ご相談内容【想定相談事例】
大阪市内で従業員30名の会社を経営しています。メンタル不調で3か月間休職していた社員が、先月復職しました。
主治医からは「元の部署への復帰は再発リスクが高い」という意見があったため、会社として別の部署への配置転換を提案しました。
ところが、本人から「元の部署に戻りたい。別の部署には行きたくない」と強く拒否されています。会社としては再発を防ぐためにやっていることなのに、拒否されると困ります。
会社は配置転換を強制できるのでしょうか?また、本人が拒否した場合、元の部署に戻して再発したら、会社の責任になるのでしょうか?
お悩み
- 本人が拒否しても、配置転換を命じることはできる?
- 拒否された場合、元の部署に戻してよい?
- 安全配慮義務との関係はどうなる?
結論:就業規則に根拠があれば配置転換命令は可能。ただし、本人の意向を無視した強行にはリスクがある
結論から申し上げますと、就業規則に配置転換の根拠規定があれば、会社は原則として本人の同意がなくても配置転換を命じることができます。一方で、拒否された場合に無理に強行したり、逆に何もしないまま元の部署に戻したりすることにも、それぞれリスクがあります。
復職後の配置転換のポイント
① 就業規則に根拠規定があれば、配置転換命令は有効(権利濫用にならない限り)
② 主治医・産業医の意見に基づく配置転換は、安全配慮義務を果たすための正当な措置として認められやすい
③ 本人が拒否しても、拒否そのものが懲戒事由になりうる場合がある
④ 元の部署に戻して再発した場合、会社の安全配慮義務違反が問われるリスクがある
判断に迷う場合は、面談・記録・産業医の意見を積み重ね、慎重に対応することが重要です。
会社に「配置転換命令権」はあるか
就業規則に根拠規定があることが前提
会社が従業員に配置転換を命じるには、労働契約または就業規則に「業務上の必要がある場合、勤務場所や業務の変更を命じることができる」といった根拠規定が必要です。
根拠規定がある場合
→ 原則として、本人の同意がなくても配置転換を命じることができる
根拠規定がない場合
→ 本人の同意なく配置転換することは難しく、合意が必要になる
まずは自社の就業規則を確認し、配置転換の根拠規定があるかどうかを確かめてください。
配置転換が「人事権の濫用」になる場合は無効
就業規則に根拠があっても、次のような場合は人事権の濫用として無効になることがあります。
- 配置転換する業務上の必要性がまったくない場合
- 不当な目的(本人を追い出したいなど)に基づく場合
- 本人が通常甘受すべき程度を著しく超える不利益がある場合(大幅な減給、転居を伴う遠方への転勤など)
今回のように「再発防止」という合理的な理由がある場合は、人事権の濫用とは判断されにくく、配置転換命令が有効と認められる可能性が高いです。
安全配慮義務と配置転換の関係
会社には安全配慮義務がある
労働契約法第5条は、「使用者は、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と定めています。
これを「安全配慮義務」といい、会社はメンタル不調で復職した社員に対しても、再発を防ぐための配慮を行う義務があります。
元の部署での業務が再発リスクになる場合
主治医や産業医が「元の部署への復帰は再発リスクが高い」と判断している場合、それを無視して元の部署に戻し、再発した場合は、安全配慮義務違反として会社の責任が問われるリスクがあります。
裁判例では、専門家(産業医など)の勧告に基づいた配置転換は、安全配慮義務を果たすための正当な措置として、有効と判断される傾向があります。
本人が拒否しても、会社の配慮義務はなくならない
本人が「元の部署に戻りたい」と主張しても、会社の安全配慮義務がなくなるわけではありません。本人の希望を尊重しつつも、再発リスクを会社として管理する責任は残ります。
本人が拒否した場合の対応フロー
まず「なぜ拒否するのか」を丁寧にヒアリング
拒否の理由の例
- 「元の部署でやり残したことがある」
- 「配置転換先の仕事が自分に合わない」
- 「給与・待遇が下がることへの不安」
- 「人間関係が不安」
- 「会社に不信感がある」
理由を把握せずに話を進めると、本人の不満が高まり、対立が深まります。まずは本人の言い分を丁寧に聞くことが先決です。
産業医・主治医の意見を示す
「会社が勝手に決めた」という印象を与えないために、主治医や産業医の意見を書面や面談の場できちんと説明します。
伝え方の例
- 「先生からは、元の部署での業務再開は再発リスクが高いと言われています」
- 「会社としてはあなたの体調を守りたいから、この提案をしています」
- 「あなたが安心して働けるよう、一緒に考えたいと思っています」
「追い出したいから異動させようとしている」という誤解を解くことが、話し合いを前進させる上で非常に重要です。
記録を残す
話し合いの経緯・本人の主張・会社の対応をすべて記録に残します。
記録すべき内容
- 面談の日時・場所・参加者
- 配置転換の提案内容と理由
- 本人の回答・主張
- 産業医・主治医の意見の内容
この記録が、後のトラブル防止や、万が一の際の会社の立証材料になります。
拒否が続く場合の選択肢
話し合いを重ねても拒否が続く場合は、以下のような対応を検討します。
- 就業規則に基づいて配置転換命令を発令し、従わない場合は懲戒処分(けん責など)の対象となることを説明する
- 配置転換先の条件(業務内容・待遇など)を本人が受け入れやすいよう調整する
- 段階的な移行(まず元の部署で業務を一部軽減し、徐々に移行するなど)を提案する
いきなり強行せず、段階を踏んで丁寧に進めることが大切です。
よくある質問
Q1:本人が「配置転換なら退職する」と言った場合は?
A:退職を強要・示唆するような言い方には注意が必要ですが、本人が自ら「退職する」と言う場合は、その意思確認を慎重に行います。感情的になっている場合は、少し時間をおいて改めて確認しましょう。退職を「脅し」のような形で使っている場合は、冷静に「退職の手続きについては改めて確認します」と伝えます。
Q2:配置転換先で給与が下がる場合、本人の同意は必要?
A:給与の大幅な引き下げを伴う配置転換は、本人に著しく不利益な変更として無効と判断されるリスクがあります。給与の取り扱いについては、事前に丁寧に説明し、可能な限り配慮することが望ましいです。
Q3:配置転換の根拠規定が就業規則にない場合はどうする?
A:まずは就業規則を整備することが必要です。今回のケースについては、本人との合意によって配置転換を進める方向で話し合いを行います。
Q4:復職後に再発した場合、会社はどこまで責任を負う?
A:再発した場合も、安全配慮義務(労働契約法第5条)は継続して適用されます。会社は再発の経緯を確認し、必要に応じて再度の休職・復職支援プランの見直し・職場環境の改善などの対応が求められます。
まとめ
復職後の配置転換と安全配慮義務の関係については、
- 就業規則に根拠規定があれば配置転換命令は可能で、主治医・産業医の意見に基づく場合は正当性が高い
- 元の部署に戻して再発した場合、安全配慮義務違反として会社の責任が問われるリスクがある
- 本人が拒否した場合は、理由を丁寧にヒアリングし、説明・説得を重ねながら記録を残す
- 就業規則に根拠があれば、最終的には配置転換命令を発令することも可能
という点を押さえておく必要があります。
上本町社会保険労務士事務所では、復職支援プランの作成サポート、就業規則の配置転換規定の整備、産業医との連携方法のアドバイスなどを通じて、復職後のトラブルを防ぐ労務管理をお手伝いしています。
「復職後の配置転換について判断に迷っている」
「就業規則の配置転換規定を整えたい」
そんなお悩みがあれば、まずはお気軽にご相談ください。

