前回は、休職ルールの作り方をお伝えしました。
休職期間、お金の話、連絡方法——制度を整えることの大切さが、お分かりいただけたと思います。
でも実は、制度を作るより難しいのが、「復職させていいかどうかの判断」です。
「先生、本人が『もう大丈夫です、戻りたいです』と言ってるんですが、復職させていいでしょうか?」
こんな相談が増えています。
そして、その後によく聞くのが、「復職させたら、2週間で再発してしまいました」という話です。
復職判断は、一番難しく、一番トラブルになりやすいポイントです。
早すぎれば再発して、また休職。遅すぎれば本人の復帰意欲が失われたり、「なぜ復職させてくれないのか」と不満を持たれたりします。
「本人が戻りたいと言っているから」だけで判断してはいけません。
主治医の診断書に「復職可能」と書いてあっても、鵜呑みにしてはいけません。
では、何を基準に判断すればいいのか? どんな手続きを踏めばいいのか?
今回は、復職判断の具体的な基準と手続きを、分かりやすくお伝えします。
チェックリストや面談シートも紹介するので、実際に使える形で理解していただけます。
一緒に、「復職判断の正解」を見つけていきましょう。
目次
「本人が戻りたいと言っているから」で復職させてはいけない
よくある失敗パターン
3ヶ月の休職を経て、本人から連絡が来ました。
「もう大丈夫です。仕事に戻りたいです」
診断書にも「復職可能」と書かれています。本人も前向きで、やる気も感じられます。
「それなら、来週から復職してもらおうか」
会社としては、本人の気持ちを尊重して、復職を認めました。
ところが、復職して2週間後。本人から「やっぱり無理です。また休ませてください」と連絡が来ました。
通勤の満員電車がつらい、仕事が思ったより大変だった、周りの目が気になる——結局、また休職に戻ってしまいました。
このパターン、実はとても多いんです。
「治った」と「働ける」は全く別
ここで理解しておきたいのは、「治った」と「働ける」は、全く別の話だということです。
「治った」とは:
- 症状が改善した
- 通院の必要がなくなった
- 日常生活は送れるようになった
「働ける」とは:
- 通勤できる(満員電車に乗れる、車を運転できる)
- 1日8時間、集中して働ける
- 業務をこなせる(判断力、作業スピード、正確性)
- ストレスに耐えられる(人間関係、締切、プレッシャー)
「家で過ごす分には問題ない」というのと、「フルタイムで働ける」というのは、レベルが全然違います。
主治医が診断書に「復職可能」と書くのは、多くの場合「症状は改善しました」という意味です。「職場でフルタイム勤務できます」という保証ではありません。
法的な「治癒」の意味
法律的には、「治癒」とは何を意味するのでしょうか。
判例では、「元の仕事に復帰できる状態」が原則とされています。
つまり、「軽作業ならできます」「短時間ならできます」というのは、法的には「治癒した」とは言えません。
「営業はストレスが大きいので、内勤にしてほしい」
「フルタイムは無理なので、時短勤務にしてほしい」
こうした要望が出た場合、会社として配置転換や時短勤務を認める義務があるのでしょうか?
答えは、義務ではありません。
大企業なら、別の部署に異動させることも可能かもしれません。でも中小企業では、部署も限られているし、人員にも余裕がありません。「内勤に」と言われても、そもそも内勤のポストがないこともあります。
ですから、復職の基準は「元の仕事ができる状態」と考えるのが現実的です。
会社が判断すべき4つのポイント
では、「元の仕事ができる状態」かどうか、何を基準に判断すればいいのでしょうか。
次の4つのポイントで確認してください。
①通勤できるか
職場まで、どうやって通勤しますか? 電車なら、ラッシュ時の満員電車に乗れますか? 車なら、安全に運転できますか?
通勤だけで疲れ果ててしまうようでは、仕事どころではありません。
②定時まで働けるか
1日8時間、集中力を保って働けますか? 午前中だけなら大丈夫だけど、午後になると疲れて集中できない。
これでは、フルタイム勤務は難しいですよね。
体力、集中力、持久力が、元に戻っているかを確認しましょう。
③業務を遂行できるか
仕事の内容を理解して、判断して、実行できますか? ミスなく、一定のスピードで作業できますか?
