小野運送事件
小野運送事件は、昭和38年(1963年)6月4日に最高裁判所で判決が下された労働事件です。この事件では、第三者行為災害における示談と労災保険給付の関係について重要な判断が示されました。
争点・結論
本事件の主要な争点は、労働者が第三者行為災害について加害者と示談を行った場合、労災保険給付を受ける権利にどのような影響があるかでした。最高裁判所は、被災労働者が示談により損害賠償請求権を放棄した場合、政府はその限度において保険給付をする義務を免れるとの判断を示しました。
判旨
最高裁判所は以下のように判示しました:「労災保険制度は、もともと、被災労働者らの被った損害を補償することを目的とするものであることにかんがみれば、被災労働者ら自らが、第三者の自己に対する損害賠償債務を全部又は一部免除し、その限度において損害賠償請求権を喪失した場合においても、政府は、その限度において保険給付をする義務を免れるべきことは、規定を待つまでもなく当然のことである」
解説
この判決は、第三者行為災害における示談と労災保険給付の関係について重要な意義を持ちます。被災労働者が加害者と示談を行い損害賠償請求権を放棄した場合、その放棄した限度で労災保険給付を受ける権利も制限されることを明確にしました。
労災保険制度は被災労働者の損害を補償することが目的であり、すでに示談で補償された部分については二重に補償する必要はないという考え方が示されました。また、労働者は私法自治の原則に基づき、第三者との間で損害賠償請求権を放棄する自由を有するが、その自由な選択の結果として労災保険給付が制限されることもやむを得ないとされました。
示談によって損害賠償請求権を放棄した場合、その限度で労災保険給付を受ける権利も制限されることになります。このため、示談を行う際には慎重な検討が必要です。
関連条文
労働者災害補償保険法第12条の4(第三者行為災害)
民法第709条(不法行為の一般的規定)
小野運送事件から学ぶべき事柄
この事件から、第三者行為災害における示談の影響と労災保険給付の関係について学ぶことができます。労働者が第三者と示談を行い損害賠償請求権を放棄すると、その限度で労災保険給付を受ける権利も制限されることを理解する必要があります。
関連判例
最高裁昭和52年10月25日判決(労災保険と損害賠償の調整に関する判例)
最高裁平成5年3月11日判決(第三者行為災害における求償権に関する判例)
注意すべき事柄
労働者は、第三者行為災害の示談を行う際に、労災保険給付を受ける権利への影響について慎重に検討する必要があります。また、使用者は労働者に対して、示談と労災保険給付の関係について適切な情報提供を行うことが重要です。
経営者・管理監督者の方へ
- 第三者行為災害が発生した場合、労働者に対して適切な情報提供と支援を行ってください
- 示談交渉に際しては、労働者が示談の影響を十分理解した上で判断できるよう支援してください
- 労災保険給付と示談の関係について、社内で適切な理解を促進してください
- 第三者行為災害が発生した場合は、速やかに労働基準監督署への届出を行ってください
従業員の方へ
- 第三者行為災害に遭った場合、示談を急がず、労災保険給付への影響も含めて十分に検討してください
- 示談交渉の際は、損害賠償請求権の放棄が労災保険給付にも影響することを理解してください
- 不明な点がある場合は、労働組合や専門家に相談することを検討してください
- 第三者行為災害が発生した場合は、速やかに会社と労働基準監督署に報告してください
