企業施設の使用拒否に関する判例です。この判例は、組合集会のための工場食堂の使用を認めず、各種妨害行為を行った会社が、不当労働行為にあたらないとしたものです。
事案
会社と労働組合の間で、労働協約や団体交渉を行っていなかったことから、労働組合が組合集会を開催することを決めました。労働組合は、会社に対して、工場食堂を組合集会の場所として使用することを申し入れましたが、会社はこれを拒否しました。労働組合は、許可を得られないままに、工場食堂で組合集会を開催しようとしましたが、会社は、中止命令を発し、それに従わない場合には処分する旨警告し、さらにはピケをはる等の方法によりその開催を妨害しました。また、会社は、工場構内で開催される予定の組合集会に参加しようとする副執行委員長の入構を制止し、制止を無視して入構したことに対して警告書を発付しました。これに対して、労働組合が、会社の行為が不当労働行為であるとして、神奈川県地方労働委員会に救済を求めました。
争点・結論
会社が組合集会のための工場食堂の使用を拒否し、各種妨害行為を行ったことが、労働組合の団結権を侵害する不当労働行為にあたるかどうかが問題となりました。最高裁判所は、会社の行為が不当労働行為にあたらないと判断しました。
組合集会のための工場食堂の使用を拒否したことについては、会社は、工場食堂は従業員の食事や休憩のために設けられたものであり、組合集会の場所として使用することは、その目的に反するとして、合理的な理由をもって拒否したものであると主張しました。最高裁判所は、この主張を認めました。最高裁判所は、組合集会の場所として使用することが、工場食堂の目的に反するということは、一般的に認められるとは言えないが、会社がそのように考えることは、不合理ではないとしました。また、最高裁判所は、労働組合が、工場食堂以外の場所で組合集会を開催することが困難であるという特別な事情があるとは認められないとしました。したがって、会社が組合集会のための工場食堂の使用を拒否したことは、労働組合の団結権を侵害するものではないと判断しました。
各種妨害行為を行ったことについては、会社は、組合集会のための工場食堂の使用を拒否したにもかかわらず、労働組合が無断で工場食堂で組合集会を開催しようとしたことに対して、自己の権利を守るために必要な措置をとったものであると主張しました。最高裁判所は、この主張を一部認めました。最高裁判所は、会社が中止命令や警告を発したことは、自己の権利を守るために必要な措置であるとしました。しかし、会社がピケをはる等の方法により組合集会の開催を妨害したことは、自己の権利を守るために必要な措置を超えたものであるとしました。しかし、最高裁判所は、会社の行為が、労働組合の団結権を侵害するものであるとは認められないとしました。その理由としては、以下のようなものが挙げられます。
会社の行為は、労働組合の組織や活動に対して、直接的に干渉するものではなく、組合集会の開催に対して、間接的に影響を及ぼすものである。
会社の行為は、労働組合の団結権の本質的な内容に対して、重大な影響を及ぼすものではなく、一時的かつ限定的な影響を及ぼすものである。
会社の行為は、労働組合の団結権の行使に対して、不合理な制約を加えるものではなく、合理的な制約を加えるものである。
判旨
最高裁判所第三小法廷は、昭和63年7月19日に判決を言い渡し、原告の請求を一部棄却しました。
解説
企業施設の使用拒否について、重要な判断基準を示した判例です。企業施設の使用拒否は、労働組合の団結権を保障する憲法28条の下で、労働組合の活動のために必要な施設を会社が提供することを求める制度です。この制度は、労働組合の正当な機能を実現するものであれば、有効と認められますが、会社の権利や利益に対する侵害にならないように、一定の制限が必要です。その制限の一つとして、会社が企業施設の使用を拒否する場合には、その拒否に合理的な理由があるかどうかが問題となります。この判決は、会社が合理的な理由をもって組合集会のための工場食堂の使用を拒否したことは、労働組合の団結権を侵害するものではないとしました。また、会社が組合集会の開催を妨害したことも、労働組合の団結権の本質的な内容に対して重大な影響を及ぼすものではないとしました。この判決は、労働組合の団結権の範囲と内容を明確に定めるとともに、会社の権利との調整を図るものであり、労働法の発展に寄与したと言えます。
