賃金と中間利益の相殺【あけぼのタクシー事件】

あけぼのタクシー事件

タクシー会社が労働組合の活動を嫌悪して従業員を懲戒解雇したが、解雇は無効とされた。解雇期間中に従業員は他社でタクシー運転手として働き、前の会社で受け取っていた賃金を上回る収入(中間利益)を得た。

争点・結論

解雇期間中の賃金の支払いについては、中間利益の控除の可否と範囲が問題となった。最高裁判所は、平均賃金の6割を下らない限度で中間利益を控除できるとしたが、控除できる中間利益は賃金の支給対象期間と時期的に対応するものに限られるとした。

判旨

最高裁判所昭和62年4月2日第一小法廷判決

解説

解雇が無効となった場合において、会社は解雇した時点にさかのぼって賃金を支払わなければならないが、従業員が解雇期間中に他社で働いて収入を得ていた場合、その収入を賃金から控除できるかどうかについて争われた裁判です。労働基準法第26条により、平均賃金の6割は中間利益があっても控除できないことが示されました。また、平均賃金の6割を超える部分については控除できますが、賃金の支給対象期間と時期的に対応する期間に得た中間利益に限られます。さらに、中間利益が平均賃金の4割を超える場合は、平均賃金の算定の基礎に算入されない賃金(賞与など)からも控除できることが示されました。この裁判は、解雇期間中の賃金の支払いに関する代表的な判例として知られています。

関連条文:労働基準法第26条(休業手当)、民法第536条(債務の履行不能)

あけぼのタクシー事件から学ぶべき事柄

解雇が無効となった場合において、解雇期間中の賃金を支払うときは、平均賃金の6割を下らない限度で、労働者が他で就労して得た中間利益を控除することができるとされた。
中間利益の控除は、賃金の支給対象期間と時期的に対応するものに限られるとされた。
平均賃金の算定の基礎に算入されない賃金(賞与など)からも中間利益を控除できるとされた。

関連判例

解雇が無効となった場合において、解雇期間中の賃金を支払うときは、平均賃金の6割を下らない限度で、労働者が他で就労して得た中間利益を控除することができるとされたが、中間利益の控除は、賃金の支給対象期間と時期的に対応するものに限られるとされなかった事案です。

注意すべき事柄

解雇が無効となった場合において、解雇期間中の賃金を支払うときは、労働者が他で就労して得た中間利益を控除することができる可能性があることを認識し、その額や時期を確認することが必要です。
中間利益の控除は、賃金の支給対象期間と時期的に対応するものに限られる可能性があることを考慮し、その判断基準を明確にすることが望ましいです。
平均賃金の算定の基礎に算入されない賃金(賞与など)からも中間利益を控除できる可能性があることを理解し、その計算方法を確認することが必要です。

経営者・管理監督者の方へ

・解雇が無効とされた場合、解雇期間中の賃金を従業員に支払わなければなりません。この際、従業員の中間利益を適切に控除することが可能です。

・控除できる中間利益の範囲は、「平均賃金の60%を下回らない部分」に限られます。60%を超える中間利益は全額控除できます。

・ただし、控除できる中間利益は、「会社の賃金支払い対象期間と時期的に対応するもの」に限定されます。時期的対応の有無は慎重に判断する必要があります。

・平均賃金の算定基礎に算入されない賃金(賞与など)から、平均賃金の40%を超える中間利益を控除することも可能です。

・中間利益控除に当たっては、従業員の収入実態や勤務実態を的確に把握し、法的根拠に基づいた適正な金額控除を心がける必要があります。

・解雇無効時の賃金支払いルールは複雑で個別事案による違いもあるため、労務トラブル防止の観点から、労務専門家への相談も検討すべきでしょう。

従業員の方へ

・会社が解雇された期間の賃金を支払わない場合、解雇が無効である可能性が高く、会社に賃金の支払いを求められます。

・ただし、会社は、あなたが解雇期間中に得た収入(中間利益)の一部を賃金から控除することができます。

・控除できる中間利益には法的な制限があり、平均賃金の60%相当額までは控除されません。60%を超える分は全額控除の対象となります。

・会社が過大な中間利益控除を行おうとした場合は、その根拠を確認し、労働組合や労基署に相談するなど、自身の権利を守る対応を取ることが重要です。

・解雇無効時の賃金請求は複雑な判断を伴うため、労務トラブルに備え、あらかじめ関連知識を身に付けておくことをお勧めします。