電電公社帯広電報電話局事件【業務命令と懲戒処分の有効性】

頸肩腕症候群の精密検診を受診するよう業務命令された従業員が、これを拒否し、職場を離脱したことで懲戒処分を受けた事件

争点・結論

業務命令の効力と懲戒処分の有効性が争われました。最高裁判所は、就業規則に基づく業務命令は、労働契約の内容となっており、従業員はこれに従う義務があるとしました。また、懲戒処分は、社会通念上著しく妥当を欠くものではなく、裁量権の範囲内で行われたとしました。そのため、業務命令の効力を肯定し、懲戒処分の有効性を認め、従業員の訴えを棄却しました。

判旨

業務命令の根拠は、労働者がその労働力の処分を使用者に委ねることを約する労働契約にある。労働者は、使用者に対して一定の範囲での労働力の自由な処分を許諾して労働契約を締結するものであるから、その一定の範囲での労働力の処分に関する使用者の指示、命令としての業務命令に従う義務がある。使用者が業務命令をもって指示、命令することのできる事項であるかどうかは、労働者が当該労働契約によってその処分を許諾した範囲内の事項であるかどうかによって定まるものであって、この点は結局のところ当該具体的な労働契約の解釈の問題に帰するものということができる。ところで、労働条件を定型的に定めた就業規則は、一種の社会的規範としての性質を有するだけでなく、その定めが合理的なものであるかぎり、個別的労働契約における労働条件の決定は、その就業規則によるという事実たる慣習が成立しているものとして、法的規範としての性質を認められるに至っており、当該事業場の労働者は、就業規則の存在及び内容を現実に知っていると否とにかかわらず、また、これに対して個別的に同意を与えたかどうかを問わず、当然にその適用を受けるというべきであるから(最高裁昭和43年12月25日大法廷判決〈秋北バス事件〉)、使用者が当該具体的労働契約上いかなる事項について業務命令を発することができるかという点についても、関連する就業規則の規定内容が合理的なものであるかぎりにおいてそれが当該労働契約の内容となっているということを前提として検討すべきこととなる。換言すれば、就業規則が労働者に対し、一定の事項につき使用者の業務命令に服従すべき旨を定めているときは、そのような就業規則の規定内容が合理的なものであるかぎりにおいて当該具体的労働契約の内容をなしているものということができる。以上の次第によれば、Xに対し頸肩腕症候群総合精密検診の受診方を命ずる本件業務命令については、その効力を肯定することができ、これを拒否したYの行為は公社就業規則59条3号所定の懲戒事由にあたるというべきである。そして、前記の職場離脱が同条18号の懲戒事由にあたることはいうまでもなく、以上の本件における2個の懲戒事由及び前記の事実関係にかんがみると、原審が説示するように公社における戒告処分が翌年の定期昇給における昇給額の4分1減額という効果を伴うものであること(公社就業規則76条4項3号)を考慮に入れても、公社がXに対してした本件戒告処分が、社会通念上著しく妥当を欠き、裁量権の範囲を超え、これを濫用してされた違法なものであるとすることはできないというべきである。

解説

この判決は、就業規則に基づく業務命令の効力と懲戒処分の有効性について、秋北バス事件の判決の考え方を踏襲したものと言えます。就業規則は、労働契約の内容を定める法的規範としての性質を有し、労働者は、就業規則の内容に従う義務があります。業務命令は、労働契約の内容となっている就業規則に基づいて発せられるものであり、労働者は、これに従う義務があります。懲戒処分は、使用者の裁量権の範囲内で行われるものであり、社会通念上著しく妥当を欠くものでない限り、違法とはなりません。本件では、業務命令は、労働力の処分に関する使用者の指示、命令としての業務命令は、労働契約の内容となっており、従業員はこれに従う義務があるとしました。また、懲戒処分は、社会通念上著しく妥当を欠くものではなく、裁量権の範囲内で行われたとしました。そのため、業務命令の効力を肯定し、懲戒処分の有効性を認め、従業員の訴えを棄却しました。

関連条文:労働契約法第15条、労働基準法第16条

電電公社帯広電報電話局事件から学ぶべき事柄

就業規則に基づく業務命令は、労働契約の内容となっており、従業員はこれに従う義務がある。
業務命令は、労働者の労働力の処分に関する使用者の指示、命令であり、労働者の健康や安全を考慮した合理的なものである必要がある。
懲戒処分は、使用者の裁量権の範囲内で行われるものであり、社会通念上著しく妥当を欠くものでない限り、違法とはならない。

関連判例

日本航空事件(就業規則に基づく業務命令):この事件では、業務命令は、労働者の健康や安全を考慮した合理的なものではなく、労働者の人格権を侵害するものであるとされました。
日本航空機内販売事件(懲戒処分の有効性):この事件では、懲戒処分は、社会通念上著しく妥当を欠き、裁量権の範囲を超え、これを濫用してされた違法なものであるとされました。

注意すべき事柄

就業規則の内容を見直し、労働契約の内容として合理的で明確なものにすること。必要に応じて、労働者の同意や労働基準法第16条の手続きを行うこと。
業務命令を発する場合は、就業規則に基づいており、労働者の健康や安全を考慮した合理的なものであることを確認すること。業務命令に従わない労働者に対しては、懲戒処分の可能性を通知すること。
懲戒処分を行う場合は、適正な手続きを踏むこと。懲戒事由や懲戒の種類と程度を明示し、社会通念上著しく妥当を欠くものでないことを確認すること。

経営者・管理職の方へ

  • 就業規則の内容を見直し、労働契約の内容として合理的で明確なものにしてください。
  • 業務命令は就業規則に基づき、労働者の健康・安全を考慮した合理的なものにする必要があります。
  • 懲戒処分は慎重に検討し、手続きを適正に行ってください。社会通念上著しく妥当性を欠かないことが重要です。

従業員の方へ

  • 就業規則に基づく業務命令には原則として従う義務があります。
  • 業務命令が健康や安全を脅かすものであれば拒否できる場合もありますが、慎重に対応する必要があります。
  • 懲戒処分に不服がある場合は、労働組合や労基署に相談してください。