あれ、おかしいな?と思ったら【メンタルヘルスと就業規則】4

メンタルヘルスと就業規則

あれ、おかしいな?と思ったら

前回までで、休職制度の作り方、復職判断の基準をお伝えしました。
でも実は、制度を整えるより大切なのが、「日々の現場での対応」です。

メンタルヘルス対策の9割は、制度ではなく、現場の対応で決まります。

「最近、あの人元気ないな」
「遅刻が増えたな」
「なんかミスが多いな」

こういう小さな変化に気づいた時、どう声をかけるか。
その一言が、重症化を防ぐこともあれば、逆に追い詰めてしまうこともあります。

メンタル不調は、ある日突然起こるわけではありません。必ず、小さなサインがあります。
そのサインに気づいて、早期に対応できれば、休職せずに回復することも十分可能です。

逆に、サインを見逃したり、間違った対応をしてしまうと、どんどん悪化して、長期休職や退職に繋がってしまいます。

今回は、管理職や経営者ができる具体的な行動を、チェックリストやNG・OKワードの実例とともにお伝えします。
明日から、いえ今日から使える内容です。

「あれ、おかしいな?」と思った時、どうすればいいのか。一緒に学んでいきましょう。

管理職が気づくべき、部下の「小さなSOS」チェック

メンタル不調の初期サイン(10項目)

メンタル不調には、必ず初期サインがあります。次の10項目をチェックしてみてください。

□ 1. 遅刻・欠勤が増える
以前は皆勤だったのに、最近遅刻が目立つ。「寝坊しました」と言うけれど、頻度が増えている。

□ 2. 表情が暗い、元気がない
挨拶の声が小さくなった。笑顔が減った。目が合わない。

□ 3. 身だしなみの乱れ
髭を剃らなくなった。服装が乱れている。以前はきちんとしていたのに。

□ 4. ミスが増える
以前はしなかったような単純なミスが目立つ。何度も同じミスを繰り返す。

□ 5. 報告・連絡・相談が遅れる、または減る
報告が上がってこない。質問しても「大丈夫です」とだけ答える。相談してこなくなった。

□ 6. 同僚との会話が減る
昼休みも一人で過ごしている。以前は同僚と話していたのに、最近は孤立している。

□ 7. 集中力の低下
ぼーっとしていることが多い。呼びかけても反応が遅い。仕事中に上の空。

□ 8. 感情の起伏が激しい
些細なことでイライラする。または、急に涙ぐむ。感情のコントロールができていない様子。

□ 9. 疲労感の訴え
「疲れた」「しんどい」が口癖になっている。休み明けでも疲れた様子。

□ 10. 体調不良の訴え
頭痛、腹痛、吐き気など、頻繁に体調不良を訴える。でも、病院に行っても「異常なし」と言われる。

チェックリストの使い方

3つ以上当てはまる → 要注意

そろそろ声をかけた方がいいサインです。「最近どう?」と軽く聞いてみましょう。

5つ以上 → 早急に対応

かなり深刻な状態かもしれません。1対1で面談をして、状況を確認する必要があります。

「いつもと違う」が重要なサイン

大切なのは、「いつもと違う」ということです。

もともと遅刻が多い人が遅刻しても、それは普通かもしれません。でも、いつも時間通りに来る人が、急に遅刻するようになったら、それはサインです。
もともと無口な人が無口なのは普通です。でも、いつも明るく話していた人が急に無口になったら、それはサインです。
「あれ? ○○さん、いつもと違うな」
この違和感を、見逃さないでください。

サインを見逃して悪化したケース

社員の遅刻が増えました。上司は「最近たるんでるんじゃないか」と叱責しました。
ミスも増えました。上司は「集中しろ! しっかりしろ!」とプレッシャーをかけました。

でも、その社員は不眠で悩んでいました。夜眠れず、朝起きられない。仕事中も頭がぼーっとして、集中できない。
叱責されるたびに、「自分はダメだ」と自信を失い、どんどん追い詰められていきました。

