選択定年制による早期退職【神奈川信用農業協同組合事件】

神奈川信用農業協同組合事件

経営悪化により解散が不可避となった信用農業協同組合が、選択定年制の廃止と適用拒否をしたことに対して、同制度による退職の申出をした職員が割増退職金の支払いを求めた事案。

争点・結論

選択定年制による退職の申出に対する使用者の承認がなければ、割増退職金の発生を伴う退職の効果が生じるかどうかが争点となった。最高裁は、使用者の承認がなければ、割増退職金の発生を伴う退職の効果は生じないと判断し、職員の請求を棄却したと結論づけた。

判旨

選択定年制による退職は、職員の申出と使用者の承認とを前提に、早期の退職の代償として特別の利益を付与するものであるところ、使用者がその承認をするかどうかに関し、就業規則や選択定年制実施要項において特段の制約は設けられていない。したがって、使用者が承認をしなければ、割増退職金債権の発生を伴う退職の効果が生ずる余地はない。なお、使用者が承認をしなかった理由が、経営悪化から事業譲渡及び解散が不可避となったとの判断の下に、退職者の増加により事業継続が困難になる事態を防ぐためであったというのであるから、その理由が不十分であるというべきものではない。

解説

選択定年制による退職の申出に対する使用者の承認の有無が、割増退職金の発生を伴う退職の効果に影響するかどうかを明確にした重要な判例である。選択定年制は、使用者と職員との合意に基づくものであり、使用者には一定の裁量権が認められるというのが本判決の主旨である。この判断は、使用者の経営判断や事業継続の必要性を尊重するものであると言える。ただし、使用者の承認の裁量には、選択定年制の趣旨目的に沿った合理的なものでなければならないという制約があることに注意する必要がある。
関連条文: 労働基準法第18条(就業規則の作成)、同第19条(就業規則の変更)、同第23条(退職金の支払い)。

神奈川信用農業協同組合事件から学ぶべき事柄

選択定年制による退職の申出は、使用者の承認が必要であり、承認がなければ割増退職金の発生を伴う退職の効果は生じないことを知っておく必要がある。
選択定年制を設ける場合は、使用者の承認の基準や条件を明確にしておくことが望ましい。
選択定年制による退職の申出に対して使用者が承認をしない場合は、その理由を合理的に説明することが重要である。

関連判例

日本テキサス・インスツルメンツ事件…使用者が選択定年制による退職の申出を承認したが、その後に職員が承認を取り消すことを申し出た場合、使用者は賃金の支払い義務を負うと判断された事例です。

注意すべき事柄

選択定年制を雇用する場合は、労働基準法の定年退職制度に関する規定を確認しておくことが望ましい。

選択定年制による退職に伴う割増退職金の額や計算方法を就業規則や選択定年制実施要項で定めるか、個別に職員と合意することが必要である。

選択定年制による退職の申出に対して使用者が承認をするかどうかは、経営状況や事業継続の必要性などを慎重に判断することが重要である。

経営者・管理監督者の方へ

  • 選択定年制による従業員の早期退職申出に対しては、会社が承認するかどうかの裁量権があります。しかし、その判断は合理的な理由に基づく必要があります。
  • 選択定年制の制度設計時には、会社の承認基準や条件を就業規則や実施要領に明確に定めておくことが重要です。不明確な場合は後々トラブルの原因となります。
  • 退職申出への不承認の理由として、経営状況の悪化や事業継続への影響などを挙げる場合は、具体的な根拠を示す必要があります。
  • 選択定年制による退職者に支払う割増退職金の額や計算方法についても、就業規則等で明確に定めるか、個別に合意を取っておく必要があります。
  • 一方的な制度廃止や申出拒否はトラブルの原因となりますので、従業員との十分な協議を経ることが肝心です。選択定年制は合意に基づく制度であることを忘れずに慎重に対応しましょう。

従業員の方へ

  • 選択定年制による早期退職を申し出ても、会社が承認しなければ割増退職金の支払いを求められません。会社の承認が必要不可欠であることに留意が必要です。
  • 会社が退職申出を不承認とした場合、その理由の合理性を確認し、説明を求めましょう。不合理な場合は是正を求めることができます。
  • 選択定年制の制度内容、特に割増退職金の支給要件や算定方法が不明確であれば、会社に確認を求める必要があります。
  • 一方的な制度廃止や申出拒否があった場合は、労働組合や社労士など第三者の支援を求めて、是正交渉を行うことも検討できます。
  • 定年到達時に通常の退職金が支給されることを確認し、選択定年制の活用によるメリット・デメリットを総合的に判断することが賢明です。