労使慣行の法的効力【商大八戸ノ里ドライビングスクール事件】

商大八戸ノ里ドライビングスクール事件

商大八戸ノ里ドライビングスクール事件(労使慣行)とは、労働協約や就業規則に反する労使慣行が法的効力を持つかどうかを争った裁判です。

事案

原告は、自動車教習所を経営する会社の教習指導員であったが、労働協約に反して、特定休日の振替や能率手当の支給を受けていた。しかし、新任の勤労部長が、これらの取扱いを労働協約や就業規則に従って変更したため、原告は、従来の取扱いに基づく未払賃金等の支払いを求めて会社を訴えた。

争点・結論

労働協約や就業規則に反する労使慣行が、民法92条により法的効力のある慣習として認められるためには、同種の行為や事実が一定の範囲において長期間反復継続して行われていたこと、労使双方が明示的にこれによることを排除・排斥していないことのほか、当該慣行が労使双方の規範意識によって支えられていることを要するとした。そして、本件の取扱いについては、これらの要件を満たしていないと判断し、労使慣行が法的効力を持たないとした。

判旨

大阪高等裁判所は、1993年6月25日に判決を言い渡し、原告の控訴を棄却した。最高裁判所は、1995年3月9日に判決を言い渡し、原告の上告を棄却した。

解説

労使慣行の法的効力に関する重要な判例です。労働協約や就業規則は、労働者と使用者の間で合意された労働条件の基本的なルールです。しかし、実際には、労働協約や就業規則に記載されていないか、あるいは記載されている内容と異なる労働条件が、職場の慣習として定着している場合があります。例えば、賃金や手当、休日や休暇、退職金や退職年齢などに関する取扱いです。これらの慣習が、労働契約の内容として法的に保護されるかどうかは、民法92条により判断されます。民法92条は、法令中の公の秩序に関しない規定と異なる慣習がある場合において、法律行為の当事者がその慣習による意思を有しているものと認められるときは、その慣習に従うと定めています。この条文は、契約の内容を補充するための任意規定と異なる慣習について規定しています。労働協約や就業規則は、労働契約の内容を補充するための任意規定と解されるので、これらに反する労使慣行が民法92条の慣習として認められる可能性があります。しかし、労働協約や就業規則は、労働者と使用者の間で合意されたものであり、労働条件の基準となるものです。したがって、これらに反する労使慣行が法的効力を持つとするには、厳格な要件を要すると考えられます。この判決では、労使慣行が法的効力を持つためには、同種の行為や事実が一定の範囲において長期間反復継続して行われていたこと、労使双方が明示的にこれによることを排除・排斥していないことのほか、当該慣行が労使双方の規範意識によって支えられていることを要すると判断しました。そして、本件の取扱いについては、これらの要件を満たしていないと判断し、労使慣行が法的効力を持たないとしました。この判決により、労働協約や就業規則に反する労使慣行が法的効力を持つと認められる場合は、非常に限られることが明確になりました。使用者は、労働協約や就業規則を遵守し、労使慣行による不合理な労働条件の是正に努める必要があります。労働者は、労働協約や就業規則に反する労使慣行に依存せず、労働協約や就業規則の改善に向けて労働組合と協力する必要があります。

関連条文:民法第92条、労働契約法第5条、労働基準法第6条、第7条、第13条

学ぶべき事柄

労働協約や就業規則に反する労使慣行が法的効力を持つと認められる場合は、非常に限られるということです。労使慣行が民法92条の慣習として認められるためには、同種の行為や事実が一定の範囲において長期間反復継続して行われていたこと、労使双方が明示的にこれによることを排除・排斥していないことのほか、当該慣行が労使双方の規範意識によって支えられていることを要するということです。
労働協約や就業規則は、労働者と使用者の間で合意された労働条件の基本的なルールであり、労働契約の内容を補充するための任意規定と解されるということです。したがって、労働協約や就業規則を遵守し、労使慣行による不合理な労働条件の是正に努める必要があるということです。

関連判例

日本航空事件:労働協約や就業規則に反する労使慣行が、民法92条により法的効力のある慣習として認められるためには、同種の行為や事実が一定の範囲において長期間反復継続して行われていたこと、労使双方が明示的にこれによることを排除・排斥していないことのほか、当該慣行が労使双方の規範意識によって支えられていることを要するとした点は、商大八戸ノ里ドライビングスクール事件と同じですが、本件の取扱いについては、これらの要件を満たしていると判断し、労使慣行が法的効力を持つとした。この点は、商大八戸ノ里ドライビングスクール事件と異なります。

三菱重工業事件:労働協約や就業規則に反する労使慣行が、民法92条により法的効力のある慣習として認められるためには、同種の行為や事実が一定の範囲において長期間反復継続して行われていたこと、労使双方が明示的にこれによることを排除・排斥していないことのほか、当該慣行が労使双方の規範意識によって支えられていることを要するとした点は、商大八戸ノ里ドライビングスクール事件と同じですが、本件の取扱いについては、これらの要件を満たしていないと判断し、労使慣行が法的効力を持たないとした。この点は、商大八戸ノ里ドライビングスクール事件と同じです。

注意すべき事柄

労働協約や就業規則の整備と遵守:労働協約や就業規則は、労働条件の基本的なルールであり、労働者と使用者の信頼関係の基盤である。労働協約や就業規則を明確に定め、労働者に周知し、適切に適用することが重要である。労働協約や就業規則に反する労使慣行は、法的に無効である可能性が高く、労働紛争の原因となる。

労使慣行の見直しと改善:労働協約や就業規則に反する労使慣行が存在する場合は、早急に見直しと改善を行う必要がある。労使慣行の見直しと改善は、労働者の権利を侵害しないように、労働者の同意や協議を得ることが必要である。労使慣行の見直しと改善は、労働条件の合理化や効率化にも寄与する。

労働組合との対話と協力:労働協約や就業規則の整備や遵守、労使慣行の見直しと改善にあたっては、労働組合との対話と協力が不可欠である。労働組合は、労働者の代表として、労働条件の決定や変更に関与する権利を有する。労働組合との対話と協力は、労働条件の合意形成や紛争解決の手段であるとともに、労働者の参加やモチベーションの向上にもつながる。

経営者・管理監督者の方へ

  • 労働条件については、労働協約や就業規則などで明文化し、従業員に周知徹底することが重要です。不利益変更の際は十分な説明と合意が必要となります。
  • 労使慣行がある場合、そのルーツと合理性を検証し、明確な運用基準を定める必要があります。法的拘束力がある場合は遵守が求められます。
  • 労使慣行の見直しに当たっては、従業員の理解と同意を得ながら、慎重に進める必要があります。労働組合などとの協議が重要です。

従業員の方へ

  • 労働条件は労働協約や就業規則に明記されているほか、労使慣行による拘束がある場合があります。自身の権利を把握しておくことが大切です。
  • 使用者からの一方的な不利益変更には同意する義務はありません。不当な場合は、労働組合や労働基準監督署に相談できます。
  • 労使慣行があれば一定の法的拘束力が認められる可能性があります。慣行に従うことを求められた際は、その合理性を確認することが重要です。