ある朝、その社員は会社に来られなくなりました。電話も出ません。
家族から連絡があり、「うつ病で入院しました」と知らされました。
もし、遅刻やミスが増えた時点で、「最近どうしたの? 何か困ってることない?」と声をかけていたら、違う結果になったかもしれません。

サインに気づいて早期対応できたケース

上司が、部下の様子がいつもと違うことに気づきました。表情が暗く、ミスも増えている。
上司は声をかけました。「○○さん、最近ちょっと元気ないみたいだけど、大丈夫?」
部下は最初、「大丈夫です」と言いましたが、上司が「何か困ってることがあったら、いつでも相談してね」と優しく伝えると、少しずつ話し始めました。
「実は、夜眠れなくて…。仕事が溜まってて、プレッシャーで…」
上司はすぐに業務量を調整しました。締切を延ばし、他の社員に一部の業務を分担してもらいました。
「無理しないで。まずは今抱えてる仕事を片付けよう。新しい仕事はしばらく入れないから」
その言葉に、部下はホッとした様子でした。

1ヶ月後、部下の表情は明るくなり、ミスも減りました。休職することなく、回復しました。

早期に気づいて、早期に対応したことが、重症化を防いだんです。

管理職への教育

「部下の変化に気づく」ことは、管理職の重要な役割です。
でも、管理職も忙しいので、意識していないと見逃してしまいます。

年に1回でいいので、管理職向けの研修を行いましょう。このチェックリストを共有して、「こういうサインがあったら、声をかけてください」と伝えます。

小さな気づきが、大きな問題を防ぎます。

「最近どう?」から始める、攻めない・責めない声かけ

声かけの基本姿勢

部下の様子がおかしいと気づいたら、声をかけてみましょう。でも、声のかけ方には注意が必要です。

声かけの3原則:

攻めない: 「なんでミスしたんだ!」と責めるような言い方はしない

責めない: 「たるんでる」「甘えてる」と決めつけない

詮索しない: 「何があったの?」とプライベートに踏み込みすぎない

大切なのは、心配していることを伝えること、そして話を聞く姿勢です。
無理に解決しようとする必要はありません。まずは、「話を聞くよ」という姿勢を示すことが大切です。

NGワード集

まず、絶対に言ってはいけない言葉を確認しましょう。

× 「気合が足りない」「甘えてる」「根性で乗り切れ」
精神論で解決できる問題ではありません。むしろ、追い詰めてしまいます。

× 「みんな頑張ってるのに」「そんなんじゃ社会でやっていけない」
他の人と比較されると、余計に自信を失います。

× 「病院行く必要ある?」「休んだら迷惑かかるよ」
受診や休養を否定する言葉は、絶対にNGです。

× 「俺の時代はもっと厳しかった」
昔話は役に立ちません。今の本人の状況とは関係ありません。

× 「プライベートで何かあったの?」
詮索は避けましょう。本人が話したければ、自分から話します。

推奨ワード集

では、どんな言葉をかければいいのでしょうか。

○ 「最近どう? 疲れてない?」
シンプルに、心配していることを伝えます。

○ 「何か困ってることない?」
困りごとを聞く姿勢を示します。

○ 「無理しないでね」
無理をしなくていい、という安心感を与えます。

○ 「相談してほしい」
いつでも相談していい、というメッセージを伝えます。

○ 「一緒に考えよう」
一人じゃない、一緒に解決しようという姿勢を示します。

○ 「休むことも大事だよ」
休養を肯定する言葉は、本人の不安を軽くします。

声かけの場面設定

声をかける時は、場面設定も大切です。

1対1で(周囲に聞かれない場所)
周りに人がいると、本音を話しにくいです。会議室や、人目のない場所で話しましょう。

落ち着いた時間帯(朝の忙しい時間は避ける)
朝の慌ただしい時間や、締切直前の忙しい時は避けます。落ち着いた時間に声をかけましょう。

短時間でOK(5〜10分)
長々と話す必要はありません。最初は5〜10分、軽く話すくらいで十分です。

強制しない(「話したくない」も尊重)
「今は話したくない」と言われたら、無理に聞き出さないこと。「いつでも相談してね」と伝えて、一旦引きます。

実際の対話例

言葉だけだとイメージしにくいので、具体的な対話例を見てみましょう。

ケース1: 遅刻が増えた部下

NG対応:

