行橋労基署長事件
社員が会社の中国人研修生の歓送迎会に出席した後、業務の一環として研修生を送る途中に交通事故で死亡した事案です。
争点・結論
歓送迎会後の交通事故による死亡が業務上の災害に該当するかが争点でした。最高裁は、歓送迎会が事業活動に密接に関連し、社員に参加の事実上の強制があったと認め、死亡を業務上の災害と判断しました。
判旨
労働者の災害が業務災害に関する保険給付の対象となるには、それが業務上の事由によるものであることを要するところ、そのための要件の一つとして、労働者が労働契約に基づき事業主の支配下にある状態において当該災害が発生したことが必要であると解するのが相当である。
本件歓送迎会は、研修の目的を達成するために会社において企画された行事の一環であり、研修生と従業員との親睦を図ることにより、会社及び親会社と子会社との関係の強化等に寄与するものであり、会社の事業活動に密接に関連して行われたものというべきである。また、社員は、歓送迎会の終了後に自己の業務を再開するために会社に戻る際、併せて研修生を送っていたところ、もともと研修生を送ることは、歓送迎会の開催に当たり、部長により行われることが予定されていたものであり、会社とアパートの位置関係に照らし、飲食店から会社へ戻る経路から大きく逸脱するものではないことにも鑑みれば、社員が部長に代わってこれを行ったことは、会社から要請されていた一連の行動の範囲内のものであったということができる。以上の諸事情を総合すれば、社員は、会社により、その事業活動に密接に関連するものである本件歓送迎会に参加しないわけにはいかない状況に置かれ、本件工場における自己の業務を一時中断してこれに途中参加することになり、本件歓送迎会の終了後に当該業務を再開するために本件車両を運転して本件工場に戻るに当たり、併せて部長に代わり本件研修生らを本件アパートまで送っていた際に本件事故に遭ったものということができるから、本件歓送迎会が事業場外で開催され、アルコール飲料も供されたものであり、本件研修生らを本件アパートまで送ることが部長らの明示的な指示を受けてされたものとはうかがわれないこと等を考慮しても、社員は、本件事故の際、なお本件会社の支配下にあったというべきである。また、本件事故による社員の死亡と上記の運転行為との間に相当因果関係の存在を肯定することができることも明らかである。
解説
業務上の事由による災害は、労働契約に基づき事業主の支配下で発生した災害です。この判決は、事業場外での行事や任意の送迎行為も、事業活動に密接に関連し、事実上の強制がある場合、業務上の災害として認める広い解釈を示しています。
関連条文:
労働者災害補償保険法第3条(業務災害の定義)、労働者災害補償保険法第4条(業務災害に関する保険給付の種類)、労働者災害補償保険法第5条(遺族補償給付)、労働者災害補償保険法第6条(葬祭料)
行橋労基署長事件から学ぶべき事柄
- 事業主の事業活動に密接に関連する行事や行動に従業員が参加する場合、事業主の支配下にあるとみなされる可能性があります。
- 事業主の支配下で発生した災害は、業務上の事由による災害として労災保険の対象になります。
- 事業主は、従業員の安全を確保するために、事業活動に関連する行事や行動について、必要な指示や注意を行うべきです。
関連判例
- 三菱自動車事件:会社の飲み会後、自宅に帰る途中の交通事故で死亡したが、業務災害とは認められなかった事例。
- マルハニチロ事件:同様の状況で、業務災害と認められた事例。
注意すべき事柄
- 事業活動に関連する行事や行動に従業員を参加させる場合、その目的や内容、範囲、期間を明確にすることが重要です。
- 従業員の安全を確保するために、飲酒の制限や交通手段の指定などの措置を講じることが必要です。
- 従業員が事故に遭った場合、その事故が業務上の事由によるものかどうかを慎重に判断し、労災保険の申請や遺族への対応を行うことが求められます。
経営者・管理監督者の方へのアドバイス
- 事業活動に密接に関連する行事や従業員の行動については、その範囲や期間を明確に定め、就業規則等に規定しておくことが重要です。
- 行事や従業員の行動について、参加の義務付けや事実上の強制がある場合は、事業主の支配下にあるとみなされる可能性が高くなります。そのため参加の自由度を確保することが求められます。
- アルコール提供を伴う行事の開催時は、飲酒運転防止対策を徹底する必要があります。代替交通手段の確保や飲酒制限ルールの設定などの措置が重要です。
- 従業員に危険が及ぶ可能性のある行為や移動を求める際は、安全確保の観点から具体的な指示や対策を講じることが不可欠です。
- 事故発生時には、迅速に事故原因と業務起因性を調査し、労災保険手続きや被災従業員への適切な対応を行う必要があります。
- 行事や従業員行動の業務性判断は個別具体的な状況によって異なるため、最新の判例動向にも留意し、必要に応じて専門家に相談することをおすすめします。
従業員の方へのアドバイス
- 会社の行事や指示による行動で事故や災害に遭った場合、労災保険給付を受ける権利が発生する可能性があります。
- 行事や指示の内容が、会社の事業活動と密接に関連し、参加や従事を拒否できない状況であった場合は、業務災害と判断される公算が高まります。
- 行事への参加が任意であったとしても、飲酒や遅くまでの時間帯の行事であれば、事業主の安全配慮義務が発生します。事故時の救済を求められる場合があります。
- アルコールを伴う行事では、飲酒運転のリスクに十分注意を払う必要があります。代替交通手段を確保するよう会社に求めましょう。
- 行事や従業員行動による被災の有無や業務起因性に疑義がある場合は、労働組合や労働基準監督署に相談し、専門家のアドバイスを仰ぐことをおすすめします。
- 行事や行動の過程で災害に遭った際は、事故状況を正確に説明し記録に残すことが重要です。労災認定のための根拠となります
