古川電気工業・原子燃料工業事件【復職命令と同意】

復職命令と同意に関する判例です。この判例は、出向元の会社が出向先の会社の同意を得た上で、出向している従業員に復帰を命じた場合に、特段の事由がない限り、従業員の同意を得る必要はないとしたものです。

事案

A社が原子燃料部門を切り離してB社と合併した新会社C社を設立しました。A社はその部門に在籍していた従業員に対して、A社との雇用関係は存続したまま、復帰もあり得ることを伝えて本人から同意を得た上で、C社に出向を命じました。その後、A社が復帰を命じたところ、Xがこれを拒否したため、A社はXを懲戒解雇しました。これに対して、Xが、復帰には同意が必要であると主張して、懲戒解雇の無効と賃金の支払いを求めてA社とC社を提訴しました。

争点・結論

出向元の会社が出向先の会社の同意を得た上で、出向している従業員に復帰を命じる場合に、特段の事由がない限り、従業員の同意を得る必要はないとしました。なぜなら、出向元の指揮監督下で労務を提供することは、当初の雇用契約で合意していたことであって、出向元から復帰は想定していないと伝えて、従業員が同意した上で、出向を命じた場合は、将来にわたって、再び出向元の指揮監督下で労務を提供することはないという合意が成立した(雇用契約が変更された)と考えられる場合を除き、右合意の存在を前提とした上で、一時的に出向先の指揮監督下で労務を提供する関係となっていたにすぎないものというべきであるからである。

判旨

最高裁判所第二小法廷は、昭和60年4月5日に判決を言い渡し、原告の請求を一部棄却しました。

解説

復職命令と同意について、重要な判断基準を示した判例です。復職命令は、出向元との雇用契約に基づく従業員たる身分を保有しながら、出向先の指揮監督下で労務を提供するという形態の出向(いわゆる在籍出向)が命じられた場合において、その後出向元が、出向先の同意を得た上で、右出向関係を解消して労働者に対し復帰を命ずるものです。復職命令は、指揮監督の主体を出向先から出向元へ変更するものではあるが、労働者が出向元の指揮監督下で労務を提供するということは、もともと出向元との当初の雇用契約において合意されていた事柄であって、出向元から復帰は想定していないと伝えて、従業員が同意した上で、出向を命じた場合は、それが契約内容になります。そのような特別な事情があった場合は、例外的に復帰を命じる際は本人の同意が必要になります。しかし、そのような特段の事由がない限り、従業員が出向元の指揮監督下で労務を提供するという当初の雇用契約は維持されると考えられます。つまり、一時的に、出向先の指揮監督下で労務を提供していたに過ぎないということです。したがって、出向元企業が出向先企業の同意を得た上で、出向を解消して従業員に復帰を命じる場合は、特段の事由がない限り、その従業員から同意を得る必要はないということです。

古川電気工業・原子燃料工業事件から学ぶべき事柄

出向元の会社が出向先の会社の同意を得た上で、出向している従業員に復帰を命じる場合に、特段の事由がない限り、従業員の同意を得る必要はない。
従業員の同意が必要になる特別な事情としては、出向元から復帰は想定していないと伝えて、従業員が同意した上で、出向を命じた場合がある。
復帰を命じる際は、出向元との当初の雇用契約に基づくものであることを明確にすること。

関連判例

三菱重工長崎造船所事件(最高裁平成12年3月9日):仮眠時間中に作業を行わなかった場合でも、仮眠室で待機し、警報や電話等に対して直ちに対応することが義務付けられている場合は、その時間は会社の指揮命令下に置かれているとして、労働基準法上の労働時間に当たるとした事例。
ビソー工業事件(最高裁平成26年8月26日):仮眠時間中に作業を行わなかった場合でも、仮眠室で待機し、警報や電話等に対して直ちに対応することが義務付けられている場合は、その時間は会社の指揮命令下に置かれているとして、労働基準法上の労働時間に当たるとした事例。

注意すべき事柄

出向の制度や方法については、従業員の意向や状況を考慮し、合理的な理由や明示の根拠を持って行うこと。従業員との合意や協議を十分に行うこと。
復帰を命じる場合は、出向先の同意を得るとともに、従業員に対しても事前に通知し、必要に応じて説明や相談を行うこと。復帰に関する手続きや条件を明確にすること。
復帰を拒否した従業員に対しては、懲戒解雇をする前に、拒否の理由や経緯、従業員の状況や反省の有無などを考慮し、解雇が相当かどうかを判断すること。解雇の理由や手続きを明確にすること。

経営者・管理監督者の方へ

  • 出向の開始時に、将来の復帰の可能性や手続きを労働契約や出向契約書に明記しておくことが重要です。復帰に関する従業員の同意が不要か確認しておきましょう。
  • 出向中の従業員に対しては、定期的に出向元と出向先の双方から状況を説明し、コミュニケーションを密にすることで不安を解消しましょう。
  • 復帰を命じる際は、出向先企業の同意を得た上で、従業員に対して書面で通知するなど、手続きを適切に行いましょう。
  • 復帰を正当な理由なく拒否する従業員には、懲戒処分の対象となる可能性があります。ただし、従業員の事情を十分に聴取し、処分が過剰にならないよう注意が必要です。

従業員の方へ

  • 出向の際は、復帰の可能性や手続き、同意の要否などをよく確認しましょう。出向中も出向元から情報提供を受け、コミュニケーションを大切にしてください。
  • 復帰を命じられた場合、正当な理由がなければ従うべきです。状況によっては労働組合や労基監督署にも相談できます。
  • 復帰を正当な理由なく拒否すれば、懲戒処分の対象となる可能性があります。自身の事情を十分に説明し、納得のいく対応を求めましょう。