ご相談内容【想定相談事例】
大阪市内で従業員10名の小さな飲食店を経営しています。採用の際は、面接で給料や勤務時間を口頭で説明し、「よろしくお願いします」と握手して終わり、という流れでやってきました。
ところが先日、入社3か月の社員から「面接のときに『月給25万円』と聞いたのに、実際は23万円しかもらっていない」とクレームを受けました。こちらとしては「基本給23万円」と伝えたつもりでしたが、相手は「そんな話は聞いていない」の一点張りです。
このようなトラブルを防ぐために、雇用契約書は必要なのでしょうか。また、どのような内容を書けばよいのか教えてください。
お悩み
- 口頭での約束だけでは問題がある?
- 雇用契約書は必ず作らないといけない?
- どんな内容を書けばよい?
結論:雇用契約書は法的義務ではないが、労働条件通知書は必須。トラブル防止には契約書も作成
結論から申し上げますと、法律上、必ず「雇用契約書」を作る義務はありませんが、「労働条件通知書」を交付する義務はあります。また、トラブル防止の観点から、雇用契約書を作成し、双方が署名・押印することを強くおすすめします。
雇用契約書と労働条件通知書のポイント
① 労働条件通知書の交付は法律で義務付けられている(労働基準法第15条)
② 雇用契約書は法的義務ではないが、双方の合意を明確にするために有効
③ 賃金・労働時間など、必ず書面で明示すべき項目がある
④ 口頭だけの約束は「言った・言わない」のトラブルになりやすい
「小さな会社だから契約書は不要」「信頼関係があれば大丈夫」という考えは、後々大きなトラブルにつながります。
労働条件通知書と雇用契約書の違い
労働条件通知書とは
労働条件通知書は、会社が従業員に対して、労働条件を書面で明示するための書類です。
労働条件通知書の特徴
- 会社から従業員への一方的な通知
- 交付が法律で義務付けられている(労働基準法第15条)
- 従業員の署名・押印は不要
- 違反すると30万円以下の罰金
雇用契約書とは
雇用契約書は、会社と従業員が労働条件について合意したことを証明する書類です。
雇用契約書の特徴
- 会社と従業員の双方が署名・押印する
- 法律上の交付義務はない
- トラブル防止のために作成が望ましい
- 「合意した」という証拠になる
実務では両方を兼ねた書類を作ることが多い
多くの会社では、労働条件通知書と雇用契約書を兼ねた「雇用契約書兼労働条件通知書」という形式の書類を作成し、双方が署名・押印しています。
これにより、法律上の義務を果たしつつ、トラブル防止にもつながります。
書面で明示しなければならない項目
絶対的明示事項(必ず書面で明示)
労働基準法により、以下の項目は必ず書面で明示する必要があります。
- 労働契約の期間(無期・有期、有期の場合は期間)
- 就業の場所・従事すべき業務
- 始業・終業の時刻、休憩時間、休日、休暇
- 賃金の決定・計算・支払方法、締切日・支払日
- 退職に関する事項(解雇の事由を含む)
これらを口頭だけで済ませることは、法律違反です。
相対的明示事項(定めがある場合は明示)
以下の項目は、会社で定めがある場合に明示が必要です(書面でなくても可)。
- 昇給に関する事項
- 退職手当の有無・計算方法
- 賞与の有無
- 食費・作業用品などの負担
- 安全衛生に関する事項
- 職業訓練に関する事項
- 災害補償・業務外の傷病扶助
- 表彰・制裁に関する事項
- 休職に関する事項
口頭での約束のリスク
「言った・言わない」の水掛け論になる
今回のご相談のように、口頭だけの約束は、後から「聞いていない」「そんなことは言っていない」というトラブルになりがちです。
よくあるトラブル例
- 「基本給25万円と聞いたのに、実際は23万円だった」
- 「残業代は出ると言われたのに、出ない」
