前回は、メンタル不調を放置することのリスクについてお伝えしました。
「うちにも起こるかもしれない」と感じた方も多いのではないでしょうか。
では、実際に従業員が「もう無理です」と言ってきたら、どうすればいいのか。
休職させるべき? それとも、もう少し様子を見るべき? 休職させるなら、いつまで? 給料はどうする?
「休職制度なんて、大企業だけの話でしょ」
そう思っていませんか? 実は、それは大きな誤解です。
むしろ中小企業にこそ、休職制度が必要なんです。
なぜなら、ルールがないと、その場その場で判断することになり、結果的に不公平感やトラブルを生んでしまうから。
「Aさんの時は3ヶ月待ったのに、私は1ヶ月で退職を迫られた」
「給料が出ると思っていたのに、無給だと言われた」
こうした「言った言わない」「聞いてない」のトラブルを防ぐためにも、休職制度をきちんと整えておくことが大切です。
今回は、中小企業の実情に合った休職ルールの作り方を、具体的にお伝えします。
「明日から使える」内容を目指しますので、一緒に進めていきましょう。
目次
大企業のマネは禁物! 中小企業にちょうどいい「休職期間」の決め方
休職制度は法律で決まっていない = 会社が自由に設計できる
まず知っておいてほしいのは、休職制度は法律で決まっているものではない、ということです。
有給休暇や育児休業は、法律で「与えなければならない」と決まっています。でも休職制度は違います。法律には「休職制度を作りなさい」とは書いていません。
つまり、休職制度を作るかどうか、作るならどんな内容にするかは、会社が自由に決められます。
「じゃあ、作らなくてもいいの?」と思うかもしれませんが、そうではありません。
制度が「ない」ことのリスクと、「ある」ことの安心感を比べてみましょう。
制度がないと
- いつまで待つか、その都度判断しなければならない
- 従業員ごとに対応が変わり、不公平感が生まれる
- トラブルになった時、会社側の判断根拠がない
制度があると
- 「休職期間は○ヶ月」と決まっているから、迷わない
- 全員に同じルールを適用できる
- 従業員も「いつまで休めるのか」が分かって安心
つまり、休職制度は会社にとっても従業員にとっても、お互いを守るものとなります。
大企業の真似は不要、むしろ危険
「休職制度を作るなら、大企業を参考にすればいいのかな」
そう考えるかもしれませんが、ちょっと待ってください。
大企業の就業規則を見ると、「休職期間2年」とか「勤続10年以上は3年」なんて書いてあることがあります。でも、これを中小企業がそのまま真似するのは、かなり危険です。
大企業は人員に余裕があります。100人、1,000人の会社なら、1人が2年休んでも、他の人でカバーできる体制があります。
人事部もあるし、代替人員を確保する予算もあります。
でも中小企業は違います。
従業員10人、20人、50人の会社で、1人が2年も休んだら、現場はどうなりますか?
その間、他の社員に負担がかかり続けます。代替人員を雇う余裕もないかもしれません。
無理な制度を作ると、結局守れなくなります。「規則には2年と書いてあるけど、実際はもっと早く退職してもらった」となれば、それはそれでトラブルの元です。
大企業の真似をする必要はありません。自社の規模、業種、実情に合った、現実的な制度を作る事が大切です。
中小企業向けのシンプルな期間設定
では、中小企業の休職期間は、どれくらいが適切なのでしょうか。
一般的には、こんな設定が多いです。
勤続3年未満: 3〜6ヶ月
勤続3年以上: 6ヶ月〜1年
なぜ勤続年数で分けるのか?