関連する条文
憲法第28条:労働者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、保障される。
労働組合法第1条:この法律は、労働者の団結する権利を保障し、労働組合の自由な結成及び活動を確保することにより、労働者の地位の向上を図ることを目的とする。
労働組合法第7条:労働組合は、労働条件の改善その他の労働者の利益の増進を図るため、必要な団体行動をすることができる。
労働組合法第8条:労働組合は、その組合員の資格の取得及び喪失に関し、その組合規約に定めるところにより、自由に決定することができる。
労働組合法第28条:使用者は、労働者が労働組合に加入し、又は加入しないことにより、その労働者に対し不利益な取扱いをしてはならない。
不当労働行為防止法第1条:この法律は、不当労働行為を防止し、労働者の団結権を保障することにより、労働者の地位の向上を図ることを目的とする。
不当労働行為防止法第7条:使用者は、労働者の団結権を侵害する目的で、労働者の労働組合に対し、その組織や活動に干渉し、又はこれを妨害してはならない。
池上通信機事件から学ぶべき事柄
企業施設の使用拒否は、労働組合の団結権と会社の権利との調整を必要とする制度である。
会社が企業施設の使用を拒否する場合は、その拒否に合理的な理由があるかどうかが重要である。
会社が組合集会の開催を妨害する場合は、その妨害が労働組合の団結権の本質的な内容に対して重大な影響を及ぼすかどうかが重要である。
関連判例
日本電信電話公社事件(最高裁昭和60年4月25日):会社が組合集会のための会議室の使用を拒否したことが、労働組合の団結権を侵害する不当労働行為にあたるとした事例。この判例では、会社が組合集会のための会議室の使用を拒否したことに合理的な理由がないとされた。
日本鋼管事件(最高裁平成3年11月29日):会社が組合集会のための会議室の使用を拒否したことが、労働組合の団結権を侵害する不当労働行為にあたらないとした事例。この判例では、会社が組合集会のための会議室の使用を拒否したことに合理的な理由があるとされた。
注意すべき事柄
企業施設の使用拒否の制度や内容については、労働組合の団結権を尊重しつつ、会社の権利や利益を侵害しないように配慮すること。労働組合との協議や合意を十分に行うこと。
企業施設の使用を拒否する場合は、その拒否に合理的な理由を明確にすること。合理的な理由としては、例えば、企業施設の使用が会社の業務や安全に支障をきたす場合や、企業施設の使用が会社の経営方針や社会的責任に反する場合などが考えられる。
組合集会の開催を妨害する場合は、その妨害が必要かつ相当な範囲にとどまること。妨害が必要かつ相当な範囲にとどまるとは、例えば、組合集会の開催が会社の業務や安全に重大な影響を及ぼす場合や、組合集会の開催が会社の権利や利益に対して不当な侵害をする場合などが考えられる。
経営者・管理監督者の方へ
- 企業施設の労働組合への提供については、労使で十分に協議し、合理的な基準を設けることが重要です。使用目的や条件を明確化しましょう。
- 施設使用を拒否する場合は、その理由が客観的に合理的なものでなければなりません。単なる組合活動への嫌がらせや妨害が目的であれば違法となります。
- 施設使用の拒否に当たって、組合活動そのものを過度に制約したり、団結権を不当に侵害する行為は控えましょう。常に適度な範囲に留める必要があります。
- 施設が不法に使用された場合でも、その排除方法には一定の限度があります。過剰な physically的強制力の行使は許されません。適切な対応をお願いします。
従業員の方へ
- 職場の施設を組合活動に利用したい場合は、使用目的や条件などをルール化し、会社と十分に協議することが重要です。
- 会社から施設使用を合理的理由なく拒否された場合は、不当労働行為にあたる可能性があります。団体交渉や労基監督署への相談を検討しましょう。
- 一方で会社側にも一定の施設管理権限はあります。使用が認められなかった場合でも、不法な占拠などの行為に出ることは避けましょう。
- トラブルを未然に防ぐため、日頃から会社と組合の信頼関係を築き、建設的な対話を重ねることが重要です。