上司「最近遅刻多いな。たるんでるんじゃないか?」
部下「すみません…」(萎縮して、余計に追い詰められる)

OK対応:

上司「○○さん、最近ちょっと元気ないみたいだけど、大丈夫? 何か困ってることない?」
部下「実は、夜眠れなくて…朝起きるのがつらくて」
上司「そうなんだ。それは大変だね。無理しないで。必要なら病院に行ってみたら? 休む必要があれば、遠慮なく言ってね」
部下「ありがとうございます…」

NG対応では、本人を責めています。これでは、本人は「自分はダメだ」と思い込んでしまいます。
OK対応では、心配していることを伝え、解決策を一緒に考える姿勢を示しています。

ケース2: ミスが増えた部下

NG対応:

上司「また間違えたの? しっかりして!」
部下(さらにプレッシャーを感じ、悪循環に)

OK対応:

上司「○○さん、最近ちょっとミスが多いみたいだけど、何か気になることある? 業務量が多すぎるとか」
部下「実は最近、集中できなくて…頭がぼーっとしてしまって」
上司「そっか。じゃあ一旦、業務量を調整してみようか。一緒に優先順位を整理しよう。無理のない範囲でやっていこう」
部下「すみません…ありがとうございます」

NG対応では、「しっかりしろ」とプレッシャーをかけています。でも、すでに本人は一杯一杯なので、さらに追い詰められるだけです。

OK対応では、原因を探り、業務量の調整という具体的な解決策を提示しています。

傾聴の姿勢

声をかけた後、本人が話し始めたら、「傾聴」の姿勢で聞きましょう。

話を遮らない
途中で「でもさ」「だったらこうすれば」と口を挟まない。最後まで聞きます。

アドバイスを急がない
すぐに解決策を言わなくていいです。まずは話を聞くことが大切。

「そうなんだね」「大変だったね」と受け止める
共感を示す言葉をかけます。「分かるよ」「つらかったね」と。

解決策は本人と一緒に考える
一方的にアドバイスするのではなく、「どうしたらいいと思う?」と本人の意見も聞きながら、一緒に考えます。

傾聴の姿勢があれば、本人は「ちゃんと聞いてもらえた」と感じます。それだけで、心が軽くなることもあるんです。

「休みたくない」と意地を張る社員を、どう説得して休ませるか

本人が休職を拒否する理由

明らかに限界なのに、「休みたくない」と頑なに拒否する社員がいます。

なぜ休職を拒むのでしょうか。理由はいくつかあります。

①「休職=クビ」と誤解している
「休職したら、そのまま解雇されるんじゃないか」と不安に思っている。

②経済的不安(収入がなくなる)
「休んだら給料がゼロになる。生活できない」と心配している。

③プライド(「自分は大丈夫」「弱いと思われたくない」)
「休んだら、弱い人間だと思われる」「自分はまだやれる」という意地。

④責任感(「みんなに迷惑かける」)
「自分が休んだら、他の人に負担がかかる。申し訳ない」という気持ち。

こうした理由で、無理をして働き続けようとします。でも、無理を続ければ、さらに悪化するだけです。

誤解を解く説明

まず、誤解を解きましょう。

「休職は治療のための制度で、クビではない」
「休職は、しっかり治してから戻ってきてもらうための制度です。クビじゃありません。
元気になったら、また一緒に働きましょう」
こう伝えることで、「休職=終わり」という誤解を解きます。

「しっかり治してから戻ってきてほしい」
「無理して働き続けて悪化するより、今休んでしっかり治す方がいいです。そっちの方が、早く復帰できます」
休職は、本人のためでもあり、会社のためでもあることを伝えます。

