。試用期間の設定と評価基準が明確に定められているかは、期間の妥当性、評価基準の客観性、本採用拒否の有効要件等を評価します。外国人労働者の雇用手続きが法令に準拠しているかは、在留資格の確認、届出義務の履行、労働条件の多言語対応等を確認します。求人広告での給与表示が適切に行われているかは、モデル賃金の表示、手当の明示等による透明性確保を評価します。
退職関連
□ 40. 建設業退職金共済制度との連携が適切に行われているか
□ 41. 退職手続きの流れが明確に定められているか
□ 42. 離職防止策が具体的に規定されているか
□ 43. 労働トラブル発生時の対応手順が整備されているか
確認ポイント:
建設業退職金共済制度との連携が適切に行われているかは、加入義務の履行、証紙貼付の管理、CCUSとの連携等を確認します。退職手続きの流れが明確に定められているかは、退職願の提出から最終手続きまでの一連の流れの整備状況を評価します。離職防止策が具体的に規定されているかは、働き方改革、キャリアパス明確化、福利厚生充実等の具体的施策を確認します。労働トラブル発生時の対応手順が整備されているかは、初期対応、専門家連携、再発防止策等の体系的対応手順を評価します。
⑤福利厚生(4項目)
従業員の定着率向上と採用競争力強化のため、福利厚生制度の充実が重要です。
□ 44. 法定福利厚生(社会保険・労働保険)の加入手続きが適切か
□ 45. 法定外福利厚生(住宅手当・家族手当等)の支給基準が明確か
□ 46. 健康診断・安全衛生教育の実施体制が整備されているか
□ 47. 育児・介護休業制度の規定が最新の法改正に対応しているか
確認ポイント:
法定福利厚生(社会保険・労働保険)の加入手続きが適切かは、全従業員の適切な加入と保険料の適正納付を確認します。法定外福利厚生(住宅手当・家族手当等)の支給基準が明確かは、支給条件の客観性と公平性を評価します。健康診断・安全衛生教育の実施体制が整備されているかは、法定義務の履行と記録保存の適切性を確認します。育児・介護休業制度の規定が最新の法改正に対応しているかは、頻繁な法改正への迅速な対応状況を評価します。
⑥外国人雇用・下請対応(3項目)
建設業では外国人労働者の雇用や下請業者との連携が重要な要素となっています。
□ 48. 外国人労働者の在留資格確認と届出義務が適切に履行されているか
□ 49. 技能実習生の受入れ体制と指導体制が法令に準拠しているか
□ 50. 下請業者との労働条件・安全管理に関する協定が適切に締結されているか
確認ポイント:
外国人労働者の在留資格確認と届出義務が適切に履行されているかは、就労可能な在留資格の確認、ハローワークへの届出等の法的義務の履行状況を確認します。技能実習生の受入れ体制と指導体制が法令に準拠しているかは、技能実習計画の認定、監理団体との連携、適切な指導体制等を評価します。下請業者との労働条件・安全管理に関する協定が適切に締結されているかは、安全協定書の内容、責任分担の明確化、連携体制の構築等を確認します。
判定方式:未整備/要確認/整備済
判定基準の明確化
各チェック項目について、以下の3段階で判定を行います。客観的で一貫した判定を行うため、具体的な判定基準を設定することが重要です。
「整備済」の判定基準
就業規則に明確に規定されていることは基本要件ですが、それだけでは不十分です。法令要件を完全に満たしていること、実際の運用が規定通りに行われていること、記録・書類が適切に保存されていること、従業員への周知が十分に行われていることのすべてを満たす場合に「整備済」と判定します。
例えば、36協定について言えば、協定書が存在し、法定要件を満たし、実際の時間外労働が上限内に収まっており、労働時間記録が適切に保存され、従業員が協定内容を理解している状態が「整備済」に該当します。
「要確認」の判定基準
就業規則に規定はあるが内容が不十分な場合、法改正への対応が不完全な場合、規定と実際の運用に乖離がある場合、記録・書類の保存が不十分な場合、従業員への周知が不足している場合のいずれかに該当する場合は「要確認」と判定します。
この判定は、基本的な枠組みは存在するものの、改善が必要な状態を示しています。比較的短期間での改善が可能な項目が多く含まれます。
「未整備」の判定基準
就業規則に規定がない、法令要件を満たしていない、実際の運用が行われていない、必要な記録・書類が存在しない、従業員が制度を認識していないのいずれかに該当する場合は「未整備」と判定します。
この判定は、根本的な整備が必要な状態を示しており、優先的な対応が求められます。
判定時の注意点
判定を行う際は、形式的な整備状況だけでなく、実質的な運用状況を重視することが重要です。
書面と運用の整合性確認
就業規則に規定があっても、現場で適切に運用されていない場合は「要確認」として扱います。例えば、安全教育の実施が規定されていても、実際には形式的な実施に留まっている場合や、記録が不十分な場合などが該当します。
法改正への対応状況考慮
