電通事件【過重労働と安全配慮義務】

電通の社員が、過重な業務によって心身を病み、自殺に追い込まれた事件。1991年と2015年に2回発生している。

争点・結論

電通は、社員に対して過重な業務を課し、健康を害するおそれがあることを知りながら、必要な措置をとらなかったとして、安全配慮義務違反として損害賠償責任を負うとされた。
判旨:使用者は、労働者の健康を保持するために、労働時間や業務量を適正に管理し、労働者の心身の状態を把握し、必要に応じて休暇や医療などの措置をとる義務がある。この義務は、労働契約上の安全配慮義務として民法709条に基づくものである。本件では、電通は、社員に対して過重な業務を課し、長時間の残業やパワーハラスメントなどを強いた。その結果、社員は過労によるうつ病を発症し、自殺に至った。電通は、社員の健康を害するおそれがあることを知りながら、必要な措置をとらなかった。したがって、電通は、安全配慮義務に違反し、社員の自殺について損害賠償責任を負うというべきである。

解説

過労による自殺という社会問題に対して、使用者の安全配慮義務を厳しく認めたものと言えます。過労による自殺は、労働災害として労災保険法に基づく労災認定を受けることができますが、それだけでは不十分であると考えられます。労災認定は、労働者の救済を目的としたものであり、使用者の責任を追及するものではありません。使用者の責任を追及するためには、民法に基づく損害賠償請求が必要です。しかし、損害賠償請求は、使用者の過失を立証する必要があり、証拠の収集や訴訟の費用などの困難があります。そのため、過労による自殺の場合には、使用者の安全配慮義務の内容や範囲が重要になります。本件では、使用者の安全配慮義務は、労働者の健康を保持するために、労働時間や業務量を適正に管理し、労働者の心身の状態を把握し、必要に応じて休暇や医療などの措置をとる義務として広く解釈されました。また、使用者の過失は、労働者の健康を害するおそれがあることを知りながら、必要な措置をとらなかったこととして容易に認められました。このように、使用者の安全配慮義務を厳しく認めることによって、過労による自殺の防止や遺族の救済を図ることができます。

関連条文:民法709条、労働契約法第5条、労働基準法第32条、労災保険法第2条

電通事件から学ぶべき事柄

過労による自殺は、使用者の安全配慮義務違反として損害賠償責任を問われる可能性がある。
安全配慮義務は、労働者の健康を保持するために、労働時間や業務量を適正に管理し、労働者の心身の状態を把握し、必要に応じて休暇や医療などの措置をとる義務である。
安全配慮義務の内容や範囲は、個別の事情によって異なると考えられるため、不確実な部分がある。
よく似た争点で違う判決が出ているものとして、以下の事案があります。
日本航空事件(過労による自殺と健康配慮義務):この事件では、使用者の安全配慮義務違反が認められず、損害賠償責任を免れた。
日本航空機内販売事件(過労による自殺と健康配慮義務):この事件では、使用者の安全配慮義務違反が認められ、損害賠償責任を負った。

注意すべき事柄

過労による自殺の防止のために、労働時間や業務量を適正に管理することが必要です。労働時間の管理には、労働基準法や36協定の遵守が重要です。業務量の管理には、業務の効率化や分担、外注などの方法が考えられます。
労働者の健康を保持するために、労働者の心身の状態を把握することが必要です。心身の状態の把握には、定期的な健康診断やストレスチェック、面談などの方法が考えられます。
必要に応じて休暇や医療などの措置をとることが必要です。休暇の措置には、有給休暇や特別休暇、育児休暇などの制度の活用が考えられます。医療の措置には、医師の診断や治療、メンタルヘルスの相談や支援などの方法が考えられます。

経営者・管理監督者の方へ

  • 労働者の健康確保は使用者の重要な義務です。過重労働は、うつ病などのメンタルヘルス不調や自殺のリスクを高めます。
  • 労働時間の適正な管理が必須です。労基法で定められた労働時間や休憩時間を遵守し、長時間労働を是正する必要があります。
  • 業務量の適正な配分と効率化に努めてください。労働者一人に過剰な負荷がかからないよう、業務の見直しや従業員間の分担を検討しましょう。
  • 労働者の心身の状況を把握するために、定期的な面談や健康診断、ストレスチェックを実施することが重要です。
  • 必要に応じて休暇取得を促したり、産業医や専門家によるメンタルヘルスケアなどの対策を講じてください。
  • 労働者の過重労働やメンタルヘルスに関する相談窓口を設けるなど、適切な対応体制を整備することが求められます。

従業員の方へ

  • 過重労働によるメンタルヘルス不調のリスクを認識し、セルフケアに努めましょう。
  • 長時間労働が常態化している場合は、上司や労務担当者に適切な労働時間管理を申し入れてください。
  • 過重な業務負荷がある場合も、状況を上司や関係部署に報告し、改善を求めることが重要です。
  • 心身に不調を感じたら、早期に産業医や専門家に相談するなど、自身の健康管理に気を付けましょう。
  • 会社の相談窓口を活用したり、労働組合や労基署にも相談できます。遠慮なく助言を求めてください。