WBGT値ってなに?気温だけでは分からない熱中症の本当の危険

WGBT

気温だけでは分からない熱中症の本当の危険

実際に、気温29℃の日に熱中症で救急搬送された営業マンがいます。一方で、気温35℃でも元気に作業を続けられる日もあります。この違いは何でしょうか?

答えは「WBGT値」という新しい暑さの基準にあります。2025年6月1日から、この基準による熱中症対策が法的義務となり、知らなかったでは済まされない状況になりました。

もしあなたが担当者なら、今すぐ知っておくべき重要な情報があります。

「うちは小さな会社だから関係ない」「エアコンがあるから大丈夫」──そう思っていませんか?実は、どんな会社も例外はありません。しかも、エアコンがあっても危険な状況は起こり得るのです。

今回は、今日からできる対策をお伝えします。8,000円の機器を買うだけで始められる方法もご紹介しますので、ぜひ最後までお読みください。

WBGT値は「体が感じる本当の暑さ」を表す数字

WBGT値(ダブリュービージーティー値)は、正式には「湿球黒球温度」と呼ばれる暑さの指標です。普通の気温計では分からない「体が実際に感じる暑さ」を数字で表したものです。

なぜ気温だけではダメなのか?

  • 気温:空気の温度だけを測る
  • WBGT値:湿度・輻射熱・気温をまとめて測る

例えば、同じ気温30℃でも:

  • カラッとした日:体は涼しく感じる
  • ジメジメした日:体はとても暑く感じる

この違いをきちんと数字で表すのがWBGT値です。

世界中で使われている安全な基準

WBGT値は1950年代にアメリカで作られ、今では世界中で使われている国際基準です。日本でも、スポーツの現場から工場や建設現場まで、幅広く活用されています。

気温だけでは分からない熱中症の本当の危険

事例1:小さな工場での出来事(従業員25名)
7月のある日、気温32℃の工場で、ベテラン作業員のBさんが突然倒れました。「気温はそれほど高くないから大丈夫」と思っていましたが、実際のWBGT値は35℃を超えていました。湿度が85%と高く、機械からの熱も重なった結果でした。幸い命に別状はありませんでしたが、3日間入院することになりました。

事例2:配送会社での出来事(従業員15名)
営業担当のDさんがお客様を訪問中に熱中症で倒れ、救急車で運ばれました。その日の気温は29℃でしたが、湿度90%の梅雨時期で、WBGT値は31℃の「危険」レベルでした。「気温30℃以下だから安全」という判断が間違いだった事例です。

湿度70%の恐ろしい影響

人間の体は汗の蒸発によって体温を下げますが、湿度が高いと汗が蒸発しにくくなります。WBGT値の計算では、なんと湿度が70%も影響するのです。

同じ気温35℃でも:

  • 湿度50%の場合:WBGT値約30℃(厳重警戒)
  • 湿度80%の場合:WBGT値約33℃(危険)

この差は、作業継続の可否を左右する重要な違いです。

WBGT値とは何か?3つの要素で決まる「本当の暑さ」

WBGT値(Wet Bulb Globe Temperature:湿球黒球温度)は、熱中症の危険性を総合的に評価する国際的な指標です。

3つの構成要素

1. 湿度(70%の影響)
汗の蒸発のしやすさを表します。湿度が高いほど体温調節が困難になり、熱中症リスクが急激に上昇します。

2. 輻射熱(20%の影響)
太陽光、アスファルト、機械、炉などから放射される熱です。直射日光下では気温より10℃以上高くなることもあります。

3. 気温(10%の影響)
私たちが普段「暑さ」として感じる温度です。意外にも、WBGT値への影響は全体の1割程度に過ぎません。

身近な例での比較

環境気温湿度輻射熱WBGT値危険度
エアコン付き事務所28℃50%24℃注意
梅雨時の倉庫作業30℃85%31℃危険
真夏の屋外作業33℃70%34℃危険
高温工場内35℃60%33℃危険