法改正により新たに対応が必要となった項目については、施行日からの経過期間も考慮して判定を行います。猶予期間がある場合でも、早期の対応準備が推奨されるため、準備状況に応じて判定します。
従業員の認識度確認
制度が整備されていても、従業員がその内容を理解していない場合は実効性に欠けるため、周知状況も判定要素に含めます。定期的な説明会の開催、資料の配布、理解度の確認などが適切に行われているかを評価します。
判定結果の記録と活用
各項目の判定結果は、以下の形式で記録し、継続的な改善活動に活用します。
記録例:
項目:36協定の締結・届出
判定:要確認
理由:特別条項の適用回数管理が不十分
改善期限:○年○月○日
担当者:○○
進捗状況:月次集計システム導入検討中この記録により、改善の進捗状況を客観的に管理し、次回チェック時の参考資料として活用できます。また、労働基準監督署の調査時にも、継続的な改善努力の証拠として提示できます。
判定結果に基づく整備優先順位付け方法
リスクレベルによる優先順位設定
チェックリストの判定結果に基づき、以下のリスクレベルで優先順位を設定します。
【最優先】法的リスクが高い項目
労働基準法違反により刑事罰の対象となる項目は、企業の存続に関わる重大なリスクです。労働基準監督署の是正指導を受ける可能性が高い項目、未払い残業代等の金銭的リスクが大きい項目も同様に最優先で対応する必要があります。
具体例として、36協定の未締結・未届出は6か月以下の懲役または30万円以下の罰金の対象となります。割増賃金の未払い・計算ミスは、過去3年分の遡及支払いと付加金支払いのリスクがあります。安全衛生管理体制の不備は労働災害発生時の重い責任を問われる可能性があります。
【高優先】現場への影響が大きい項目
労働災害のリスクに直結する項目、従業員の離職率に影響する項目、日常的な現場運用に支障をきたす項目は、事業継続の観点から高い優先度で対応が必要です。
具体例として、安全教育・保護具着用義務の不備は労働災害の直接的原因となります。労働時間管理方法の不明確さは、従業員の不満と離職につながります。懲戒処分基準の不備は、現場秩序の維持に支障をきたします。
【中優先】将来的なリスクがある項目
法改正により今後対応が必要となる項目、事業拡大に伴い重要性が増す項目、競合他社との差別化に関わる項目は、中期的な視点で計画的に対応します。
緊急度と重要度のマトリクス分析
各項目を緊急度と重要度の2軸で分析し、効率的な改善計画を策定します。
| 緊急度\重要度 | 高重要度 | 低重要度 |
|---|---|---|
| 高緊急度 | 即座に対応(法的リスク項目) | 短期間で対応(現場運用項目) |
| 低緊急度 | 計画的に対応(将来リスク項目) | 時間のある時に対応(その他項目) |
即座に対応が必要な項目
法的義務違反や重大な安全リスクに関わる項目は、発見次第即座に対応します。36協定の未締結、安全衛生責任者の未選任、重大な安全規則違反などが該当します。
短期間で対応すべき項目
現場運用に直接影響する項目で、比較的短期間で改善可能なものは、1~3か月以内の対応を目標とします。勤怠管理方法の明確化、手当支給基準の文書化などが該当します。
改善計画の具体的策定方法
優先順位に基づき、以下の手順で改善計画を策定します。
STEP1:即座対応項目(1か月以内)
法的リスクが最も高い項目については、他の業務に優先して対応します。簡単な規定追加で対応可能な項目、現場での安全に直結する項目も含めて、1か月以内の改善を目標とします。
具体的な対応として、36協定の緊急締結・届出、安全衛生責任者の選任・届出、重大な安全違反の即座是正などがあります。
STEP2:短期対応項目(3か月以内)
制度設計が必要な項目、従業員への説明・研修が必要な項目、システム導入等の準備が必要な項目は、3か月以内の改善を目標とします。
具体的な対応として、労働時間管理制度の整備、賃金規程の見直し、安全教育体制の構築などがあります。
STEP3:中長期対応項目(6か月~1年以内)
大幅な制度変更が必要な項目、予算確保が必要な項目、外部専門家との連携が必要な項目は、6か月から1年以内の改善を目標とします。
具体的な対応として、人事制度の抜本的見直し、ITシステムの本格導入、専門家との継続的連携体制構築などがあります。
改訂スケジュールの立て方
年間改訂スケジュールの基本構成
建設業就業規則の改訂は、以下の年間スケジュールに基づいて計画的に実施することが重要です。
4月:年度初めの総点検
新年度の開始に合わせて、前年度の法改正対応状況を確認し、新年度の事業計画に基づく規定見直しを実施します。新入社員向けの就業規則説明会の準備も併せて行います。
具体的な活動として、前年度の改訂実績の評価、新年度の法改正予定の確認、事業計画に基づく人事制度の見直し検討、新入社員研修資料の準備などがあります。
7月:中間見直し
上半期の運用状況を確認し、必要な調整を行います。労働基準監督署の指導事項への対応、夏季休暇・熱中症対策等の季節的対応も実施します。
具体的な活動として、上半期の労働時間実績の分析、安全管理状況の点検、熱中症対策の実施状況確認、夏季休暇制度の運用確認などがあります。
