CBC管弦楽団労組事件
CBC管弦楽団労組事件は、昭和51年(1976年)5月6日に最高裁判所第1小法廷で判決が下された労働事件です。この事件では、放送局と自由出演契約を結んでいた管弦楽団員の労働者性が争点となりました。労働組合法上の労働者性の判断基準について、重要な指針を示した判例として知られています。
争点・結論
本事件の主要な争点は、放送局と自由出演契約を結んでいた管弦楽団員が、労働組合法上の労働者に該当するかどうかでした。最高裁判所は、労働組合法上の労働者性を判断する際の基準を示した上で、本件の管弦楽団員は労働組合法上の労働者に該当するとの結論を下しました。
判旨
最高裁判所は、労働組合法上の労働者性を判断する際の基準として、以下の要素を総合的に考慮すべきであるとしました
- 事業組織への組み入れ:出演契約が、個別交渉の煩雑さを回避するために、楽団員をあらかじめ会社の事業組織の中に組み入れておこうとするものであった
- 契約内容の一方的・定型的決定:会社が随時一方的に指定するところによって楽団員に出演を求めることができた
- 報酬の労務対価性:楽団員は、演出について裁量を与えられていないため、出演報酬は演奏という労務提供それ自体への対価であった
- 業務の依頼に応ずべき関係:出演発注を断ることは契約上禁じられてはいないが、契約の解除、次年度の更新拒絶があり得ることを当事者が意識しており、原則として発注に応じて出演すべき義務があった
- 広い意味での指揮監督下の労務提供:会社は労働力の処分につき指揮命令の権能を有していた
- 顕著な事業者性の有無:出演報酬の一部たる契約金は、楽団員の生活の資として一応の安定した収入を与えるための最低保障給たる性質を有していた
これらの要素を本件に当てはめ、管弦楽団員は放送局の事業組織に組み入れられており、契約内容も放送局によって一方的に決定されていること、報酬が労務の対価としての性質を有していること、業務の依頼に応ずべき関係にあること、一定の指揮監督下で労務を提供していること、顕著な事業者性が認められないことなどを理由に、労働組合法上の労働者に該当すると判断しました。
解説
この判決は、労働組合法上の労働者性の判断基準を明確化し、従来よりも広い範囲で労働者性を認める可能性を示しました。特に、契約形態が「自由出演契約」であっても、実態に即して労働者性を判断すべきであるという点が重要です。これにより、多様化する就労形態において、労働者の団結権や団体交渉権を保護する可能性が広がりました。
当事者間の関係を判断するに当たって、契約上どのような法的義務が設定されていたかだけではなく、次年度の更新拒絶があり得るといった当事者の認識等の実態を含めて検討している点も特徴的です。最高裁判所調査官解説においては、この点は「法律上の義務を負う関係であることを明らかにしたもの」とされており、この解説がその後の下級審判決に影響を与えた可能性があるとの指摘もあります。
関連条文
- 労働組合法第3条(労働者)
- 労働基準法第9条(労働者)
- 労働契約法第2条(定義)
CBC管弦楽団労組事件から学ぶべき事柄
この事件から、労働者性の判断には形式的な契約内容だけでなく、実態に即した総合的な判断が必要であることを学べます。また、労働組合法上の労働者概念が、労働基準法上のそれよりも広い可能性があることも理解できます。企業側は、契約形態にかかわらず、実質的な労務提供の実態を考慮する必要があります。
関連判例
- 新国立劇場運営財団事件(最判平成23年4月12日):オペラ歌手の労働者性に関する判例
- INAXメンテナンス事件(最判平成23年4月12日):修理補修業務従事者の労働者性に関する判例
これらの2011年の最高裁判決は、CBC管弦楽団事件の判断基準を引き継ぎ発展させたものと位置づけられます。実態として労働者として使用していながら、契約書面上だけで労働者性を否定することは許されないとする流れを確立しました。
注意すべき事柄
企業は、契約形態にかかわらず、実質的な労務提供の実態を考慮して労働者性を判断する必要があります。一方、労働者も自身の就労実態が労働者性を有する可能性があることを認識し、必要に応じて権利を主張することが重要です。
経営者・管理監督者の方へ
- 契約形態だけでなく、実際の就労実態を考慮して労働者性を判断してください。
- 自由出演契約などの非典型的な契約形態であっても、労働組合法上の労働者に該当する可能性があることを認識してください。
- 労働条件の決定や変更に際しては、労働者との協議や交渉の機会を設けることを検討してください。
従業員の方へ
- 契約形態にかかわらず、自身の就労実態が労働者性を有する可能性があることを認識してください。
- 労働条件に関する問題がある場合は、労働組合を通じて交渉する権利がある可能性があります。
- 自身の労働者性について疑問がある場合は、専門家に相談することを検討してください。