- 「週休2日と聞いたのに、実際は月6日しか休めない」
- 「ボーナスがあると聞いたのに、支給されなかった」
会社側が不利になりやすい
トラブルになった場合、「書面で明示していない」こと自体が労働基準法違反となり、会社側が不利になります。
また、裁判になった場合も、書面がないと会社側の主張を証明することが難しくなります。
従業員の不安・不信感につながる
書面を交付しないことで、「この会社、大丈夫かな」「きちんとした会社じゃないのかも」と、従業員に不安や不信感を与えてしまいます。
雇用契約書に記載すべき内容
基本的な記載事項
雇用契約書には、最低限、以下の内容を記載します。
契約期間について
- 無期雇用なのか、有期雇用(1年契約など)なのか
- 有期の場合、契約更新の有無・判断基準
勤務場所・業務内容
- 「本社」「〇〇店」など、具体的な場所
- 「販売業務」「事務業務」など、従事する業務
労働時間・休憩・休日
- 始業・終業時刻(例:9時~18時)
- 休憩時間(例:12時~13時)
- 休日(例:土日祝、または週休2日制)
- 時間外労働の有無
賃金について
- 基本給の額
- 各種手当(通勤手当、家族手当など)
- 締切日・支払日(例:月末締め、翌月25日払い)
- 残業代の計算方法
退職について
- 退職の申出方法(例:退職希望日の1か月前までに届出)
- 解雇の事由
あると良い記載事項
試用期間について
- 期間(例:入社後3か月)
- 試用期間中の条件(本採用後と同じか、異なるか)
社会保険について
- 雇用保険・健康保険・厚生年金の加入有無
その他
- 服務規律(就業規則を参照する旨)
- 秘密保持義務
雇用契約書作成の流れ
雇用契約書を作成する
厚生労働省が公開している「モデル労働条件通知書」を参考に、自社用の雇用契約書を作成します。
採用時に交付・署名する
採用が決まったら、入社日までに雇用契約書を交付し、内容を説明したうえで、双方が署名・押印します。
交付のタイミング
- 採用面接の後、内定通知とともに送付
- 初出勤日に説明・署名
会社と本人が各1部ずつ保管
署名・押印した雇用契約書は、会社と従業員が各1部ずつ保管します。
会社は、退職後3年間保存する義務があります。
よくある質問
Q1:今まで雇用契約書を作っていませんでした。今からでも作るべき?
A:はい、今からでも作成しましょう。
既存の従業員に対しても、「改めて労働条件を確認したい」と伝え、雇用契約書を交わすことをおすすめします。
Q2:パートやアルバイトにも雇用契約書は必要ですか?
A:はい、必要です。
雇用形態に関わらず、すべての従業員に対して労働条件通知書を交付する義務があります。
Q3:電子メールでの交付は可能ですか?
A:本人が希望する場合は、電子メールやPDFでの交付も可能です。
ただし、本人が出力・保存できる環境が必要です。
Q4:契約内容を変更したい場合は?
A:労働条件を変更する場合は、本人の同意を得たうえで、変更内容を書面で明示する必要があります。
一方的な変更は、トラブルのもとになります。
まとめ
雇用契約書の重要性については、
- 労働条件通知書の交付は法律で義務付けられている
- 雇用契約書を作成し、双方が署名・押印することでトラブル防止
- 賃金・労働時間など、必ず書面で明示すべき項目がある
- 口頭だけの約束は「言った・言わない」のトラブルになりやすい
という点をしっかり押さえておく必要があります。
上本町社会保険労務士事務所では、雇用契約書・労働条件通知書のひな形作成、既存従業員との契約書作成サポート、パート・アルバイト用の契約書作成、契約内容変更時の対応方法などを通じて、トラブルを未然に防ぐ労務管理をサポートしています。
「雇用契約書を作ったことがない」
「今の契約書で問題ないか不安」
そんなお悩みがあれば、まずはお気軽にご相談ください。