休職前と同じレベルで業務をこなせるかどうか、これが重要です。
④ストレスに耐えられるか
職場には、様々なストレスがあります。締切のプレッシャー、上司や同僚との人間関係、クレーム対応。
こうしたストレスに、耐えられるでしょうか?
少しのことでパニックになったり、落ち込んだりするようでは、まだ復職は早いかもしれません。
本人の「戻りたい」気持ちは理解しつつ、冷静に判断
本人が「戻りたい」と言う気持ちは、よく分かります。
休んでいる間、収入は傷病手当金だけで減っているし、会社に迷惑をかけているという負い目もある。
「早く戻らなきゃ」という焦りもあるでしょう。
でも、焦って復職させて再発してしまったら、結局また休職です。そうなると、本人も「またダメだった」と自信を失ってしまいます。
むしろ、「もう少ししっかり治してから戻ってきてほしい」と伝える方が、本人のためになることもあります。
「焦らなくていいよ。完全に良くなってから、戻ってきてください」
「中途半端に復職して、また休むより、しっかり治してから戻る方がいいよ」
こう伝える勇気も、必要です。
本人の「戻りたい」という言葉だけで判断せず、客観的な基準で「本当に働ける状態か」を見極めましょう。
それが、会社のためでもあり、本人のためでもあるんです。
主治医は職場のことを知らない⁉︎
主治医の診断書が「復職可能」でも鵜呑みにしない
診断書に「復職可能」と書かれていると、「お医者さんがそう言うなら、大丈夫なんだろう」と思いますよね。
でも、ちょっと待ってください。
主治医は、患者である従業員の話を聞いて、診断書を書いています。
職場の実態、どんな業務内容で、どれくらいの負荷がかかるのか、人間関係はどうなのか、そういうことは、ほとんど知りません。
本人が診察室で「もう大丈夫です。仕事に戻れます」と言えば、主治医は「それなら復職可能」と書くこともあります。
でも、本人が言う「仕事」と、実際の職場環境には、ギャップがあるかもしれません。
本人は「デスクワークだから、そんなに大変じゃない」と思っているかもしれませんが、実際には電話対応もあるし、クレーム処理もあるし、締切に追われることもある。
主治医は、そこまでは知らない事が多いです。
診断書の「復職可能」の本当の意味を確認する
診断書を受け取ったら、まず本人に確認してみましょう。
「先生には、どう伝えましたか?」
「職場の状況は、どう説明しましたか?」
本人が「もう大丈夫だと思います、と伝えました」というだけなら、主治医も詳しい状況を把握していない可能性があります。
次に、本人の同意を得て、主治医に直接確認することもできます。
ただし、個人情報保護の観点から、本人の同意書が必要です。「主治医に職場の状況を伝えて、復職可否を確認することに同意します」という書面にサインをもらいましょう。
主治医に連絡する際は、職場の具体的な状況を伝えます。
確認事項の例:
「通勤は片道○時間、満員電車を利用します。この通勤は可能でしょうか?」
「勤務時間は1日8時間、週5日です。この勤務時間に耐えられるでしょうか?」
「業務内容は○○です(具体的に説明)。立ち仕事が中心で、重いものを運ぶこともあります。この業務は可能でしょうか?」
「接客業務があり、クレーム対応もあります。ストレスのかかる場面もありますが、大丈夫でしょうか?」
こうして具体的に伝えることで、主治医も「それなら、もう少し様子を見た方がいいかもしれません」と判断が変わることもあります。
産業医がいない中小企業の対応方法
「でも、主治医に聞いても、やっぱり職場のことは分からないですよね。産業医がいれば相談できるのに…」
そう思うかもしれませんが、大丈夫です。産業医がいなくても、使える資源はあります。
外部産業医の単発相談:
自治体の「産業保健総合支援センター」では、無料で産業医の相談を受けられます。
「この診断書の内容で、復職させて大丈夫でしょうか」
「どんなことを確認すればいいですか」
こうした質問に、専門的なアドバイスをもらえます。
インターネットで「産業保健総合支援センター + (お住まいの都道府県)」で検索すれば、連絡先が見つかります。
医師会の紹介:
地域の医師会に問い合わせれば、産業医を紹介してくれることもあります。単発の相談も可能です。
社労士への相談:
社労士は医師ではありませんが、労務管理の専門家として、多くの復職事例を見ています。
「この状況なら、こういう確認をした方がいい」「もう少し詳しい診断書をもらった方がいい」といったアドバイスがもらえます。
保健師・看護師の活用:
健康保険組合によっては、保健師や看護師の相談窓口があります。
そこで健康面の相談ができることもあります。
一人で抱え込まず、使える資源を上手に活用しましょう。
復職可否判断のための面談シート(テンプレート)
復職前には、必ず本人と面談をしましょう。その際に使えるチェックリストを紹介します。
復職前面談チェックリスト(10項目)
□ 1. 通勤可能か
通勤手段は? 所要時間は? ラッシュ時の満員電車は大丈夫?