それは、長く働いてくれた人には、少し長めに待つという考え方です。
入社して数ヶ月の人と、10年働いてくれた人では、会社への貢献度も違いますよね。
もちろん、これは一例です。会社の実情に合わせて調整してください。
考慮すべきポイント
- 代替人員を確保できるか
- 業務の属人性(その人しかできない仕事が多いか)
- 他の社員の負担
- 会社の経営状況
「長すぎず、短すぎず」のバランスが大切です。
短すぎると、本人が十分に療養できず、すぐに退職になってしまいます。
でも長すぎると、会社の負担が大きくなりすぎます。
従業員30人くらいの会社なら、「勤続3年未満は3ヶ月、3年以上は6ヶ月」くらいが現実的かもしれません。従業員10人以下の小さい会社なら、「一律3ヶ月」としている例もあります。
正解はありません。自社に合った期間を、じっくり考えてみてください。
「解雇を避ける手段」としての休職という考え方
休職制度のもう一つのメリットは、「解雇を避けられる」ということです。
従業員が体調不良で働けなくなった時、いきなり「解雇」というのは、法律的にも心理的にもハードルが高いですよね。
解雇には厳格なルールがあって、簡単にはできません。
でも、休職制度があれば、まず「休職」という選択肢を提示できます。
「無理して働き続けるより、一度休んでしっかり治してから戻ってきてほしい」
こう伝えることで、本人も「ちゃんと休んでいいんだ」と思えます。
会社も、「すぐに解雇するわけじゃない。復帰を待っている」という姿勢を示せます。
そして休職期間中に、本人も会社も、冷静に今後のことを考えられます。
復職できそうなら復職すればいいし、難しそうなら円満に退職という道もあります。
いきなり解雇するより、ずっとお互いにとって良い形になります。
休職制度は、「会社が従業員を切るための制度」ではなく、
「お互いが冷静に判断するための、猶予期間を作る制度」でもあります。
一番揉める「お金」の話を、最初にはっきりさせておく
給与、社会保険料、賞与の扱い
休職中の給与: 原則無給が一般的
休職制度を作る時、一番トラブルになりやすいのが「お金」の話です。
「休職中、給料は出るんですか?」
これは必ず聞かれる質問です。
結論から言うと、法律上、休職中の賃金を支払う義務はありません。
つまり、「無給」とすることも、「一部支給」とすることも、会社が自由に決められます。
ただ、現実を考えると、「無給」とするのが一般的です。
働いていない期間に給料を払い続けるのは、会社にとって大きな負担です。
特に人員に余裕のない企業では、その分を他の社員の残業代に回したり、代替人員を雇ったりする必要があるかもしれません。
ですから、就業規則には「休職期間中は無給とする」と明記しておくことをお勧めします。
傷病手当金の説明をきちんとする
「無給」と聞くと、従業員は「休んだら収入がゼロになる」と不安になりますよね。
でも実は、健康保険から「傷病手当金」という給付が受けられる制度があります。
傷病手当金とは
- 健康保険から、給与の約3分の2が支給される
- 最長1年6ヶ月まで受給できる
- 本人が申請するが、会社の証明も必要
たとえば、月給30万円の人なら、傷病手当金は月に約20万円。生活費としては何とかなる金額です。
会社には、傷病手当金の説明義務はありません。でも、説明してあげることをお勧めします。
なぜなら、「休んでも収入がゼロじゃない」と分かれば、本人も安心して療養できるから。無理して働き続けて悪化するより、しっかり休んで早く治す方が、本人にとっても会社にとってもプラスです。
「休職になったら、傷病手当金という制度があるから、手続きを案内するね」
この一言を伝えるだけで、本人の不安はずいぶん軽くなります。
社会保険料の取扱い
休職中、給与は無給でも、社会保険料は発生し続けます。
健康保険料、厚生年金保険料——これらは、休職中も払い続けなければなりません。
会社負担分: 会社が払う
本人負担分: 本人が払う
ここで問題になるのが、本人負担分をどうやって徴収するか、です。
普段は給与から天引きしているので、問題ありません。でも休職中は給与がゼロ。天引きできません。
ですから、就業規則に「本人負担分は、本人が会社指定の方法で支払う」と明記しておきましょう。
徴収方法の例
- 銀行振込で毎月払ってもらう
- 口座振替の手続きをする
- 復職後に給与から分割で天引き
どの方法を取るかは、会社と本人で相談して決めればOKです。
ただし、「払ってくれない」というトラブルもあり得ます。
だからこそ、就業規則に「休職中も社会保険料の本人負担分は支払う義務がある」と書いておくことが大切です。
実際の条文例としては、こんな感じです。
「休職期間中の社会保険料本人負担分は、本人が会社指定の方法で支払うものとする。支払いが滞った場合、復職後の給与から控除することがある」
賞与・退職金の算定への影響
休職期間は、賞与や退職金の計算にどう影響するのか——これも、あらかじめ決めておくべきです。
賞与について
賞与は通常、「○月〜○月の勤務に対して支給」という算定期間があります。
その期間中に休職していた場合、賞与をどうするか?