中小企業も例外なし!新しい法的義務

対象となる条件

以下のいずれかに該当する作業を行う事業者は、企業規模に関係なく対象となります

  • 気温31℃以上の環境での作業
  • WBGT値28℃以上の環境での作業
  • 連続して1時間以上行われる作業

中小企業での具体的な適用例

営業・配送業務:外回り営業、宅配業務、工事現場への移動作業
小規模製造業:町工場での機械操作、食品加工場での作業
サービス業:屋外イベント設営、清掃業務、警備業務
建設・土木業:住宅建築、道路工事、設備工事

違反時のリスク

刑事罰:6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金(労働安全衛生法第119条)
民事責任:安全配慮義務違反による損害賠償(過去の判例では数千万円規模)
社会的制裁:企業名公表、取引停止、入札参加資格停止

「知らなかった」「小さな会社だから」は通用しません。2025年6月1日から既に施行されている法的義務です。

8,000円のWBGT計で始める実践的対策

機器選定の実例

小規模倉庫F社(従業員12名)の成功事例
「法改正を知って慌てましたが、インターネットで約8,000円のWBGT計を購入し、すぐに測定を開始しました。思っていたより簡単で、今では毎日の習慣になっています」(F社・総務担当者談)

5段階リスク区分による判断基準

WBGT値危険度対応措置作業時間の目安
31℃以上危険原則作業中止中止推奨
28-31℃厳重警戒積極的休憩30分作業・30分休憩
25-28℃警戒定期的休憩1時間作業・15分休憩
21-25℃注意適宜水分補給通常作業・水分補給強化
21℃未満ほぼ安全通常作業通常通り

測定の実践方法

測定タイミング:朝(9時)・昼(13時)・夕方(16時)の3回
設置場所:作業場所から1.5m以内、地上1.2m程度の高さ
記録方法:簡単なエクセル表に日時・WBGT値・対応措置を記録

知っておきたい支援制度

熱中症対策の設備導入には、国や自治体の補助制度が利用できる場合があります。

主な支援制度

  • エイジフレンドリー補助金:中小企業の職場環境改善に対する国の補助制度
  • 職場環境改善助成金:都道府県労働局による支援
  • 地方自治体の補助:WBGT計購入費などを補助する自治体も多数

WBGT計の購入費用(8,000円程度)も対象となる場合がありますので、導入前に一度確認してみることをお勧めします。
詳細は各制度の窓口や、お近くの社会保険労務士にご相談ください。

今日から始める3つのこと

STEP1(今日中にできること)

WBGT計の注文
インターネットで「WBGT計」と検索し、機器を注文してください。主要メーカー(タニタ、シンワ測定、佐藤計量器など)の製品であれば基本的性能は満たしています。

環境省の熱中症警戒アラート登録
LINEで「熱中症警戒アラート」を友だち登録すると、WBGT33℃以上の予測時に自動通知されます。

社内への制度説明
朝礼で10分程度、「6月から熱中症対策が法的義務になった」「WBGT計を導入する」ことを説明してください。

STEP2(1週間以内)

測定責任者の指名
総務担当者や現場責任者など、毎日出勤する方を指名してください。

簡単な記録表の作成
エクセルで以下の項目を含む表を作成

  • 日付・時刻
  • WBGT値
  • 危険度レベル
  • 実施した対応措置
  • 測定者名

休憩場所の確保
新たに設置する必要はありません。既存の休憩室、エアコンのある事務所、日陰のスペースなどを活用してください。

STEP3

従業員への基礎教育
30分程度の説明会を実施

  • WBGT値の基本的な考え方
  • 5段階の危険度レベル
  • 各自が注意すべきポイント
  • 体調不良時の報告方法

緊急時連絡体制の確認
既存の報告体制があれば、それを熱中症にも適用してください。体制が未整備の場合は、別途整備が必要です。

補助金申請の検討
エイジフレンドリー補助金などの申請を検討し、必要に応じて社会保険労務士などの専門家に相談してください。

よくある中小企業の疑問Q&A

Q:エアコンのある事務所でも測定が必要ですか?
A:エアコンが効いていても、湿度が高い日や機器の発熱がある場合、WBGT値が基準を超えることがあります。特に梅雨時期や、コピー機・サーバーなどの発熱機器がある場所では注意が必要です。一度測定してみて、常に25℃以下であることが確認できれば、測定頻度を減らすことも可能です。

