神戸弘陵学園事件
私立の高校(学園)が社会科の教員(常勤講師)を採用する際に、契約期間を1年間とし、その間の勤務状態を見て再雇用するかどうか判定するという条件で雇用契約を締結した。契約期間満了時に学園は教員に再雇用しない旨を通知し、雇用契約を終了した。教員はこれを不服として、雇用契約の終了は無効であり、自分の地位を確認するように求めて学園を提訴した。
採用面接では、理事長が口頭で「契約期間は1年間」「勤務状態を見て再雇用するか判定する」と説明し、採用後の契約書には「1年間の期限が満了したときは、満了日に当然に退職の効果が生じる」と記載されていました。
争点・結論
私立の高校が1年間の期間を定めて教員を採用した事案で、契約期間満了で雇い止めすることを前提にしていたのか、その1年間を試用期間として設定していたのかが争われました。
仮に、1年の「契約期間」を定めた有期労働契約であり、期間満了で終了する(更新しない)ことが前提だったと評価される場合には、原則として期間満了により契約は終了しますが、更新(継続雇用)への合理的な期待を生じさせる事情があると、労働契約法19条の枠組みで雇止めの有効性が争点化し得ます。
他方、期間設定の趣旨・目的が労働者の適性評価(いわゆる試用)であると評価される場合には、1年経過時の本採用拒否(留保解約権の行使)には、客観的に合理的な理由があり社会通念上相当といえることが必要になります。
そして神戸弘陵学園事件では、期間設定の趣旨・目的が適性評価であるときは、期間満了で当然に終了する旨の明確な合意が成立しているなどの特段の事情が認められる場合を除き、その期間は契約の存続期間ではなく試用期間と解するのが相当である、という考え方が示されました。
もっとも、「契約期間の満了により雇用契約が当然に終了する」旨の明確な合意(条項)を設けることは重要ですが、それだけで期間満了時の雇止めが常に問題にならないと断定することはできません。
採用時・採用後の説明や運用(更新を繰り返している、更新を期待させる言動がある等)によって更新(継続雇用)への期待が形成されている場合には、労働契約法19条の枠組みで雇止めの有効性が争点となり得るため、契約書の文言だけでなく更新判断の基準・手続や運用面も含めて整理しておくことが重要です。
この内容を雇用契約書に記載すること自体は考えられますが、運用として更新期待を抱かせる事情があると、雇止めが争点化し、無効と判断される可能性が高まります。
関連条文:労働契約法17条(契約期間中の解雇等)、19条(有期労働契約の更新等)
神戸弘陵学園事件から学ぶべき事柄
試用期間として有期労働契約を結ぶ場合は、契約書に期間満了による契約終了の明確な合意を記載することが必要です。
試用期間の解約権の行使には客観的に合理的な理由が必要であり、社会通念上相当とされる場合にのみ許されます。
試用期間は労働者の適性を判断するのに必要な合理的な期間に限られ、長期の試用期間は公序良俗に反し無効となります。
関連判例
トライアル雇用制度を利用して採用した労働者に対して、契約期間満了後に再雇用しない旨を通知した場合、その通知は解雇にあたるとされた事案です。この事案では、契約書に期間満了による契約終了の明確な合意が記載されていたにもかかわらず、採用面接や契約書交付時に長期雇用を期待させるような言動をしていたことが問題となりました。
注意すべき事柄
試用期間として有期労働契約を結ぶ場合は、契約書に期間満了による契約終了の明確な合意を記載するだけでなく、採用面接や契約書交付時にも有期雇用であることを念押しすることが重要です。また、契約期間満了後に継続して雇用する場合には、新たに契約書を作成し、試用期間と本採用との一体性を断つことが必要です。
試用期間の解約権の行使には客観的に合理的な理由が必要であることを認識し、労働者の適性や勤務状況を適切に評価する仕組みを整備することが望ましいです。また、解約権の行使に際しては、労働者に事前に通知し、必要に応じて聴聞や再就職支援などの措置を講じることが求められます。
試用期間は労働者の適性を判断するのに必要な合理的な期間に限られることを理解し、長期の試用期間を設定しないことが重要です。試用期間の長さは、職種や業務内容、研修や指導の方法などに応じて決める必要がありますが、一般的には3か月から6か月程度が妥当とされています。
経営者・管理監督者の方へ
- 試用期間を設けて有期労働契約を締結する場合、契約書に「期間満了時に契約は終了する」旨の明確な合意条項を記載することが重要です。
- 採用面接時や契約締結時には、有期雇用であり期間満了で終了することを明確に説明し、長期雇用を期待させるような発言は避けましょう。
- 試用期間満了後に継続雇用する場合は、新たな無期労働契約を結ぶなど、試用期間と本採用との一体性を断つ措置が必要です。
- 試用期間中の解雇(雇止め)には、客観的に合理的な理由が必要です。労働者の適性評価基準を明確にし、公正な運用を心がけましょう。
- 試用期間は職種や研修内容に応じて適切な期間を設定しましょう。一般的には3~6か月程度が望ましいとされています。
- 試用期間満了に伴う雇止めの場合も、事前の通知や再就職支援など、一定の手続的保護は必要と考えられます。
従業員の方へ
- 有期労働契約の場合、契約書に契約終了の明確な規定があれば、期間満了で雇止め(退職)となる可能性があることに留意が必要です。
- 採用時に長期雇用を期待させる発言があれば、それは契約内容と異なる可能性があります。状況を具体的に確認しておきましょう。
- 試用期間中の解雇(雇止め)には、会社側に合理的な理由が求められます。自身の適性評価基準を確認し、納得できない場合は異議申し立てが可能です。
- 試用期間満了後に継続雇用された場合でも、改めて無期労働契約を結ぶなどの手続が必要な場合があります。
- 試用期間の運用が不当と思われる場合は、会社への是正要求や、労働組合、社労士などの第三者による支援を求めることも検討できます。