- 全額カット
- 休職期間分を減額
- 通常通り支給
会社によって判断は分かれますが、中小企業では「休職期間は賞与算定期間から除外する」つまり、休職していた分は減額、というのが一般的です。
退職金について
退職金を勤続年数で計算している会社の場合、休職期間を勤続年数に含めるかどうか、も決めておきます。
これも会社の判断ですが、「休職期間は勤続年数に含めない」としている例が多いです。
大切なのは、就業規則にきちんと書いておくこと。後から「そんな話は聞いてない」と言われないようにしましょう。
具体的な条文例
最後に、すぐに使える条文例を紹介します。
第○条(休職中の給与等)
1. 休職期間中は、無給とする。
2. ただし、健康保険の傷病手当金を受給できる場合は、会社はその手続きを支援する。
3. 休職期間中の社会保険料本人負担分は、本人が会社指定の方法で支払うものとする。
4. 休職期間は、賞与の算定期間に含めない。
5. 休職期間は、勤続年数に算入しない。この条文をベースに、自社の実情に合わせてアレンジしてください。
お金の話は、最初にはっきりさせておくことが、トラブル防止の鍵です。曖昧なままにしておくと、後で必ず揉めます。「無給」なら無給、「一部支給」なら一部支給と、明確に決めて、従業員にも伝えましょう。
「診断書の言葉」をどう読み解き、どう動くか?
医師の判断と会社の判断は別
診断書に書かれるべき情報
従業員が「体調が悪いので休みたい」と言ってきた時、会社としては診断書を提出してもらうのが一般的です。
でも、診断書を受け取っても、「これ、どう判断すればいいの?」と迷うことがあります。
診断書に書かれているべき情報は、本来こういうものです。
病名: できるだけ具体的に(「うつ病」「適応障害」など)
療養期間: 「○ヶ月の療養を要する」と具体的な期間
就労可否: 「就労不可」「軽作業なら可能」など、どこまでできるかの判断
この3つがしっかり書かれていれば、会社としても判断しやすいですよね。
曖昧な診断書の例
でも実際には、こんな診断書が出てくることもあります。
- 病名が「自律神経失調症」「うつ状態」と曖昧
- 療養期間が「当分の間」「しばらく」
- 就労可否が「療養が必要」としか書いていない
これでは、会社は困ってしまいます。
「当分の間って、具体的にいつまで?」
「しばらくって、1ヶ月? 3ヶ月? 半年?」
「療養が必要って、完全に休むべき? それとも軽い仕事ならできる?」
こういう曖昧な診断書では、休職期間をどう設定すればいいのか、復職の判断をどうすればいいのか、分かりません。
会社が確認すべきポイント
診断書が曖昧な場合、会社としてはどうすればいいのでしょうか。
まず本人に:
「この診断書だと、具体的な期間が分からないので、もう少し詳しい診断書をもらってきてもらえますか?」
こう伝えて、再度受診してもらいます。
その際、医師に確認してほしいことを、本人に伝えておくといいでしょう。
確認してほしいこと:
- 具体的な療養期間(○ヶ月)
- 通勤は可能か(満員電車に乗れるか、車の運転はできるか)
- 1日何時間なら働けるか
- どんな仕事ならできるか(事務作業、軽作業、対人業務など)
- ストレスのかかる場面に耐えられるか
本人の同意があれば、主治医に直接問い合わせることもできます。
主治医に電話やFAXで、「○○さんの職場の状況は、こういう内容です。通勤は片道1時間、業務は立ち仕事で1日8時間です。この状況で復職可能でしょうか?」と具体的に聞くことができます。
主治医は職場の実態を知らない
ここで大切なのは、「主治医は職場のことを知らない」ということです。
主治医は、患者である従業員の話を聞いて、診断書を書きます。
でも、実際の職場がどんな環境で、どれくらいの負荷がかかるのかは、知りません。
従業員が「もう大丈夫です。戻れます」と言えば、主治医は「それなら復職可能」と書くこともあります。
でも、職場の実態は違うかもしれません。満員電車での通勤、1日8時間の立ち仕事、クレーム対応のストレス
こうした現実を、主治医は知りません。
だからこそ、会社側から職場の状況を具体的に伝えて、「この環境で本当に働けるのか」を確認する必要があります。