「無理して悪化する方が、会社も本人も困る」
「今無理して、もっと悪化したら、もっと長く休むことになるかもしれません。
それより、今のうちに治療に専念した方が、結果的に早く戻れますよ」

経済的不安を取り除く: 傷病手当金の説明

「休んだら収入がゼロになる」という不安には、傷病手当金の説明が有効です。

傷病手当金とは:

  • 健康保険から、標準報酬月額の3分の2(正確には、支給開始日以前12ヶ月の標準報酬月額の平均額÷30日×2/3)が1日あたりの支給額として計算されます
  • 最長1年6ヶ月まで受給できる
  • 手続きは会社がサポートする

「休んでも、収入がゼロにはなりません。健康保険から、給料の3分の2くらいが出ます。生活費は何とかなるので、安心してください」

具体例を示す:

「例えば、月給30万円程度なら、傷病手当金は月に約18〜20万円程度です。それで1年半は受給できます。
ただし、ここから社会保険料や住民税の支払いがあることも念頭に置いてください」

「手続きは、会社が一緒にやりますから、心配しないでください」

プライドへの配慮

「休むのは弱さではない」というメッセージを伝えます。

「休むことは弱さではなく、賢明な選択」
「休むのは、逃げでも弱さでもありません。自分の体を大切にする、賢い判断です」

「早く治療すれば、早く戻れる」
「今休めば、3ヶ月で戻れるかもしれません。
でも、無理して悪化したら、半年、1年かかるかもしれない。どちらが賢いかは、明らかですよね」

「無理して長期化するより、短期集中治療の方が良い」
「短期集中で治療して、早く戻る。それが、一番いい選択だと思いますよ」

責任感への対応

「みんなに迷惑をかける」という気持ちには、こう伝えます。

「引継ぎはこちらで何とかするから、心配しないで」
「業務は、他のメンバーで分担します。あなたが心配することじゃありません。今は自分の体を第一に考えてください」

「あなたが元気に戻ってくることが、一番の貢献」
「今は休んで、しっかり治してください。元気になって戻ってきてくれることが、会社にとって一番ありがたいことです」

家族との連携

本人がどうしても休職を拒否する場合、家族の力を借りることも考えましょう。

本人の同意を得て、家族(配偶者、親)に状況を伝える

「○○さんの様子が心配なので、ご家族にもお伝えしたいのですが、いいですか?」

本人の同意を得た上で、家族に連絡します。

家族から「休んだ方がいい」と説得してもらう
家族から「仕事より体が大事だよ」と言ってもらうことで、本人も納得しやすくなります。

家族の支援体制を確認
「ご家族のサポートはありますか? 自宅で療養する環境は整っていますか?」
家族の理解と支援があれば、安心して休養できます。

注意: プライバシーに配慮
本人の同意なしに、勝手に家族に連絡してはいけません。必ず本人に確認してから連絡しましょう。

家族と連携して休職に繋がったケース

社員が明らかに限界でしたが、「休みたくない」と頑なに拒否していました。
上司が「ご家族にも状況をお伝えしていいですか?」と聞くと、本人は渋々了承しました。
上司は配偶者に電話して、状況を説明しました。「最近の○○さんの様子が心配です。できれば休職して、治療に専念してほしいのですが」
配偶者は驚いて、「そんなに深刻だったんですね。私からも話してみます」と言ってくれました。
その夜、配偶者から本人に「仕事より体が大事でしょ。少し休んで、ちゃんと治そうよ」と説得してもらいました。
翌日、本人から「休職させてください」と連絡がありました。
家族の一言が、本人の心を動かしたんです。

後で盾となるは「日々のメモ」

なぜ記録が重要か

メンタルヘルス対応で、絶対に忘れてはいけないのが「記録」です。

記録がないと、こんなリスクがあります:

「言った言わない」のトラブル
後で「会社は何もしてくれなかった」「休職を勧められたなんて聞いてない」と言われても、証拠がなければ証明できません。

労働基準監督署の調査、訴訟の際に不利

「会社が適切に対応していたか」を問われた時、記録がなければ説明できません。
逆に、きちんと記録があれば、「会社はこれだけ対応していた」と証明できます。記録は、会社を守る盾になるんです。

記録すべき事項

何を記録すればいいのでしょうか。

面談の日時・場所・出席者
いつ、どこで、誰と話したのかを明記します。

面談の内容(本人の訴え、会社の対応)
本人が何と言ったか、会社が何と答えたか、具体的に書きます。

診断書の受領日と内容(コピーを保管)
診断書を受け取った日付と、内容(病名、療養期間等)を記録。診断書のコピーも保管します。

休職・復職の通知内容
休職命令書、復職許可書など、正式な通知は必ず記録とコピーを残します。

休職中の連絡記録(日時、方法、内容)
いつ、どんな方法で(メール、電話)、どんな連絡をしたか。本人からの返信内容も記録します。

復職判断の経緯
復職前の面談内容、診断書の内容、復職を認めた理由(または延期した理由)を記録します。

記録の取り方

記録は、難しく考える必要はありません。

手書きメモでOK(日付・内容を明記)
ノートに手書きでも構いません。日付と内容さえ書いてあれば、十分です。

ExcelやGoogleスプレッドシートで管理
デジタルで管理する方が、検索しやすく便利です。

専用の面談記録フォームを作成
テンプレートを作っておけば、毎回同じ項目を記録できます。(後述)

記録は本人に見せる必要はないが、事実を正確に
記録は会社の内部資料です。本人に見せる必要はありませんが、事実を正確に、客観的に書きましょう。

面談記録例

すぐに使えるテンプレートを紹介します。

【面談記録】

日時: 20XX年○月○日 ○時〜○時
場所: 会議室A
出席者: 社長(または上司)、本人
記録者: ○○

■本人の状況
・最近の様子(表情、口調等)
→ 表情が暗く、声も小さかった。疲れている様子。

・訴えた内容
→ 「夜眠れない」「仕事が手につかない」「頭痛がする」

■会社の対応
・伝えたこと
→ 「無理しないで」「病院に行ってみては」と提案

・提案した内容
→ 休職制度の説明。傷病手当金についても説明。

■本人の反応
・受け入れたか、拒否したか
→ 「まだ休みたくない」と拒否。「もう少し頑張ってみます」

■次のアクション
・診断書の提出期限
→ ○月○日までに診断書を提出してもらう

・次回面談日
→ 1週間後に再度面談予定

・その他
→ 業務量を一時的に軽減。締切の厳しい案件は外す。

記録者署名: ○○

診断書のコピー保管

診断書を受け取ったら、必ずコピーを取って保管しましょう。

原本は返却、コピーを保管
または、原本を保管して本人に控えを渡す。

保管期間: 最低5年
労働関係書類の保存期間に準じて、最低5年は保管します。

個人情報保護との兼ね合い

メンタルヘルス情報は、「要配慮個人情報」です。取り扱いには注意が必要です。

鍵のかかるキャビネットで保管
誰でも見られる場所に置いてはいけません。施錠できるキャビネットに保管します。

アクセス権限を限定(社長、人事担当のみ)
誰でも見られる状態にせず、必要最小限の人だけがアクセスできるようにします。

不要になったら適切に廃棄(シュレッダー)
保管期間が過ぎたら、シュレッダーで廃棄します。ゴミ箱にそのまま捨ててはいけません。

記録があったケース

社員が3ヶ月休職した後、退職しました。その半年後、突然「会社が休職を認めなかった。
不当な対応を受けた」と労働基準監督署に訴えが出ました。

会社は驚きましたが、面談記録を提示しました。
「○月○日の面談で、会社から休職を勧めました。
でも本人が『休みたくない』と拒否しました。その後も何度か勧めましたが、拒否が続きました。
最終的に、本人から休職を申し出て、認めました」