□ 2. 勤務時間
1日8時間、週5日のフルタイム勤務は可能? それとも時短が必要?
□ 3. 業務内容
具体的にどの業務ができる? 元の仕事と同じことができる?
□ 4. 対人関係
同僚とのコミュニケーションは取れる? 苦手な人との関係は?
□ 5. ストレス耐性
締切のプレッシャーは? クレーム対応は? 責任の重い仕事は?
□ 6. 主治医の見解
診断書の内容は? 主治医から具体的な指示はある?
□ 7. 本人の意欲
本当に戻りたいと思っている? 焦りや無理はない?
□ 8. 家族の支援
家庭環境は安定している? 家族の理解とサポートはある?
□ 9. 再発リスクの自覚
無理すると再発することを理解している? 体調が悪くなったらすぐ相談する意識は?
□ 10. 会社への要望
配慮してほしいことは? 残業免除、業務調整など、具体的な希望は?
この10項目を、本人と一緒に確認していきます。
すべてに「問題なし」となれば、復職OK。いくつか不安要素があれば、リハビリ勤務から始める。
多くの項目で不安があれば、もう少し療養が必要と判断します。
面談の内容は、必ず記録として残しましょう。後でトラブルになった時に、「こういう確認をした」という証拠になります。
主治医の診断書だけで復職させて失敗したケース
本人から「復職可能」の診断書が提出されました。
会社は「お医者さんがそう言うなら」と、特に詳しい確認もせずに復職を認めました。
復職初日は、なんとか通勤できました。
でも3日目、朝の満員電車でパニックになり、途中下車。そのまま会社には来られませんでした。
1週間後、本人から「やっぱり無理でした。また休ませてください」と連絡がありました。
会社としては、「診断書があったのに、どうして?」と困惑しました。でも、通勤の負荷や業務の内容を、主治医も本人も、きちんと想定できていなかったんです。
もし、復職前にしっかり面談をして、「通勤のリハーサルをしてみた?」「満員電車に乗れそう?」と確認していれば、違う結果になったかもしれません。
診断書は大切ですが、それだけで判断せず、会社の目でしっかり確認することが必要です。
リハビリ出勤で、再発のリスクを最小限に抑える
リハビリ出勤(試し出勤)とは何か
「復職させていいか、正直不安だな…」
そんな時に使えるのが、「リハビリ出勤」です。
リハビリ出勤とは、本格的な復職の前に、短時間勤務や軽い業務で職場に慣れてもらう期間のことです。
本人にとってのメリット:
- いきなりフルタイムではなく、段階的に慣れていける
- 「やっぱり無理かも」と思ったら、早めに判断できる
会社にとってのメリット:
- 本当に復職できる状態か、実際に見て判断できる
- 再発のリスクを減らせる
お互いにとって、安心材料になるんです。
法的位置づけ: 休職中 or 復職後?
