安全配慮義務の定義【陸上自衛隊八戸車両整備工場事件】

自衛隊員が車両整備中に同僚の運転するトラックに轢かれ死亡した。国は国家公務員災害補償金として76万円を支給したが、遺族は損害賠償を求めた。

争点・結論

国は公務員に対して、安全配慮義務を負っているかどうかが問題となった。最高裁判所は、国は公務員の生命や健康を危険から保護するよう配慮すべき義務を負っているとし、国の債務不履行による損害賠償責任を認めた。

判旨

最高裁判所昭和50年2月25日第三小法廷判決3

解説

安全配慮義務は、ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において、その法律関係の付随義務として当事者の一方又は双方が相手方に対して信義則上負う義務として一般的に認められるものである。国と公務員の関係においても、国は公務員の職種や状況に応じて、公務遂行のために設置すべき場所や施設や器具の設置管理や公務の管理に当たって、公務員の安全を確保するよう配慮する義務を負う。本件では、国は自衛隊員の車両整備における安全管理に不備があったと認められ、公務員の死亡につながったことから、安全配慮義務を不履行したと判断された。

関連条文:民法第415条(債務不履行)、国家公務員法第8条(職務の専念)、自衛隊法第9条(服務の義務)

陸上自衛隊八戸車両整備工場事件から学ぶべき事柄

国は公務員の安全を確保するよう配慮する義務を負っており、その義務を不履行した場合は損害賠償責任を負う。
安全配慮義務は、法律関係の付随義務として信義則上負う義務であり、その内容は具体的な事情に応じて判断される。
安全配慮義務の不履行の有無は、使用者が危険を予見し、かつ、防止するための措置をとることができたかどうかによって判断される。

関連判例

国は公務員の安全を確保するよう配慮する義務を負っているが、その義務は絶対的なものではなく、公務の性質や状況に応じて相対的に制限されるとされた事案です。

注意すべき事柄

従業員の安全を確保するために、職場の危険性を把握し、必要な安全対策や教育を実施することが重要です。
従業員の安全に関する苦情や要望に対しては、適切に対応し、改善策を講じることが望ましいです。
従業員が職務中に事故や災害に遭った場合は、速やかに救護や報告を行い、責任の所在や原因の究明を行うことが必要です。

経営者・管理監督者の方へ

・従業員の安全確保は使用者の重要な義務です。安全配慮義務を怠ると、本件のように重大な労働災害が発生し、使用者に損害賠償責任が課されかねません。

・職場の危険箇所や作業工程における危険性を事前に特定し、リスクアセスメントを確実に実施する必要があります。

・危険予防のための具体的な安全対策を講じることが不可欠です。保護具の着用徹底、安全教育の継続的な実施、作業手順の標準化など、実効性のある対策が求められます。

・従業員から安全面での懸念や提案があれば、真摯に受け止め、スピーディーな改善を心がける姿勢が重要です。安全への投資を惜しまないことが経営者に求められます。

・万一、事故や災害が発生した場合は、迅速な救護対応と事故原因の徹底究明を行う必要があります。再発防止に向けた根本的な対策を講じることが不可欠となります。

・労働安全衛生法をはじめとする関連法令を遵守し、従業員の生命と健康を守ることこそが、経営者の最重要課題です。

従業員の方へ

・職場の安全は、従業員一人一人が高い安全意識を持つことが不可欠です。危険な作業行為は絶対に行わず、指示に従うことが大前提となります。

・職場に不安全な箇所や問題点があれば、上司や労働組合などにすぐに伝え、改善を求めることが重要です。自らの安全は自らが守る姿勢が欠かせません。

・安全教育や指示、保護具の着用ルールなど、使用者が定めた安全対策に必ず従うようにしましょう。これらを守らないと、自身や他の従業員に被害が及ぶ可能性があります。

・他の従業員の不安全行為に気付いたら、率直に指摘し合うことも大切です。職場の安全は一丸となって作り上げていくものですから、お互いに注意を払う姿勢が不可欠となります。

・職場の安全対策や労働条件に不備があれば、労働基準監督署に相談するなど、自らの権利を守る行動を起こすことも検討する必要があります。