長期無断欠勤と懲戒処分【日本ヒューレット・パッカード事件】

日本ヒューレット・パッカード(以下「会社」という。)が、精神面の不調から出社しなかった社員の男性(以下「従業員」という。)を諭旨退職とした処分の妥当性が争われた事案。

争点・結論

精神的な不調を理由に出勤しなかった従業員が諭旨退職とされた処分の正当性について争われました。裁判所は、懲戒処分には明確な懲戒事由が必要であるとし、従業員の欠勤が就業規則に定める無断欠勤には該当しないと判断しました。そのため、従業員の請求が認められました。

判旨

年次有給休暇は労働基準法で認められた権利で、その実効を確保するために付加金や刑事罰の制度が定められ、また、年次有給休暇の時季指定は従業員が行うことになっている。このことから、労働基準法は、使用者に対して、できるだけ従業員が指定した時季に休暇を取れるよう状況に応じた配慮をすることを要請しているものとみることができる。
勤務割による勤務体制がとられている事業場の場合には、代替勤務者の配置の難易は、事業の正常な運営を妨げる場合か否かの判断の重要な要素である。したがって、使用者としての通常の配慮をすれば、勤務割を変更して代替勤務者を配置することが客観的に可能な状況にあるにもかかわらず、使用者がそのための配慮をしないことにより代替勤務者が配置されないときは、必要配置人員を欠くものとして事業の正常な運営を妨げる場合に当たるということはできない。そして、年次有給休暇の利用目的は労働基準法の関知しないところであるから、勤務割を変更して代替勤務者を配置することが可能な状況にあるにもかかわらず、休暇の利用目的のいかんによってそのための配慮をせずに時季変更権を行使することは、利用目的を考慮して年次有給休暇を与えないことに等しく、許されないものであり、右時季変更権の行使は、結局、事業の正常な運営を妨げる場合に当たらないものとして、無効といわなければならない。

解説

年次有給休暇は労働者の権利であり、その実効を確保するために、使用者は、できるだけ従業員が指定した時季に休暇を取れるよう配慮することが要請される。この配慮は、代替勤務者の配置の難易を含めて、事業の正常な運営を妨げる場合か否かの判断の要素となる。また、年次有給休暇の利用目的は、使用者が関知するところではなく、そのために配慮をしないで時季変更権を行使することは、年次有給休暇を与えないことと同じで許されない。したがって、本判決は、年次有給休暇の時季変更権の行使に厳格な基準を設け、労働者の権利を保護するものであると言える。
関連条文: 労働基準法第39条(年次有給休暇)、同第114条(付加金)、同第119条(罰則)。

日本ヒューレット・パッカード事件から学ぶべき事柄

  • 精神的な不調が疑われる場合、使用者は健康診断や休職などの配慮を行うべきです。
  • 従業員が自覚していない精神的な不調がある場合、就業規則に健康診断の受診を命じることができる条項を設けるべきです。
  • 健康診断の受診命令や休職処分は、口頭だけでなく書面で行い、記録を残すべきです。

関連判例

  • 日本ヒューレット・パッカード事件(最高裁平成24年4月27日判決): 精神的な不調から出社しなかった社員の諭旨退職処分が無効とされた事例。
  • ヒロセ電機事件(東京地裁平成14年10月22日判決): 精神的な不調から出社しなかった社員の諭旨退職処分が有効とされた事例。

注意すべき事柄

  • 無断欠勤をした従業員の理由や状況を確認し、精神的な不調の可能性がある場合は、適切な配慮を行うこと。
  • 精神的な不調の従業員に対しては、健康状態の回復や職場復帰の支援を行うこと。
  • 無断欠勤や精神的な不調の従業員に対する対応は、就業規則や労働契約に基づいて行い、懲戒処分を行う場合は、懲戒事由や手続きを明確にすること

経営者・管理監督者の方へ

  • 従業員の長期無断欠勤の背景に、メンタルヘルス不調がある可能性があることを認識し、そうした事案には慎重に対応する必要があります。
  • 長期無断欠勤者に対して、健康診断の受診や産業医による面談など、適切な配慮を行うことが求められます。
  • メンタルヘルス不調が疑われる場合は、復職支援プログラムの利用や、主治医や産業医と連携した職場復帰支援を検討しましょう。
  • 長期無断欠勤への対応として、即座に懲戒解雇などの厳しい処分を下すのは避け、状況に応じた配慮が必要不可欠です。
  • 就業規則にメンタルヘルス対応の規定を設け、早期対応の体制を整備することをお勧めします。
  • 最終的には離職に至らぬよう、産業医や labor専門家など外部専門家とも連携し、労使で協力して対応に当たることが重要です。

従業員の方へ

  • メンタルヘルス不調で長期の無断欠勤をしてしまった場合、会社から適切な配慮が行われるべきです。
  • 健康診断の受診や産業医面談の機会が設けられるはずです。できる限り受診するなど、会社の対応に協力することが大切です。
  • 主治医からの病状説明書や、復職の見通しなどを提出するよう依頼された場合は、適切に対応しましょう。
  • 会社による不当な処分が疑われる場合は、労働組合や労働基準監督署に相談するなど、自身の権利を守る行動を取ることも必要です。
  • メンタルヘルスケアを受けながら、会社と十分なコミュニケーションを取り、円滑な職場復帰を目指すことが重要です。