リハビリ出勤には、2つのパターンがあります。
パターンA: 休職中の試し出勤
まだ正式には復職していない状態で、「試しに」出勤してもらう形です。
- 賃金は発生しない(または少額の手当のみ)
- 労災の適用なし(通勤災害も対象外)
- あくまで「試し」なので、復職ではない
パターンB: 復職後の慣らし勤務
正式に復職した上で、時短勤務や業務軽減を行う形です。
- 実働分の賃金を支払う
- 労災の適用あり
- 正式な復職だが、配慮として負荷を軽減
中小企業には、パターンBをお勧めします。
なぜなら、パターンAは労災が適用されないので、万が一通勤中に事故があったり、職場でケガをしたりした時に、トラブルになるリスクがあるからです。
パターンBなら、正式に復職しているので労災も適用されるし、賃金ルールも明確です。
リハビリ出勤の具体的な設計
では、具体的にどう設計すればいいのでしょうか。
期間: 2週間〜1ヶ月
長すぎると、判断が遅れてしまいます。短期集中で、「本当に大丈夫か」を見極めましょう。
勤務時間: 段階的に増やす
- 第1週: 1日4時間(午前のみ、または午後のみ)
- 第2週: 1日6時間
- 第3週: 1日8時間(通常勤務)
いきなりフルタイムではなく、徐々に負荷を上げていきます。
業務内容: 軽い業務から徐々に通常業務へ
最初は、負荷の軽い業務から始めます。
- 書類整理、データ入力など、プレッシャーの少ない作業
- 締切のない業務
- クレーム対応など、ストレスのかかる業務は避ける
徐々に通常業務に戻していき、3〜4週目には元の業務ができるようにします。
評価: 毎週、上司と面談
週1回、短時間でいいので上司と面談をして、状況を確認しましょう。
「今週はどうだった?」
「体調は大丈夫?」
「業務量は適切?」
この面談で、「もう少し負荷を上げても大丈夫そうだ」とか「まだちょっときつそうだな」といった判断をします。
賃金の取扱い
リハビリ勤務中の賃金はどうするか——これも、はっきり決めておきましょう。
実働分を支払う(時給換算)
たとえば、月給20万円で、通常は月160時間(1日8時間×20日)働く人の場合:
- 時給換算: 20万円 ÷ 160時間 = 1,250円
- 週20時間勤務(1日4時間×5日): 1,250円 × 20時間 = 25,000円
このように、実際に働いた時間分の賃金を支払います。
就業規則には、こう書いておきます。
「リハビリ勤務中は、実働時間に応じた賃金を支払う」
これで、本人も会社も、賃金の計算で迷うことがありません。
就業規則への規定例
リハビリ勤務についても、就業規則に書いておきましょう。
第○条(リハビリ勤務)
1. 復職後、会社が必要と認めた場合、2週間から1ヶ月のリハビリ勤務を命じることができる。
2. リハビリ勤務中は、勤務時間および業務内容を軽減し、段階的に通常勤務に戻すものとする。
3. リハビリ勤務中の賃金は、実働時間に応じて支払う。
4. リハビリ勤務期間中に、復職が困難と判断した場合は、再度休職を命じることがある。
この規定があれば、「リハビリ勤務って何?」「給料はどうなるの?」という疑問にも、明確に答えられます。
実例: リハビリ出勤で無理なく復帰できたケース
ある会社での話です。
従業員が3ヶ月の休職を経て、復職を希望しました。診断書には「復職可能」とありましたが、会社としては少し不安がありました。
そこで、2週間のリハビリ勤務を提案しました。
第1週: 午前中のみ出勤(9時〜13時)。書類整理や簡単なデータ入力を担当。
第2週: 1日6時間出勤(9時〜16時)。通常業務の一部を再開。
第3週: 1日8時間出勤(9時〜18時)。ほぼ通常業務に戻る。
毎週金曜日に、上司と15分ほど面談。「今週はどうだった?」と確認しながら進めました。
本人からは、「いきなりフルタイムだったら、きつかったと思います。
段階的に慣れていけたので、無理なく戻れました」という声がありました。
4週目からは完全に通常勤務に戻り、その後1年以上、再発なく元気に働いています。
リハビリ勤務は、再発を防ぐための、とても有効な方法です。
もし「前と同じ仕事は無理」と言われたら?
