小島撚糸事件
小島撚糸事件は、昭和35年(1960年)7月14日に最高裁判所第一小法廷で判決が下された労働刑事事件です。法定の除外事由がないのに時間外および休日労働をさせ、これに対する割増賃金を支払わなかったことが労働基準法37条に違反するとして起訴されました。36協定(時間外・休日労働協定)を締結せずに行われた違法な時間外労働に対しても、使用者に割増賃金支払義務があるか、そしてその不払いが刑事罰の対象となるかが争われた重要な判例です。
争点・結論
本事件の主要な争点は、36協定を締結せずに行われた違法な時間外労働に対しても、使用者に割増賃金支払義務があるか、そしてその不払いが労働基準法第119条第1号の罰則の対象となるかという点でした。
最高裁判所は、たとえ36協定が締結されていない違法な状況下での時間外労働であっても、使用者には割増賃金支払義務があり、これを支払わなければ刑事罰の対象になるとの判断を下しました。
判旨
最高裁は「労働基準法第33条または第36条所定の条件を充足していない違法な時間外労働ないしは休日労働に対しても、使用者は同法第37条第1項により割増賃金の支払義務があり、その義務を履行しないときは同法第119条第1号の罰則の適用を免れない」と判示しました。
判決の要旨は「適法な時間外労働等について割増金支払義務があるならば、違法な時間外労働等の場合には一層強い理由でその支払義務あるものと解すべきは事理の当然」というものでした。
解説
この判決は、労働基準法の遵守が企業にとって不可欠であることを強調しています。労働基準法は、労働者の健康と安全を守るために、時間外労働の条件を厳格に定めています。企業は、これらの法規を遵守しない場合、民事上の責任だけでなく刑事上の責任も問われることになります。
本判決により、使用者が法令を遵守せずに時間外労働をさせた場合でも、労働者の賃金請求権が保護されることとなり、労働者保護の観点から重要な先例となりました。同時に、使用者に対しては、法令遵守の重要性と、違法な労働をさせた場合の経済的負担および刑事罰のリスクを示す判断となっています。
また、この判例は、年俸制の場合でも時間外労働に対する割増賃金の支払義務があることを示す根拠としても引用されています。
関連条文
- 労働基準法第33条(災害等による臨時の必要がある場合の時間外労働等)
- 労働基準法第36条(時間外及び休日の労働)
- 労働基準法第37条(時間外、休日及び深夜の割増賃金)
- 労働基準法第119条(罰則)
小島撚糸事件から学ぶべき事柄
- 違法な時間外労働であっても、使用者には割増賃金支払義務がある。
- 違法な時間外労働に対する割増賃金不払いは、刑事罰の対象となる。
- 労働基準法の遵守は、民事上の責任だけでなく刑事上の責任も伴う重要な義務である。
- 労働者の権利保護は、労働の適法・違法にかかわらず重視される。
関連判例
- 三菱重工業長崎造船所事件(最判平成12年3月9日):時間外労働の黙示の指示に関する判例
- 日立製作所武蔵工場事件(最判平成3年11月28日):残業代請求権の消滅時効に関する判例
注意すべき事柄
- 36協定の締結と適切な運用が不可欠である。
- 時間外労働を命じる際は、常に法的根拠を確認する必要がある。
- 違法な時間外労働であっても割増賃金を支払わなければならない。
- 労働基準法違反は刑事罰の対象となる可能性がある。
経営者・管理監督者の方へ
- 36協定の締結と適切な運用を徹底してください。
- 時間外労働を命じる際は、必ず法的根拠を確認してください。
- 違法な時間外労働を命じた場合でも、割増賃金の支払いは必要です。
- 労働基準法違反は刑事罰のリスクがあることを認識し、法令遵守を徹底してください。
- 労働時間管理システムの導入など、適切な労働時間管理体制を整備することが重要です。
従業員の方へ
- 36協定の内容を確認し、自身の労働時間が協定の範囲内であるか注意してください。
- 違法な時間外労働を強いられた場合でも、割増賃金を請求する権利があります。
- 労働条件に疑問がある場合は、労働組合や労働基準監督署に相談することができます。
- 自身の労働時間を記録しておくことが、権利保護のために重要です。