会社側の判断権
ここで知っておいてほしいのは、「診断書はあくまで参考」ということです。
最終的な復職の可否は、会社が判断します。
診断書に「復職可能」と書かれていても、会社が「まだ難しい」と判断すれば、復職させなくても構いません。
ただし、その判断には合理的な理由が必要です。
たとえば:
- 通勤ができない状態(電車に乗れない、車を運転できない)
- 1日8時間働けない(数時間で疲れてしまう)
- 業務を遂行できない(判断力が戻っていない、ミスが多い)
- ストレス耐性が回復していない(少しのことでパニックになる)
こうした理由があれば、「まだ復職は難しい」と判断できます。
逆に、合理的な理由なく復職を拒否すれば、それはトラブルになります。ですから、判断の根拠をきちんと持つことが大切です。
産業医がいない場合の対応
「でも、うちには産業医がいないから、専門的な判断ができない」——そう思うかもしれませんね。
大丈夫です。産業医がいなくても、こんな方法があります。
外部産業医の単発相談:
自治体の産業保健総合支援センターでは、無料で産業医の相談を受けられます。「この診断書の内容で復職させていいか」と相談できます。
医師会の紹介:
地域の医師会に問い合わせれば、産業医を紹介してくれることもあります。
社労士への相談:
社労士は医師ではありませんが、労務管理の専門家として、復職判断のアドバイスをしてくれます。「この状況なら、もう少し診断書を詳しくもらった方がいい」といった助言がもらえます。
保健師・看護師の活用:
健康保険組合によっては、保健師や看護師の相談窓口があります。そこで相談するのも一つの方法です。
産業医がいないからといって、諦める必要はありません。使える資源を上手に活用しましょう。
診断書は、あくまで判断材料の一つ。鵜呑みにせず、会社としてしっかり確認して、判断することが大切です。
「いつまでも待てない」時のための、円満な出口戦略
自然退職条項の正しい書き方
休職期間満了時の対応
休職制度を作る時、必ず決めておかなければならないのが、「期間が満了した時、どうするか」です。
復職できれば、もちろん復職してもらいます。でも、休職期間が満了しても復職できない場合は、どうなるのか?
答えは、「退職」です。
これを就業規則で明確にしておくのが、「自然退職条項」です。
「解雇」ではなく「自然退職」とする理由
「休職期間が終わっても戻れないなら、解雇すればいいんじゃないの?」——そう思うかもしれません。
でも、「解雇」というのは、法律上かなり厳しい手続きが必要なんです。
解雇のハードル:
- 解雇予告(30日前に通知、または30日分の予告手当)
- 解雇制限(産前産後、療養中の期間は解雇できない)
- 解雇の合理性(「解雇が妥当」と認められる理由が必要)
特に、メンタル不調で休んでいる人を解雇するのは、かなりハードルが高いです。
「療養中なのに解雇するのか」と争いになる可能性もあります。
でも、「自然退職」なら違います。
自然退職は、「期間満了による労働契約の終了」です。
解雇ではなく、あらかじめ決められたルールに基づく自動的な退職なので、解雇のような厳格な手続きは不要です。
ただし、就業規則に明記しておくことが絶対条件です。ルールとして書いていなければ、「自然退職」とは認められません。
自然退職条項の書き方
では、具体的にどう書けばいいのか。いくつかパターンを紹介します。
パターン1: シンプル版
第○条(休職期間満了)
休職期間が満了しても復職できない場合は、期間満了日をもって自然退職とする。これが一番シンプルです。「満了=退職」と明確に書いています。
パターン2: 事前申出を求める版
第○条(休職期間満了)
1. 休職期間満了日の○日前までに、復職の申出がない場合は、退職とみなす。
2. 復職の申出があった場合、会社は診断書等により復職の可否を判断する。このパターンでは、「○日前までに復職を申し出てください」と本人に行動を求めています。申出がなければ、自動的に退職とみなす形です。
パターン3: 詳細版
第○条(休職期間満了)
1. 休職期間が満了しても、なお復職できない場合は、期間満了日をもって自然退職とする。