よくあるケース
復職前の面談で、こんなことを言われることがあります。
「営業の仕事は、ストレスが大きすぎて無理です。内勤にしてもらえませんか」
「○○さんとは一緒に働けません。人間関係が原因で休んだので、配置を変えてほしいです」
「残業はできません。定時で帰らせてください」
気持ちは分かります。でも、会社としては「そこまでできるかな…」と悩んでしまいますよね。
配置転換は会社の義務ではない
まず知っておいてほしいのは、配置転換は会社の義務ではないということです。
法律上、「従業員が希望したら、必ず配置転換しなければならない」という一般的なルールはありません。
ただし、以下の点に注意が必要です
- 障害者雇用促進法における合理的配慮(2024年4月から義務化)
精神障害者保健福祉手帳を持つ従業員の場合、「過度な負担」にならない範囲で、業務量の調整や配置転換などの合理的配慮を検討する義務があります。 - 安全配慮義務の観点
休職の原因が職場環境(パワハラ、過重労働等)にある場合、同じ環境に戻すことが安全配慮義務違反と判断されるリスクがあります。 - 裁判例の傾向
近年の裁判例では、復職時に一定の配慮(短時間勤務、業務軽減等)を行わなかった場合、解雇や退職勧奨が違法とされるケースが増えています。
つまり、「必ず配置転換しなければならない」わけではありませんが、「できる範囲で配慮する」ことは求められます。
大企業なら、営業部から総務部へ、製造部から企画部へ、といった異動も可能かもしれません。
複数の部署があって、人員にも余裕があるからです。
でも中小企業は違います。
そもそも部署が少ない。営業と事務、製造と管理くらいしかない。
「内勤に」と言われても、内勤のポストが空いていないこともあります。
ですから、中小企業では「できる範囲で配慮する」という姿勢が重要です。
配置転換が難しい場合は、その理由を丁寧に説明し、他の配慮(残業免除、業務軽減等)を検討しましょう。
「合理的配慮」の範囲
では、会社は何もしなくていいのか? というと、そうではありません。
「合理的配慮」という考え方があります。これは、会社の規模や実情に応じて、できる範囲で配慮するということです。
過度な負担を求められることはありません。
判例でも、「会社として配慮義務を尽くしたが、本人が通常業務に適応できなかった場合、会社の責任は認められない」とされています。
つまり、「できる範囲でやってあげた」ことが証明できれば、それ以上は求められないんです。
中小企業でできる配慮の例
では、中小企業で現実的にできる配慮とは、何でしょうか。
復職後1〜2ヶ月は残業免除
いきなり残業ありのフル稼働ではなく、定時で帰れるようにします。体力を回復させる期間として、一時的に残業を免除します。
負荷の大きい業務は一時的に外す
クレーム対応、重要案件、締切の厳しい業務など、ストレスのかかる仕事は、最初のうちは避けます。慣れてきたら、徐々に戻していきます。
上司が定期的に面談(週1回、月1回)
復職後1ヶ月は週1回、その後は月1回、短時間でいいので面談をします。「体調はどう?」「困ってることない?」と声をかけて、フォローします。
ただし、「ずっと」ではなく「期限付き」
ここが重要です。配慮は「永久」ではなく、「期限付き」にします。
「復職後3ヶ月は残業なし。その後は通常勤務に戻ります」
こうして期限を切ることで、本人も「いつまでに、通常勤務ができるようにならないといけない」と目標が持てます。
配慮の期間を明確にする
就業規則にも、こう書いておくといいでしょう。
「復職後の配慮措置は、原則として3ヶ月以内とする。期間終了後も通常勤務が困難な場合は、再度休職を命じることがある」
期限を明確にしておけば、「いつまで配慮してもらえるのか」が分かるので、お互いに認識のずれがなくなります。
配慮しても復職が難しい場合
3ヶ月間、残業なし、負荷軽減で配慮してきました。でも、配慮期間が終わっても、まだ通常勤務ができない。
この場合、どうすればいいのでしょうか。
答えは、「元の仕事ができない = 治癒していない」と判断するです。