記録には、日時、面談内容、本人の発言、会社の対応がすべて書かれていました。
労働基準監督署は、この記録を確認して、「会社は適切に対応していた」と判断。訴えは退けられました。
もし記録がなかったら、「会社は何もしてくれなかった」という本人の主張だけが証拠になってしまい、会社が不利になっていたかもしれません。
記録が、会社を守ったんです。

記録は面倒に感じるかもしれませんが、後で必ず役に立ちます。「日々のメモ」が、トラブル時の最強の武器になります。

休職中のコミュニケーション

休職中の適度な距離感

休職が始まった後、会社としてどう連絡を取ればいいのか、悩みますよね。

「放置」も「過干渉」もNGです。
放置すれば、連絡が取れなくなったり、本人が「見捨てられた」と感じたりします。
過干渉すれば、本人の療養を妨げ、プレッシャーになります。

大切なのは、適度な距離感です。

連絡頻度の設定

基本は、月1回の定期報告です。

本人から会社へ:

  • 毎月○日までに、診断書を提出
  • 簡単な近況報告(「引き続き療養中です」程度でOK)

会社から本人へ:

  • 診断書を受け取ったら、「受け取りました。無理しないでくださいね」と返信
  • 重要事項(休職期間満了の通知など)は別途連絡

月1回なら、頻繁すぎず、少なすぎず、ちょうどいい距離感です。

頻繁すぎると本人の負担になり、少なすぎると会社も本人も不安になります。

連絡方法の使い分け

連絡方法も、状況に応じて使い分けましょう。

メール:定期報告や事務的な連絡に向いています。
本人も自分のペースで読めるので、負担が少ないです。

電話:緊急時や、込み入った内容を伝える時に使います。
ただし、電話は本人にプレッシャーになることもあるので、頻繁には使わない方がいいでしょう。

郵送:正式な通知(休職命令書、休職期間満了の通知など)は、書面で郵送します。
記録としても残ります。

LINEやSNS:原則、使わない方がいいでしょう。
プライベートに踏み込みすぎる印象を与えます。ビジネス用のチャットツール(Chatworkなど)なら、会社によってはOKです。

連絡の内容と温度感

どんな内容を、どんな温度感で伝えればいいのでしょうか。

定期報告のお願い:

「毎月○日までに、診断書と簡単な近況を教えてください。無理のない範囲で大丈夫です」
あくまで「無理のない範囲で」と付け加えることで、プレッシャーを減らします。

会社からの連絡:

「お体の具合はいかがですか? 無理せず、ゆっくり療養してください」
「何か困ったことがあれば、いつでも連絡してください。会社としてできることがあれば、サポートします」
温かく、でも踏み込みすぎない。この温度感が大切です。

避けるべき内容:

× 業務の話
「○○の案件、どうなってましたっけ?」といった業務の話は、プレッシャーになります。療養中は仕事のことを考えさせないようにしましょう。

× 「いつ戻れそう?」
焦らせる質問は避けます。本人も「早く戻らなきゃ」とプレッシャーを感じてしまいます。

× 同僚の噂話
「○○さんが異動になった」「△△さんが辞めた」といった職場の噂話も、余計な心配を生みます。

就業規則への規定

休職中の連絡ルールは、就業規則にも書いておきましょう。

第○条(休職中の報告義務)
1. 休職中は、毎月○日までに診断書を提出すること。
2. 会社からの連絡には、速やかに応答すること。
3. 正当な理由なく連絡が取れない場合、懲戒処分または退職とすることがある。

この規定があれば、「連絡を取る義務がある」と明確になります。

連絡が途絶えた場合の対応

ルールを決めても、連絡が途絶えてしまうことがあります。

ステップ1: まずメールで連絡
「診断書の提出期限が過ぎていますが、いかがでしょうか。ご連絡をお待ちしています」
優しいトーンで、まずはメールで確認します。

ステップ2: 返信なし → 電話
メールで返信がなければ、電話をかけてみます。留守電なら、メッセージを残します。

ステップ3: 電話も出ない → 緊急連絡先(家族)へ
それでも連絡が取れなければ、入社時に記入してもらった緊急連絡先(家族)に連絡します。
「本人と連絡が取れないので、状況を教えていただけますか」