2. 会社は、休職期間満了の○日前までに、本人に書面で通知する。
3. 本人が復職を希望する場合は、満了日の○日前までに、医師の診断書を添えて復職を申し出ること。
4. 会社は、診断書の内容、本人との面談等により、復職の可否を判断する。これは、手続きをしっかり定めた版です。会社からの通知義務、本人の申出方法、判断基準など、細かく書いています。
どのパターンを選ぶかは、会社の規模や実情に合わせて決めてください。
事前通知を忘れずに
自然退職条項を作ったら、もう一つ大切なことがあります。それは、「事前通知」です。
休職期間満了の1〜2週間前に、本人に通知しましょう。
通知の内容:
「○月○日で休職期間が満了します。復職できない場合は、期間満了をもって退職となります。復職を希望する場合は、○月○日までに診断書を提出してください」
この通知は、必ず書面で行い、記録を残してください。メールでもいいですし、郵送でもOKです。
「聞いてない」「知らなかった」と後で言われないように、証拠を残すことが重要です。
内容証明郵便で送れば、さらに確実ですが、普通郵便やメールでも、送った記録さえあれば大丈夫です。
離職票の記載と失業給付
自然退職になった場合、離職票の記載にも注意が必要です。
離職票には、退職理由を記入する欄があります。ここに何と書くかで、失業給付の扱いが変わります。
間違った記載: 「自己都合」
自己都合退職にしてしまうと、失業給付に2ヶ月の給付制限期間(待機期間)がかかります。本人にとって不利です。
正しい記載: 「その他(休職期間満了による退職)」
これなら、給付制限期間なしで、すぐに失業給付を受給できます。
休職期間満了による退職は、本人の意思による自己都合ではなく、会社都合でもなく、「その他」に該当します。
離職票の記載は、ハローワークに提出する重要な書類です。間違えると、本人が困ります。
正しく記載することで、本人への配慮にもなります。
実例: この規定がなくてトラブルになったケース
ある会社では、休職制度はあったものの、「期間満了時にどうするか」が就業規則に書かれていませんでした。
社員が3ヶ月休職した後、まだ復職できる状態ではなかったので、会社は「そろそろ退職ということで…」と伝えました。
すると本人から、「まだ待ってもらえると思っていた。
もう少し頑張れば復帰できるかもしれないのに、なぜ今なんですか?」と反発されました。
「就業規則に期間満了で退職と書いてあったはずです」と会社は言いましたが、実際には書かれていませんでした。
結局、「不当解雇だ」「まだ待てたはず」と争いになり、弁護士を立てての交渉になりました。
時間も費用もかかり、お互いにとって不幸な結末になってしまいました。
規定があれば、こうなります:
就業規則に「休職期間は6ヶ月。満了時に復職できない場合は自然退職」と明記されていました。
本人も、休職を始める時に「6ヶ月が限度」と説明を受けていました。
満了の2週間前には、「○月○日で満了します」と書面で通知を受けました。
6ヶ月経っても復職は難しく、本人も「これ以上は無理だ」と理解していました。
会社からは「お疲れ様でした。また元気になったら、ぜひ遊びに来てください」と温かく送り出されました。
失業給付の手続きもスムーズに進み、本人も納得の上で退職しました。
規定があるかないかで、こんなにも結果が変わるんです。
自然退職条項は、会社を守るだけでなく、本人を守るものでもあります。
お互いが納得できる形で終われるように、きちんと整えておきましょう
休職中の連絡ルールと「放置」「過干渉」の間
適度な距離感の作り方
「放置」のリスク
休職が始まった後、「療養中だから、そっとしておいた方がいいかな」と思って、連絡を取らずにいる
こんなケースがあります。
でも、完全に「放置」してしまうと、こんなリスクがあります。
連絡が取れなくなる:
数ヶ月経って「そろそろどうですか?」と連絡しようとしたら、電話もメールも繋がらない。
引っ越していた、なんてこともあります。
復職意思の確認ができない:
本人がどう考えているのか、戻る気があるのか、それとも退職を考えているのか、全く分からない。
満了時に「聞いてない」とトラブルに:
休職期間満了が近づいて「そろそろ満了ですよ」と伝えたら、「そんな話、聞いてません」と言われる。
連絡を取り合っていなかったので、お互いの認識がずれてしまうんです。
「過干渉」のリスク
逆に、「心配だから」と頻繁に連絡を取るのも、実は良くありません。
頻繁な連絡がプレッシャーになる
「早く復職しないといけない」「会社に迷惑をかけている」という焦りが生まれます。
療養を妨げる
メンタル不調の療養には、「仕事のことを考えない時間」が必要です。会社から連絡が来るたびに、仕事のことを思い出してしまいます。
「監視されている」と感じさせる
「ちゃんと休んでいるか見張られている」と感じて、かえってストレスになることもあります。
適度な連絡頻度
では、どれくらいの頻度が適切なのでしょうか。
一般的には、月1回の報告が基本です。
本人から会社へ
- 毎月○日までに、診断書を提出
- 簡単な近況報告(「引き続き療養中です」程度でOK)
会社から本人へ
- 診断書を受け取ったら、「受け取りました。無理しないでくださいね」と一言返す
- 重要な連絡(休職期間満了の通知など)は別途、きちんと伝える
月1回なら、「放置」でもなく「過干渉」でもない、ちょうどいい距離感です。
連絡方法も、状況に応じて使い分けましょう。
メール: 定期報告、事務的な連絡に向いている
電話: 緊急時、込み入った内容を伝える時
郵送: 正式な通知(休職命令書、満了通知など)
LINEやSNSは、プライベートに踏み込みすぎる可能性があるので、原則使わない方が無難です。
就業規則への規定
連絡ルールも、就業規則に書いておきましょう。
第○条(休職中の報告義務)
1. 休職中の従業員は、毎月○日までに、医師の診断書を提出し、療養状況を報告すること。
2. 会社からの連絡には、速やかに応答すること。
3. 正当な理由なく連絡が取れない場合、または報告義務を怠った場合は、懲戒処分または退職とすることがある。このように明記しておけば、「連絡を取らなくてもいいと思っていた」という言い訳は通用しなくなります。
「報告義務」と書くと堅苦しく聞こえるかもしれませんが、お互いのためです。
会社も状況が分かるし、本人も「これだけやっておけばいい」と明確になります。
連絡が途絶えた場合の対応
ルールを作っても、連絡が途絶えてしまうことがあります。
メールを送っても返信がない、電話をかけても出ない——こんな時、どうすればいいでしょうか。
ステップ1: まずメールで連絡
「診断書の提出期限が過ぎていますが、いかがでしょうか。ご連絡をお待ちしています」
ステップ2: 電話をかける
メールで返信がなければ、電話をかけてみます。留守電なら、メッセージを残します。
ステップ3: 緊急連絡先(家族)へ
それでも連絡が取れなければ、入社時に記入してもらった緊急連絡先に連絡します。ご家族に「本人と連絡が取れないので、状況を教えていただけますか」と確認します。
ステップ4: 内容証明郵便で通知
それでも応答がない場合は、内容証明郵便で正式な通知を送ります。「○月○日までに連絡がない場合、就業規則に基づき対応します」という内容です。
ステップ5: 就業規則に基づき対応
最終的に連絡が取れなければ、就業規則の「連絡が取れない場合は退職とすることがある」という条項に基づいて、退職扱いにします。
ただし、いきなり最終手段に行くのではなく、段階を踏んで対応することが大切です。記録もしっかり残しましょう。
実例: 適度な連絡で円滑に進んだケース
ある会社では、休職した社員に対して、月1回、本人からメールで診断書と近況を送ってもらうルールにしていました。
本人からは毎月、「引き続き通院中です。少しずつ良くなっています」といった簡単な報告が届きました。
会社からは、「お疲れ様です。無理しないでくださいね」と短い返信を送りました。特に込み入った話はせず、ただ「見守っていますよ」という姿勢を示しました。
3ヶ月経った頃、本人から「そろそろ復職を考えたいのですが」と連絡がありました。会社は「では、診断書をもらってきてください。一緒に相談しましょう」と対応しました。
その後、リハビリ勤務を経て、無事に復職。お互いの信頼関係を保ちながら、スムーズに進みました。