配慮はあくまで一時的なものです。ずっと配慮し続けることは、会社にとっても他の社員にとっても、負担が大きすぎます。
配慮期間が終了しても通常業務に戻れないなら、「まだ復職できる状態ではなかった」ということです。
その場合、再度休職を命じるか、休職期間がすでに満了していれば、自然退職となります。
これは、会社が冷たいわけではありません。お互いのために、現実的な判断をしているんです。
こんなケースがありました。
復職した従業員が「営業はストレスが大きいので、事務に異動させてほしい」と希望しました。
会社は配慮として、事務部門に異動させました。でも1ヶ月後、「事務も、電話対応がストレスで無理です」と言い出しました。
会社は再度配慮して、電話対応のない業務に変えました。でもまた1ヶ月後、「この業務も、締切があってプレッシャーです」。
3回目の配置転換を繰り返したところで、会社も「これ以上は無理だな」と判断しました。
本人とも話し合った結果、「どの仕事も、何かしらストレスはある。自分には、今の状態では働くこと自体が難しいのかもしれない」と本人も気づき、最終的には退職となりました。
会社としては、3回も配置転換して、十分配慮しました。それでも適応できなかったのは、本人の状態がまだ「働ける」レベルに達していなかったということです。
会社は、できる範囲で配慮する。でも、限界もあります。その線引きを、明確にしておくことが大切です。
復職後の受け入れ体制と「特別扱い」の線引き
復職を受け入れる側の準備
復職するのは本人ですが、実際に一緒に働くのは、上司や同僚です。受け入れる側の準備も、とても大切です。
準備すべきこと:
- 上司・同僚への事前説明
- 業務分担の見直し
- 定期面談のスケジュール設定
何の準備もなく「明日から○○さんが戻ってきます」とだけ伝えても、現場は戸惑ってしまいます。
上司・同僚への説明方法
復職前に、上司や一緒に働く同僚に、どう説明すればいいでしょうか。
プライバシー保護とのバランス
病名や休職の詳しい理由は、本人のプライバシーです。周りに詳しく話す必要はありません。
説明すべきこと:
「○○さんが、来週から復職します」
「しばらくの間は、残業なしで、負荷の軽い業務から始めてもらいます」
「皆さんには、サポートをお願いします。何か気になることがあれば、遠慮なく相談してください」
これくらいで十分です。
説明しない方がいいこと:
- 病名(「うつ病で休んでいた」など)
- 休職の詳しい理由(「パワハラが原因で」など)
- 「メンタルだから」などのラベリング
こうした情報は、本人への偏見や、職場での気まずさを生んでしまうことがあります。
「体調不良で休んでいた」くらいの説明にとどめておきましょう。
業務量の調整
復職直後は、フル稼働させないことが大切です。
8割程度の業務量から始める
いきなり100%の業務を任せるのではなく、まずは80%くらいから。慣れてきたら、徐々に100%に戻していきます。
1ヶ月ごとに見直し
「今月はこれくらいの業務量でやってみよう」と決めて、月末に振り返ります。「もう少し増やしても大丈夫そうだな」と思ったら、翌月から増やします。
残業は当面免除
復職後1〜2ヶ月は、残業なしにします。定時で帰れるようにすることで、無理なく仕事に慣れていけます。
重要案件・締切の厳しい業務は避ける
最初のうちは、プレッシャーの少ない業務を中心に任せます。「この案件は絶対に今週中に!」といった締切の厳しい仕事は、もう少し慣れてからにしましょう。
定期面談の実施
復職後も、定期的に面談を行いましょう。
頻度:
- 復職後1ヶ月: 週1回
- 2ヶ月目以降: 月1回
面談で確認すること:
「体調はどう? 無理してない?」
「業務量は適切? 多すぎない?」
「困っていることはない?」
「夜はちゃんと眠れてる?」
長時間である必要はありません。10〜15分、短い時間でいいので、定期的に声をかけることが大切です。
面談メモを残す
面談の内容は、簡単でいいので記録に残しましょう。
「○月○日、面談実施。体調良好、業務量も問題なし」といったメモです。