Q:営業の外回りも対象になりますか?
A:はい、対象になります。特に夏場の外回り営業は高リスクです。携帯型のWBGT計(約15,000円)を営業車に常備し、訪問先での測定を習慣化することをお勧めします。また、環境省の熱中症警戒アラートを活用し、危険日は訪問スケジュールの調整も検討してください。

Q:パート・アルバイトも含まれますか?
A:はい、雇用形態に関係なく、熱中症リスクのある作業に従事するすべての方が対象です。短時間勤務であっても、作業環境が基準を超える場合は同等の対策が必要です。

Q:測定を忘れた日があったら違法になりますか?
A:法律では「適切に測定・把握する」ことが求められていますが、1日忘れただけで即座に違法となるわけではありません。ただし、継続的な測定が前提ですので、忘れないよう測定時刻にアラームを設定するなどの工夫をしてください。

Q:他社はどの程度対応していますか?
A:2025年6月の施行から間もないため、まだ対応が追いついていない企業も多いのが現状です。しかし、建設業や製造業では積極的な導入が進んでおり、今後急速に普及すると予想されます。早めの対応が競争優位性にもつながります。

測定だけでは不十分!緊急時の報告体制も整備しましょう

WBGT値による予防的判断は非常に重要ですが、それでも熱中症の症状が出てしまった場合の対応体制も必要です。

予防と対応の両輪

  • WBGT値測定:症状が出る前の予防的判断
  • 報告体制:症状が出た時の迅速な対応

実際に症状が出た時、「誰に」「どのように」「どの順番で」報告するかが明確でないと、初動の遅れが重大な結果を招きかねません。

次のステップとして
WBGT値による科学的判断と併せて、緊急時の報告体制も整備することで、包括的な熱中症対策が完成します。報告体制の具体的な構築方法については、こちら(熱中症対策義務化スタート!まず整備すべき「報告体制」の作り方)の記事で詳しく解説していますので、ぜひご参照ください。


まとめ

熱中症対策の法的義務化は、従業員の命を守るための重要な制度です。「気温だけでは分からない本当の危険」をWBGT値で科学的に判断し、適切な対策を講じることで、安全な職場環境を実現できます。

今日からできることから始めて、段階的に体制を整えていきましょう。従業員の健康と安全を守ることは、企業の持続的発展にとって最も重要な投資です。

【参考資料・出典】 以下の資料を参考に作成しています
・厚生労働省「働く人の熱中症ガイド
・環境省「熱中症予防情報サイト」の各種資料
・日本救急医学会「熱中症診療ガイドライン2024
・労働安全衛生規則第612条の2(2025年6月1日施行)

【注意事項】
本記事の内容は2025年6月時点の法令・制度に基づいています。
最新の情報については、厚生労働省や環境省の公式サイトをご確認ください。
具体的な対策の実施については、産業医や労働安全衛生の専門家にご相談することをお勧めします。


【熱中症対策の助成金活用もサポートいたします】

2025年6月から義務化された熱中症対策について、当事務所では法的対応だけでなく、 対策費用を軽減できる各種助成金の申請サポートも行っております。
・エイジフレンドリー補助金(空調服・スポットクーラー等、上限100万円)
・業務改善助成金(休憩所整備等、最大600万円)
これらの助成金を活用することで、熱中症対策にかかる費用負担を大幅に軽減できます。
法令遵守から助成金申請まで、トータルでサポートいたします。

ご不明点やご相談は上本町社会保険労務士事務所までお気軽にお問い合わせください。
従業員の健康と安全を守るお手伝いをいたします!

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