適度な距離感を保つことで、本人も安心して療養できるし、会社も状況を把握できる。これがベストなやり方です。
すぐ使えるモデル条文と書き方のコツ
ここまで、休職制度の考え方や具体的なポイントをお伝えしてきました。最後に、すぐに使えるモデル条文を3パターン紹介します。自社の規模や実情に合わせて選んでください。
休職条項のモデル(3パターン提示)
パターンA: シンプル版(最低限)
従業員10人以下の小さな会社、または「まずは最低限の規定を作りたい」という会社向けです。
第○条(休職)
1. 従業員が業務外の傷病により、継続して1ヶ月以上欠勤したときは、会社は休職を命じることができる。
2. 休職期間は、3ヶ月とする。
3. 休職期間中は、無給とする。
4. 休職期間中の社会保険料本人負担分は、本人が会社指定の方法で支払うものとする。
5. 休職期間が満了しても復職できない場合は、期間満了日をもって自然退職とする。これだけでも、最低限のルールは決まります。休職事由、期間、給与、社会保険料、満了時の扱い——基本的な項目が入っています。
パターンB: 標準版(中小企業推奨)
従業員10〜50人程度の会社向け。勤続年数による期間の差をつけて、もう少し詳しく規定したい場合に使えます。
第○条(休職)
1. 従業員が次の各号のいずれかに該当する場合、会社は休職を命じることができる。
(1)業務外の傷病により、継続して○日以上欠勤したとき
(2)精神または身体の疾患により、業務に耐えられないと認められるとき
2. 休職期間は、次のとおりとする。
勤続3年未満: 3ヶ月
勤続3年以上: 6ヶ月
3. 休職期間中は、無給とする。ただし、健康保険の傷病手当金を受給できる場合は、会社はその手続きを支援する。
4. 休職期間中の社会保険料本人負担分は、本人が会社指定の方法で支払うものとする。
5. 休職期間は、勤続年数に含めない。また、賞与の算定期間から除外する。
6. 休職中の従業員は、毎月○日までに診断書を提出し、療養状況を報告すること。
7. 会社からの連絡には、速やかに応答すること。正当な理由なく連絡が取れない場合は、懲戒処分または退職とすることがある。
第○条(復職)
1. 休職中の従業員が復職を希望する場合、休職期間満了の○日前までに、医師の診断書を添えて復職を申し出ること。
2. 会社は、診断書の内容、本人との面談等により、復職の可否を判断する。
3. 復職の基準は、原則として元の業務に復帰できる状態とする。
第○条(休職期間満了)
1. 休職期間が満了しても復職できない場合は、期間満了日をもって自然退職とする。
2. 会社は、休職期間満了の○日前までに、本人に書面で通知する。これが、中小企業で一番使いやすいパターンです。休職、復職、満了と分けて規定しているので、分かりやすくなっています。
パターンC: 詳細版(しっかり書き込む)
従業員50人以上、または「できるだけ詳しく規定したい」という会社向けです。
第○条(休職)
1. 従業員が次の各号のいずれかに該当する場合、会社は休職を命じることができる。
(1)業務外の傷病により、継続して○日以上欠勤したとき
(2)精神または身体の疾患により、業務に耐えられないと認められるとき
(3)その他、前各号に準ずる事由があるとき
2. 休職期間は、次のとおりとする。
勤続1年未満: 3ヶ月
勤続1年以上3年未満: 6ヶ月
勤続3年以上: 1年
3. 休職期間中は、無給とする。ただし、健康保険の傷病手当金を受給できる場合は、会社はその手続きを支援する。
4. 休職期間中の社会保険料本人負担分は、本人が会社指定の方法で支払うものとする。支払いが滞った場合、復職後の給与から控除することがある。
5. 休職期間は、勤続年数に算入しない。また、賞与の算定期間および退職金の勤続年数から除外する。
6. 休職中の従業員は、毎月○日までに、医師の診断書を提出し、療養状況を報告すること。
7. 会社からの連絡には、速やかに応答すること。正当な理由なく、連絡が取れない状態が1ヶ月以上継続した場合は、退職とみなすことがある。
第○条(復職)
1. 休職中の従業員が復職を希望する場合、休職期間満了の○日前までに、医師の診断書を添えて復職を申し出ること。