後で「ちゃんとフォローしていた」という証拠にもなります。
「特別扱い」と「必要な配慮」の線引き
復職者への配慮は大切です。でも、やりすぎると「特別扱い」になってしまい、他の社員から不満が出ることがあります。
必要な配慮:
- 復職後の一時的な負荷軽減(1〜3ヶ月)
- 残業免除(期限付き)
- 定期的な面談とフォロー
特別扱い(避けるべき):
- ずっと楽な仕事だけを割り振る
- 他の社員より明らかに優遇する
- 期限なく配慮し続ける
他の社員から見て、「あの人だけ、ずっと楽してる」と思われてしまうと、チーム全体の士気が下がります。
大切なのは、「期限付き」であることを周知することです。
「復職後3ヶ月は、残業なしで負荷を軽減します。その後は、通常勤務に戻ります」
こう説明しておけば、周りも納得しやすくなります。
過度な配慮は不要という判例
判例でも、「会社として配慮義務を尽くしたが、本人が通常業務に適応できなかった場合、会社の責任は認められない」とされています。
つまり、中小企業は「できる範囲で」配慮すれば十分なんです。
無理して、他の社員に過度な負担をかけてまで配慮する必要はありません。
配慮しすぎて他の社員から不満が出たケース
復職した社員に、ずっと軽い仕事だけを割り振っていました。書類整理やデータ入力など、負荷の少ない業務ばかりです。
その結果、他の社員に、締切の厳しい業務やクレーム対応が集中してしまいました。
1ヶ月、2ヶ月と経つうちに、他の社員から「なんであの人だけ、楽な仕事ばっかりなんですか」と不満の声が上がり始めました。
「こっちは残業続きなのに、あの人は定時で帰ってる。不公平じゃないですか」
チーム全体の雰囲気が悪くなり、結局、復職した本人も居づらくなって、再び休職してしまいました。
配慮は大切ですが、バランスも大切です。復職者だけでなく、周りの社員のことも考えて、調整していきましょう。
トラブルを防ぐ「再発時の通算規定」と自然退職
復職後の再発リスク
無事に復職できた——これで一安心、と思いたいところですが、実は復職後こそ、注意が必要です。
統計的にも、復職後6ヶ月から1年以内に再発するケースが多いと言われています。
再発の理由:
- 無理して復職してしまった
- 職場の環境が変わっていない
- 根本的な原因が解決していない
「もう大丈夫」と思って復職したけれど、実際に働き始めたら、やっぱりきつかった。こういうことが、残念ながら起こるんです。
再休職の場合の期間通算規定
もし復職後すぐに再発して、また休職になった場合、休職期間はどうカウントするのでしょうか。
通算規定がない場合:
1回目の休職: 6ヶ月 → 復職 → 1ヶ月後に再休職
2回目の休職: また最初から6ヶ月カウント
つまり、合計で1年以上休職できてしまいます。そして、また復職して、また再休職…を繰り返すことも、理論上は可能になってしまいます。
通算規定がある場合:
「復職後6ヶ月以内に、同一または類似の事由で再度休職した場合、前回の休職期間と通算する」
こう規定しておけば:
1回目の休職: 6ヶ月 → 復職 → 1ヶ月後に再休職
2回目の休職: 残りは5ヶ月(6ヶ月 – 1回目の6ヶ月 = 0ヶ月、なので実質すぐに満了)
正確には、1回目で6ヶ月使い切っているので、2回目の休職は「すでに満了」となり、自然退職となります。
通算規定の合理性
「それって、厳しすぎない?」と思うかもしれません。
でも、考えてみてください。復職後すぐに再発するということは、「まだ完全には治っていなかった」ということです。
会社としては、6ヶ月間待ちました。復職も認めました。
でも、1ヶ月で再発してしまった。これでまた6ヶ月待つのは、現実的に難しいですよね。
通算規定は、本人にとっても、「無理な復職はしない方がいい」という抑止力になります。
「復職後すぐに再発したら、通算されて満了になってしまう。だから、本当に治ってから復職しよう」
こう考えることで、焦った復職を防げるんです。
通算期間の設定(一般的な例)
通算する期間は、会社の実情に合わせて決めます。
一般的な設定:
- 復職後3ヶ月以内 → 通算
- 復職後6ヶ月以内 → 通算
- 復職後6ヶ月超 → 別の休職としてカウントリセット
つまり、復職後6ヶ月以上経ってから再発した場合は、「もう前回とは別の問題だろう」と考えて、新たな休職期間を与える、という考え方です。
条文例:
第○条(休職期間の通算)
復職後6ヶ月以内に、同一または類似の事由で再度休職した場合、前回の休職期間と通算する。通算して休職期間が満了した場合は、期間満了日をもって自然退職とする。
この一文を就業規則に入れておくだけで、繰り返す休職への対応が明確になります。
繰り返す休職への対応の限界
休職 → 復職 → 休職 → 復職 → 休職…
これを3回、4回と繰り返す。通算規定の期間(6ヶ月)を超えてから再発しているので、毎回リセットされてしまう。
会社としても、本人としても、これはつらい状況です。
会社側:
- 代替人員の確保と解除を繰り返す
- 業務の引継ぎを何度もやり直す
- 他の社員への負担が続く
本人側:
- 「また再発してしまった」という自信喪失
- 職場での居場所がなくなる感覚
- 収入も不安定
こういう場合、会社としても本人としても、「このまま続けるのは、お互いのためにならないのでは?」と考える時期が来ます。
通算規定で期間満了となった時は、「これ以上、無理な就労を続けるより、しっかり治療に専念するか、別の環境で働く方がいいのかもしれない」という判断をする時です。
これは、会社が冷たいわけではありません。本人のためでもあるんです。
通算規定があって助かったケース
従業員が6ヶ月の休職を経て、復職しました。でも、復職後2ヶ月で再発。また休職に入りました。
就業規則には「復職後6ヶ月以内の再休職は通算」と書かれていました。
ですから、2回目の休職は、残り4ヶ月(6ヶ月 – すでに使った6ヶ月 = 実質すでに満了)。
会社は本人に説明しました。「前回の休職期間と通算すると、すでに満了となります。残念ですが、退職という形になります」
本人も、就業規則を確認して、「そうですね。分かりました」と納得してくれました。
「2回も休職して、会社にも迷惑をかけました。これ以上は無理だと、自分でも思います。別の道を探してみます」
本人も、「無理して働き続けるより、一度リセットしたい」と考えていたようです。
お互いに納得の上で、円満に退職となりました。
通算規定があったからこそ、お互いが冷静に判断でき、円満に終われたんです。
まとめ
復職判断は、メンタルヘルス対応の中で最も難しく、最もトラブルになりやすいポイントです。でも、明確な基準と手続きがあれば、自信を持って判断できます。
この記事でお伝えした大切なポイントを、もう一度振り返りましょう。
復職の基準は「元通り働ける」こと。 「治った」と「働ける」は別物です。本人が「戻りたい」と言っているだけで判断せず、通勤、勤務時間、業務遂行、ストレス耐性の4つのポイントで確認しましょう。
主治医の診断書は参考にするが、鵜呑みにしない。 主治医は職場の実態を知りません。会社として、職場の具体的な状況を伝えて、確認することが大切です。産業医がいなくても、外部の資源を活用できます。
リハビリ勤務で段階的に復帰する。 いきなりフルタイムではなく、短時間・軽作業から始めて、徐々に負荷を上げていきます。再発のリスクを最小限に抑えられます。
配慮は「できる範囲で」「期限付き」で。 配置転換は義務ではありません。中小企業でできる配慮を、期限を切って行いましょう。配慮期間が終わっても通常勤務ができなければ、治癒していないと判断します。
再発時の通算規定で、繰り返す休職を防ぐ。 復職後すぐの再発は、前回の休職期間と通算する規定を作りましょう。無理な復職を防ぎ、お互いにとって良い判断ができます。
次回は、メンタル不調の初期対応について詳しく解説します。「最近、あの人元気ないな」と気づいた時、どう声をかければいいのか。重症化を防ぐための、日常の対応をお伝えします。
復職判断は難しいですが、基準を持って丁寧に進めれば、必ず道は開けます。一緒に、一歩ずつ進んでいきましょう。