ステップ4: それでも連絡取れず → 内容証明郵便で通知
家族にも連絡が取れない場合は、内容証明郵便で正式な通知を送ります。
「○月○日までに連絡がない場合、就業規則に基づき対応します」

ステップ5: 最終手段 → 就業規則に基づき対応
最終的に連絡が取れなければ、就業規則の「連絡が取れない場合は退職とすることがある」という条項に基づいて、退職扱いにします。
ただし、いきなり最終手段に行くのではなく、段階を踏んで丁寧に対応することが大切です。

適度な連絡で円滑に進んだケース

社員が3ヶ月の休職に入りました。会社は、月1回、本人からメールで診断書と近況を送ってもらうルールにしました。
本人からは毎月、「引き続き通院中です。少しずつ良くなっています」といった簡単な報告が届きました。

会社からは、「お疲れ様です。無理しないでくださいね。また来月、様子を教えてください」と短い返信を送りました。
特に込み入った話はせず、ただ「見守っていますよ」という姿勢を示しました。
3ヶ月経った頃、本人から「そろそろ復職を考えたいのですが」と連絡がありました。会社は「では、診断書をもらってきてください。一緒に相談しましょう」と対応しました。

その後、リハビリ勤務を経て、無事に復職。お互いの信頼関係を保ちながら、スムーズに進みました。
適度な距離感を保つことで、本人も安心して療養できるし、会社も状況を把握できます。これがベストなやり方です。

復職前面談で確認すべき10のポイント

復職前面談の目的

休職期間が終わりに近づき、本人から「復職したい」と連絡が来たら、必ず復職前の面談を行いましょう。

面談の目的:

  • 本当に復職できる状態か、最終確認
  • 本人の意向と会社の期待のすり合わせ
  • 復職後の配慮事項の確認

診断書だけで判断せず、直接会って話すことが大切です。

確認すべき10項目チェックリスト

面談では、次の10項目を順番に確認していきましょう。

□ 1. 通勤可能か

「通勤手段は何ですか?(電車、車、自転車)」
「電車なら、ラッシュ時の満員電車に乗れそうですか?」
「車なら、安全に運転できますか?」
「通勤時間はどれくらいですか? その時間に耐えられそうですか?」

通勤だけで疲れ果ててしまうようでは、仕事どころではありません。

□ 2. 勤務時間

「1日8時間、週5日の勤務は可能ですか?」
「それとも、最初は時短勤務が必要ですか?(何時間なら可能ですか)」
「残業は可能ですか? 当面は免除が必要ですか?」

フルタイムで働けるか、それとも段階的に戻す必要があるか、確認します。

□ 3. 業務内容

「具体的にどの業務ができそうですか?」
「以前と同じ業務は可能ですか?」
「最初は、負荷の軽い業務から始める必要がありますか?」

業務の内容を具体的に確認します。

□ 4. 対人関係

「同僚とのコミュニケーションは取れそうですか?」
「苦手な人との関係は? 配慮が必要ですか?」

人間関係が原因で休職した場合は、特に注意が必要です。

□ 5. ストレス耐性

「締切のプレッシャーは大丈夫ですか?」
「クレーム対応は可能ですか?」
「責任の重い業務は可能ですか?」

ストレスのかかる場面に耐えられるか、確認します。

□ 6. 主治医の見解

「診断書の内容を確認させてください」
「主治医から、具体的な指示はありましたか?(残業禁止、軽作業のみ、など)」
「復職後も通院は必要ですか? 頻度はどれくらいですか?」

