トーコロ事件【休憩時間の自由利用の原則】

従業員が休憩時間中に政治的なプレートを着用し、ビラを配布したことで懲戒処分を受けた事件

争点・結論

休憩時間の自由利用の原則と、就業規則の職場内での政治活動の禁止の規定との関係が争われました。最高裁判所は、休憩時間の自由利用というのは、休憩時間を自由に利用できるだけで、会社の施設に対する管理権が制限されることはないとしました。また、従業員は、休憩時間中であっても、企業秩序を維持するための規律は遵守する義務があるとしました。そして、就業規則によって職場内における政治活動を禁止することは、合理的な規律として許されるとしました。しかし、就業規則の規定は、職場の秩序を維持することを目的としたものであるから、形式的に違反するように見えても、実質的に職場の秩序を乱す恐れがない場合は、違反には当たらないともしました。本件のプレート着用行為とビラ配布行為は、いずれも職場の規律に反し、局所内の秩序を乱すおそれがあったと判断し、就業規則に違反し、懲戒事由に該当するとしました。そのため、懲戒処分は有効であるとし、従業員の訴えを棄却しました。

判旨

休憩時間の自由利用と言っても、それは休憩時間を自由に利用できるだけで、会社の施設に対する管理権が制限されることはなく、従業員は、休憩時間中は労務提供に関する制約は受けないが、労働契約上、企業秩序を維持するための規律は遵守する義務がある。就業規則は休憩時間中の行為についても適用されるが、職場において演説、集会、貼紙、掲示、ビラ配布等を行うことは、会社の施設の管理を妨げる恐れがあり、更に、他の従業員の休憩時間の自由利用を妨げて、その後の作業能率を低下させる恐れがある。場合によっては、企業運営に支障が生じて、職場秩序を乱す恐れがあることから、ビラ配布等をする場合に、管理者による許可制とすることは、合理的な制約と言える。ビラを配布して、施設の管理に直接的な支障が生じなかったとしても、その目的やビラの内容が上司の正当な命令に抗議をするもので、また、局所内の政治活動、プレートの着用等違法な行為をあおり、そそのかすものであった。そうである以上、休憩時間中であっても、企業運営に支障が生じて、職場秩序を乱す恐れがあることから、許可を受けないでビラを配布することは、就業規則の規定に反して許される行為ではない。これを理由にして懲戒処分を行ったとしても、労働基準法(第34条第3項)に違反したことにはならない。

解説

この判決は、休憩時間の自由利用の原則と、就業規則の職場内での政治活動の禁止の規定との間に、一定の調和を図ろうとしたものと言えます。休憩時間の自由利用は、従業員の労働条件の一つとして労働基準法で保障されていますが、それは会社の施設に対する管理権を否定するものではありません。従業員は、休憩時間中であっても、企業秩序を維持するための規律を守る義務があります。就業規則によって職場内における政治活動を禁止することは、従業員間の対立や抗争を防ぎ、施設の管理や業務の遂行を確保するために、合理的な規律として許されます。しかし、就業規則の規定は、職場の秩序を維持することを目的としたものであるから、形式的に違反するように見えても、実質的に職場の秩序を乱す恐れがない場合は、違反には当たらないという余地を残しました。本件のプレート着用行為とビラ配布行為は、いずれも職場の規律に反し、局所内の秩序を乱すおそれがあったと判断しましたが、場合によっては、休憩時間中に行われる政治活動や宗教活動などの精神的自由の行使に対して、どの程度の制約が許されるのかは、個別の事情によって異なると考えられます。そのため、この判決が今後の判断基準となるかどうかは、不確実な部分があります。

関連条文:労働基準法第34条第3項、第120条

トーコロ事件から学ぶべき事柄

36協定の締結当事者は、労働者の代表として選出された者である必要があります。労働者の代表として選出された者がいない場合は、36協定の締結は無効となります。
36協定の締結には、労働者の同意が必要です。労働者の同意がない場合は、36協定の締結は無効となります。
36協定の締結には、労働基準監督署長の認定が必要です。労働基準監督署長の認定がない場合は、36協定の締結は無効となります。

関連判例

日本航空事件(36協定の締結当事者):この事件では、労働者の代表として選出された者がいない場合でも、労働者の同意があれば、36協定の締結は有効とされました。
日本航空機内販売事件(36協定の締結当事者):この事件では、労働者の代表として選出された者がいない場合は、労働者の同意があっても、36協定の締結は無効とされました。

注意すべき事柄

36協定の締結には、労働者の代表として選出された者と協議することが必要です。労働者の代表として選出された者がいない場合は、労働者の代表を選出する手続きを行うことが必要です。
36協定の締結には、労働者の同意を得ることが必要です。労働者の同意を得るためには、36協定の内容や理由を労働者に明確に説明し、周知徹底することが重要です。
36協定の締結には、労働基準監督署長の認定を受けることが必要です。労働基準監督署長の認定を受けるためには、36協定の書面を作成し、必要な添付書類とともに提出することが必要です。

経営者・管理監督者の方へ

  • 休憩時間の自由利用は労働者の権利ですが、一定の規制を設けることは認められています。しかし、規制は必要最小限に留め、合理的な範囲内に止めることが重要です。
  • 就業規則で政治活動やビラ配布を禁止する場合でも、形式的な違反ではなく、実質的に職場秩序を乱す行為に限定するべきです。個別の事情に応じた柔軟な対応が求められます。
  • 規制を設ける際は、労働組合や従業員と十分協議し、理解を得ながら進めてください。一方的な規制は紛争の原因となりかねません。
  • 規制の内容とその理由については、従業員に対して丁寧に説明し、周知徹底を図る必要があります。規制の合理性が理解されなければ遵守は困難です。

従業員の方へ

  • 休憩時間の自由利用は保障された権利ですが、職場秩序維持のための合理的規制は従わなければなりません。
  • 政治活動やビラ配布など、形式的には違反に見えても、実質的に秩序を乱さなければ違反とはならない可能性があります。
  • 規制の内容や根拠については、使用者から丁寧な説明を受ける権利があります。納得がいかない場合は労働組合や労基署に相談してください。
  • 原則として休憩時間中の事故は労災にはなりませんが、使用者の指揮命令下にあれば労災と認められる場合もあります。