年次有給休暇と時季指定権の行使【弘前電報電話局事件】

弘前電報電話局事件

弘前電報電話局事件は、電電公社(現NTT)の従業員が、勤務割による出勤日に年次有給休暇の時季指定をしたところ、成田空港反対闘争に参加するおそれがあるとして、会社側が時季変更権を行使したことの適法性が争われた事案です。従業員側は、代替勤務者の配置が可能な状況にあったにもかかわらず時季変更権が行使されたとして、その後の欠勤扱いによる戒告処分と賃金カットの無効および賃金の支払いを求めて提訴しました。

争点・結論

本事件の主な争点は、年次有給休暇の時季指定に対して使用者が時季変更権を行使する場合、労働基準法第39条第5項(当時は第3項)の「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当するかどうかでした。

第一審(青森地裁)では従業員側勝訴となりましたが、控訴審(仙台高裁)では、勤務割の変更をしないことに合理的な理由がある場合には時季変更権の行使は有効であるとして、会社側勝訴の判決が下されました。最高裁では上告が棄却され、控訴審判決が確定しました。

判旨

仙台高等裁判所は1984年(昭和59年)3月16日に判決を言い渡し、次のように判示しました。

「年次有給休暇の時季指定に対して使用者が時季変更権を行使する場合、『事業の正常な運営を妨げる場合』に該当するかどうかは、代替勤務者の配置の難易を含めて判断すべきである。しかし、勤務割の変更をしないことに合理的な理由がある場合には、その結果として事業の正常な運営が妨げられることを理由とする時季変更権の行使は有効である。」

本件では、従業員が年次有給休暇を取得しようとした目的が成田空港反対闘争への参加であると会社側が判断したことには相当の理由があり、公共企業体である電電公社が従業員の違法行為への参加を阻止するために勤務割の変更をしなかったことには合理的な理由があるとして、時季変更権の行使を適法と判断しました。

最高裁判所は1987年(昭和62年)9月22日に上告を棄却し、控訴審判決が確定しました。

解説

本判決は、年次有給休暇の時季変更権に関する重要な判例です。労働基準法第39条は、年次有給休暇の時季指定権を労働者に与え、使用者は「事業の正常な運営を妨げる場合」に限り時季変更権を行使できるとしています。

一般的には、代替勤務者の配置が可能な状況であれば「事業の正常な運営を妨げる場合」には当たらないと解されますが、本判決は、勤務割の変更をしないことに合理的な理由がある場合には例外的に時季変更権の行使が認められるとしました。

特に本件では、年次有給休暇の利用目的が違法行為への参加であると会社側が判断したことが、勤務割の変更をしない「合理的な理由」として認められました。これは、年次有給休暇の利用目的は原則として使用者の関知するところではないという一般原則に対する例外的な判断といえます。

この判決は、公共企業体としての特殊性や当時の社会情勢も考慮されており、一般的な私企業における年次有給休暇の取扱いとは異なる面もあることに注意が必要です。

関連条文

労働基準法第39条(年次有給休暇)、同第114条(付加金)、同第119条(罰則)

弘前電報電話局事件から学ぶべき事柄

  • 年次有給休暇の時季変更権は「事業の正常な運営を妨げる場合」に限り行使できるが、その判断には代替勤務者の配置の難易が重要な要素となる。
  • 勤務割の変更をしないことに合理的な理由がある場合には、例外的に時季変更権の行使が認められる場合がある。
  • 年次有給休暇の利用目的は原則として使用者の関知するところではないが、違法行為への参加など特殊な状況では考慮される場合もある。
  • 公共企業体と私企業では、年次有給休暇の取扱いに関する判断が異なる場合がある。

関連判例

  • 全逓名古屋中郵事件(最高裁昭和61年7月14日判決):年次有給休暇の時季指定が争議行為の一環として行われた場合の時季変更権の行使の適法性が争われた事例。
  • 時事通信社事件(東京地裁平成5年11月29日判決):年次有給休暇の時季変更権の行使に関して、代替要員の確保可能性が重要な判断要素とされた事例。

注意すべき事柄

  • 年次有給休暇の時季変更権の行使は、「事業の正常な運営を妨げる場合」という厳格な要件のもとで行われるべきである。
  • 代替勤務者の配置が可能な状況では、原則として時季変更権の行使は認められない。
  • 年次有給休暇の利用目的を理由に時季変更権を行使することは原則として許されないが、例外的な状況では認められる場合もある。
  • 弘前電報電話局事件は特殊な事案であり、一般的な私企業における年次有給休暇の取扱いとは異なる面があることに注意が必要である。

経営者・管理監督者の方へ

年次有給休暇の時季指定は、原則として労働者の権利です。使用者側は、可能な限り労働者の指定した時季に休暇が取れるよう配慮する必要があります。

時季変更権は「事業の正常な運営を妨げる場合」に限り行使できますが、この要件は厳格に解釈されます。代替要員の確保が可能な状況であれば、原則として「事業の正常な運営を妨げる」には当たりません。

年次有給休暇の利用目的を理由に時季変更権を行使することは、特殊な状況を除き避けるべきです。労働者のプライバシーを尊重し、休暇の利用目的を不必要に質問することも控えましょう。

労使間の信頼関係を構築し、年次有給休暇が円滑に取得できる職場環境の整備に努めることが重要です。

従業員の方へ

年次有給休暇の時季指定は、あなたの権利です。会社は原則としてその時季に休暇を与えなければなりません。

会社が時季変更権を行使する場合、「事業の正常な運営を妨げる」という高い要件が求められます。代替要員が確保できる状況であれば、通常は時季変更は認められません。

年次有給休暇の利用目的は原則として会社の関知するところではありませんが、違法行為への参加など特殊な目的の場合は例外的に考慮される可能性があることに留意しましょう。

休暇の時季指定をする際は、会社と十分にコミュニケーションを取り、トラブルを未然に防ぐことが望ましいでしょう。

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