10月:下半期の調整
年末調整に向けた賃金規定の確認、来年度の法改正情報の収集・分析、冬季工事に向けた安全管理規定の見直しを実施します。
具体的な活動として、賃金制度の年末調整対応確認、来年度法改正の影響分析、冬季安全対策の準備、年度末工事の労働時間管理準備などがあります。
1月:年度末準備
年間の改訂実績を総括し、次年度の改訂計画を策定します。労働者代表との意見交換も実施し、現場の声を反映した改善計画を立案します。
具体的な活動として、年間改訂実績の総括、次年度改訂計画の策定、労働者代表との意見交換会開催、改訂プロセスの見直しなどがあります。
法改正対応スケジュール
法改正への対応は、以下のタイムラインで計画的に進めます。
施行6か月前:情報収集・影響分析
改正内容の詳細確認、自社への影響度分析、必要な対応項目の洗い出しを実施します。早期の情報収集により、十分な準備期間を確保できます。
施行3か月前:規定案作成・協議
就業規則改定案の作成、労働者代表との協議、社内関係部署との調整を実施します。十分な協議期間を確保することで、現場の実態に即した規定整備が可能となります。
施行1か月前:最終確認・届出
改定内容の最終確認、労働基準監督署への届出、従業員への周知準備を実施します。施行日からの円滑な運用開始に向けた最終準備を行います。
施行日:運用開始・フォロー
新規定の運用開始、現場での運用状況確認、必要に応じた微調整実施を行います。施行後の運用状況を注意深く監視し、問題があれば迅速に対応します。
継続的改善のPDCAサイクル
就業規則の改訂は、以下のPDCAサイクルにより継続的な改善を図ります。
Plan(計画)
チェックリストによる現状把握、改善項目の優先順位設定、改訂スケジュールの策定、必要な資源(人員・予算)の確保を行います。計画段階での十分な検討により、効率的な改善が可能となります。
Do(実行)
就業規則の改定作業、労働者代表との協議、労働基準監督署への届出、従業員への周知・教育を実施します。計画に基づいた確実な実行により、改善効果を最大化します。
Check(評価)
改定後の運用状況確認、従業員からのフィードバック収集、法令遵守状況の点検、改善効果の測定を行います。客観的な評価により、改善の成果を正確に把握します。
Action(改善)
運用上の問題点の修正、次回改訂への反映事項整理、改訂プロセスの見直し、専門家との連携体制強化を実施します。継続的な改善により、より効果的な就業規則整備を実現します。
まとめ:建設業就業規則の継続的改善に向けて
チェックリスト活用の重要性
建設業就業規則チェックリストは、法令遵守と現場運用の両立を図るための実践的なツールです。50項目の体系的な点検により、見落としがちな問題点を発見し、優先順位を付けた改善が可能となります。
継続的活用による効果最大化
単発的な使用ではなく、定期的な活用により継続的な改善を図ることが重要です。年1回の定期チェックに加え、法改正や事業環境の変化に応じた随時チェックにより、常に最新の状況に対応できます。
現場実態との整合性確保
チェックリストの活用により、就業規則の条文と現場の実際の運用状況の整合性を確保できます。書面上の整備だけでなく、実効性のある規定整備が可能となります。
専門家との連携の必要性
就業規則の整備は専門性が高く、法改正への対応も複雑です。社会保険労務士等の専門家と連携し、適切なアドバイスを受けながら改善を進めることが推奨されます。
リスク管理の観点
特に、労働基準監督署の調査や労働審判等のリスクが高い項目については、専門家の支援を積極的に活用することが重要です。法的リスクを最小限に抑えながら、効率的な改善を実現できます。
最新情報の活用
専門家との連携により、最新の法改正情報や判例動向を迅速に把握し、先手を打った対応が可能となります。また、同業他社の動向や業界のベストプラクティスも参考にできます。
今後の展望:建設業の働き方改革
建設業界は、2024年問題への対応、DXの推進、若手人材の確保等、多くの課題に直面しています。就業規則の適切な整備は、これらの課題解決の基盤となる重要な取り組みです。
持続可能な発展への貢献
継続的な改善により、法令遵守と現場運用の両立を図り、持続可能な建設業の発展に貢献することが期待されます。適切な労務管理により、従業員の満足度向上と企業の競争力強化を同時に実現できます。
業界全体の底上げ
個社での取り組みに留まらず、業界全体での就業規則整備水準の向上により、建設業界のイメージ向上と人材確保につながることが期待されます。
本シリーズを通じて、建設業特有の労務管理課題と就業規則整備のポイントを解説してきました。第1回の労働時間管理から第7回の総点検まで、各回で紹介した内容を参考に、自社の実情に応じた就業規則の整備・改善に取り組んでいただければ幸いです。
建設業の明るい未来に向けて、適切な就業規則の整備と継続的な改善により、法令遵守と現場運用の両立を実現し、働きやすい職場環境の構築を目指していきましょう。
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