2. 会社は、診断書の内容、本人との面談、必要に応じて産業医等の意見を踏まえ、復職の可否を判断する。
3. 復職の基準は、原則として元の業務に復帰できる状態とする。
4. 会社が必要と認めた場合、復職後○週間〜○ヶ月のリハビリ勤務を命じることができる。リハビリ勤務中は、勤務時間・業務内容を軽減し、実働時間に応じた賃金を支払う。
5. リハビリ勤務期間中に復職が困難と判断した場合、再度休職を命じることがある。
第○条(休職期間満了)
1. 休職期間が満了しても復職できない場合は、期間満了日をもって自然退職とする。
2. 会社は、休職期間満了の○日前までに、本人に書面で通知する。
3. 復職後○ヶ月以内に同一または類似の事由で再度休職した場合、前回の休職期間と通算する。
このパターンは、リハビリ勤務や再休職時の通算規定など、より細かい内容まで盛り込んでいます。
書き方のコツ
モデル条文を参考にする際、いくつか注意点があります。
①曖昧な表現は避ける
「原則として」「場合がある」といった表現は、使いすぎないようにしましょう。
もちろん、すべてをガチガチに決めることはできません。でも、曖昧すぎると、「結局どうなの?」と分からなくなります。
「原則として」を使う時は、例外がどういう場合なのかも明確にしておくと良いでしょう。
②具体的な数字を入れる
「○日」「○ヶ月」という部分には、具体的な数字を入れてください。
- 「継続して○日以上欠勤」→「継続して14日以上欠勤」
- 「満了の○日前」→「満了の7日前」
数字があることで、お互いの認識がずれなくなります。
③従業員が読んでわかる言葉で
就業規則は、法律の専門家だけが読むものではありません。従業員全員が読んで、理解できるものである必要があります。
難しい法律用語を使いすぎず、できるだけ平易な言葉で書きましょう。
④法律用語を使いすぎない
「労働契約法第○条に基づき…」といった記載は、最低限にしましょう。従業員からすれば、「労働契約法って何?」となってしまいます。
自社に合わせてカスタマイズ
ここで紹介したモデル条文は、あくまで「たたき台」です。
そのままコピーして使うのではなく、自社の実情に合わせて調整してください。
- 休職期間は、自社の規模や業種に合わせて
- 勤続年数の区切りも、自社の実態に合わせて
- 報告の頻度や方法も、運用しやすい形に
そして、できれば社労士に相談して、自社専用の条文に仕上げることをお勧めします。
法律的なチェックも受けられるし、実際に運用する時のアドバイスももらえます。
就業規則は、「作って終わり」ではありません。実際に使いながら、「ここは分かりにくいな」「ここは実情に合わないな」と感じたら、見直していきましょう。
まとめ
休職制度は、大企業だけのものではありません。むしろ中小企業にこそ、必要なものです。
ルールがなければ、その場しのぎの対応になり、不公平感やトラブルを生んでしまいます。
でもルールがあれば、会社も自信を持って対応できるし、従業員も「いつまで休めるのか」が分かって安心できます。
今回お伝えした大切なポイントを、もう一度振り返りましょう。
休職期間は、自社の実情に合わせて決める。 大企業の真似は不要。「長すぎず、短すぎず」のバランスが大切です。
お金の話は、最初にはっきりさせる。 無給なら無給、社会保険料の扱い、賞与や退職金への影響——曖昧にせず、明確に決めておきましょう。
診断書は鵜呑みにしない。 主治医は職場の実態を知りません。会社として確認すべきことを、きちんと確認しましょう。
出口戦略を明確にする。 自然退職条項を就業規則に入れておくことで、円満に終われます。
適度な距離感で連絡を取る。 放置も過干渉もNG。月1回の報告を基本にしましょう。
モデル条文を活用する。 この記事で紹介した条文を参考に、自社に合わせてカスタマイズしてください。
次回は、復職判断の実務について詳しく解説します。「本人が戻りたいと言っているけど、本当に大丈夫?」という不安を解消する、具体的な判断基準をお伝えします。
休職制度を整えることが、会社と従業員、両方を守る第一歩です。ぜひ、今日から取り組んでみてください。