主治医の見解も、しっかり確認します。

□ 7. 本人の意欲

「本当に戻りたいと思っていますか?」
「無理していませんか? 焦りはありませんか?」

本人の本音を聞き出します。「早く戻らなきゃ」という焦りだけで復職すると、再発のリスクが高まります。

□ 8. 家族の支援

「家庭環境は安定していますか?」
「ご家族の理解・サポートはありますか?」

家族の支援があるかどうかも、復職の成否に影響します。

□ 9. 再発リスクの自覚

「無理すると再発することを理解していますか?」
「体調が悪くなったら、すぐ相談する意識がありますか?」
「もし無理だと感じたら、遠慮なく言ってくださいね」

再発を防ぐためには、本人の自覚が不可欠です。

□ 10. 会社への要望

「配慮してほしいことはありますか?(残業免除、業務軽減など)」
「その他、気になることはありますか?」

本人の希望も聞いて、できる範囲で配慮します。

面談の進め方

出席者: 本人、上司、人事(または社長)
1対1ではなく、複数の目で確認することで、より客観的に判断できます。

時間: 30分〜1時間
長すぎると本人の負担になります。30分〜1時間程度で十分です。

リラックスした雰囲気で
緊張させないように、柔らかい雰囲気で進めます。「面接」ではなく、「相談」のつもりで。

10項目を順番に確認
上記のチェックリストを見ながら、順番に確認していきます。

記録を残す(面談シート)
面談の内容は、必ず記録に残します。前回説明した面談記録テンプレートを使いましょう。

面談結果の判断

10項目を確認した結果、どう判断するか。

10項目すべてクリア → 復職OK

通勤も勤務時間も業務内容も、すべて問題なし。主治医の見解も「復職可能」。本人の意欲もある。
この場合は、復職を認めます。

いくつか不安要素がある → リハビリ勤務から

通勤は大丈夫だけど、フルタイムはまだきつそう。ストレス耐性がやや心配。
この場合は、リハビリ勤務(短時間・軽作業)から始めます。

多くの項目で不安がある → もう少し療養が必要、復職延期

通勤もきつそう。業務も以前のようにはできなさそう。本人も不安そう。
この場合は、「もう少し療養してから、また相談しましょう」と復職を延期します。
焦って復職させて再発するより、しっかり治してから戻る方が、お互いのためです。

まとめ

復職前面談は、復職判断の最後の砦です。
診断書だけで判断せず、直接会って、10項目をしっかり確認しましょう。
この面談で「大丈夫」と確信できれば、安心して復職を認められます。
「ちょっと不安だな」と思ったら、リハビリ勤務や復職延期を提案します。

丁寧に確認することが、再発を防ぎ、円滑な復職に繋がります。

まとめ

メンタルヘルス対策の9割は、制度ではなく現場の日々の対応で決まります。早期発見・早期対応が、重症化を防ぐ鍵です。

この記事でお伝えした大切なポイントを、もう一度振り返りましょう。

小さなSOSに気づく。 遅刻、ミス、表情の変化——10項目のチェックリストで、部下の変化を見逃さないようにしましょう。3つ以上当てはまったら要注意、5つ以上なら早急に対応が必要です。

「最近どう?」の一言から始める。 攻めない、責めない、詮索しない。心配していることを伝え、話を聞く姿勢を示すだけで、本人の心は軽くなります。NGワードを避け、推奨ワードで声をかけましょう。

休みたくない社員には、誤解を解き、傷病手当金を説明する。 休職は治療のための制度で、クビではありません。経済的不安を取り除き、家族と連携して説得することも有効です。

記録が会社を守る。 面談の内容、診断書、連絡記録——すべて記録に残しましょう。「言った言わない」のトラブルを防ぎ、後で会社を守る証拠になります。

休職中は適度な距離感で。 月1回の定期報告を基本に、放置も過干渉もしない。温かく見守る姿勢が、お互いの信頼関係を保ちます。

復職前面談で10項目を確認。 通勤、勤務時間、業務内容、ストレス耐性——しっかり確認して、本当に復職できる状態か見極めましょう。

次回は、そもそもメンタル不調を出さないための予防策を解説します。職場環境づくり、ハラスメント防止、助成金の活用まで、包括的にお伝えします。

初期対応は、誰にでもできます。今日から、「最近どう?」の一言から始めてみましょう。

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